第37話 新たな生活
ここは、ハンシェミント国の王立学院。
この建物は、お城のイメージに近い建物で、赤レンガで作られている。正面の中央の最上階には三角屋根の中に鐘がぶら下がり、そのすぐ下には時計がある。そして始業、終業時間になると、カラーン、カラーンとその鐘の音が鳴り響く。
そんな学院は本日から新学期が始まり、私はここに3年間(予定)留学することになったのである。
私の名前はレミリア。
ブロッサム伯爵家の……養女として育ち、髪は綺麗なシルバーブロンドの髪にアメジストに似た色の瞳――っていうのは偽りの姿で、ドルーニア国出身のエミーリア・レグルス。
レグルス伯爵家の長女として生まれ、髪色も本来は黒。髪はシルバーブロンドに染めてみた。
理由あって、兄の婚約者のルシア様のブロッサム家から家名をお借りしての留学だった。
その理由というのが、レグルス家の人間だと分からないようにするためである。
それは何故かと言うと、ハンシェミント国に私の身分が知られるとややこしいらしく、両親は変装をしての留学ならと、許可してくれた。
その身分と言うのが、私がこの国、ハンシェミント国の王位継承8位という事である。
この国では王位継承権がある者は、必ずこの国に滞在中は、王家からの護衛を付けないといけないらしい。
ああああ! そんな護衛までいらない!
心の中で、淑女らしからぬ声で叫んだ。
だって、私は自由に過ごしたい!! っていうのが本音である。護衛なんかいたら、制限がついて自由に出来ないんですもの!
そういう事情があり、本日から私はレミリア・ブロッサムと名乗る事になった。
本当にややこしいですが、よろしくお願いします。
ちなみに全寮制なので居住は寮となった。一週間前からこの寮に住み始め、そしてちょっとした会話をする友人も出来た。それが、彼女。丸い眼鏡が印象的なカノン・ドローワ子爵令嬢。お年は確か13歳で私の2つ年下。
「レミリア様、今日から一緒に学院に通えるなんてとっても嬉しいです!」
緑色の瞳をキラキラとさせ、両手を握られブンブンと上下に腕ごと振られる。彼女のテンションも高く、家族と離れて寂しいと言う気持ちも何処かに行ってしまうほど。とても、明るい令嬢である。
そして、もう一人。クリスティーナ・トーラ侯爵令嬢。彼女は私と同じで15歳。藤色の髪に瞳は金色。とても綺麗で透き通った瞳の中に金色がキラキラとしている。
初めて彼女と会った時は、凄く綺麗でじっと見入ってしまい、そんな私を彼女は気持ちが悪いと言っていた。
そして、彼女はこの国の王太子の婚約者候補だとか。
正式な婚約者はまだ決まっていないらしい。
婚約者候補に選ばれているクリスティーナ様は喜んでいるのかと思えば、「出来れば辞退したいわ」と嘆いていた。
もし自分が同じ立場なら、勘弁してほしいと思うけれど、どうして辞退したいのか、詳しい話までは訊いていない。
一時は、候補者は10人近くいたらしいけれど、なかなかダリル殿下が決めかねていたら、皆、辞退し他の男性と婚約を決めてしまったのである。そして3人に絞られたというより、3人が残った。その内一人がクリスティーナ様で、他の二人はこの国のご令嬢だという。
そして、最近王家が新たに検討し始めたという国外にいる令嬢がもう一人いると、彼女から聞いた。けれど、その令嬢については、国王から詳しい話をまだ聞かされていないらしい。
3人に絞り、新たにもう一人増えるなんて、この国の王太子殿下は将来の伴侶を選び放題じゃない? それに国外の令嬢ってどこかの王女ではないのかしら?
さっさと決めれば良いものをとは思うけれど、王太子となると簡単に決めるわけにはいかないのだろう。
王太子殿下とは関わり合いたくないと嘆くクリスティーナ様。それでも噂によると、かなりのイケメンらしい。
「ああ、何処かに私を攫ってくれる私だけの王子様はいないのかしら? ねえ、レミリア様、私の代わりに婚約者候補にならない? そうなったら、私は自由よ!」
あ、何処かで聞いた言葉……。耳が痛い……。
それに王家の婚約者になるのは勘弁して。
「ねえ、本当に代わってくれない? あなたのその美貌なら王太子殿下もイチコロよ」
「や、やめてよー。私はこの国の文化に触れたくて留学したのに! そんないややこしい事は嫌よー! それに、私ぐらいの容姿だったら、いくらでもいるでしょう!」
「あら、レミリア様って全然分かっていないのね。その容姿でまだ婚約者がいないなんて、おかしいわ。学院に入ったら、男子生徒がほっとかないわよ。でも、そう残念ね。代わってもらえないのなら、仕方がないわね。レミリア様が私を攫うっていうのはどうかしら? 良い案じゃないかしら?」
「却下!!」
なによ、それ。
良い案って、どんな案よ。全然良くないわ。嫌なのは分からなくもないけど、私にどうにか出来るものでもないし。
でも私はこの国の王太子殿下をどんな方なのか、まだ知らない。
そんな可笑しな話をしながら、学院の玄関に入る。玄関に入るとクラス分けの紙が張り出されていた。
レミリア・ブロッサム……レミリア・ブロッサム……。私は仮の自分の名前を探した。
「あ、あったわ! あ、クリスティーナ様! 一緒じゃない? 良かった!」
私は知っている人がいて良かったと安堵した。もう一人の令嬢、カノン様は私たちより学園が2つ下になるので、クラスは違う。
「本当ね、良かったわ。これはやっぱり運命だわ。ねえ、レミリア様。やっぱり私をさら……」
「攫いません!!」
釣れないわね、とクリスティーナ様が目をクリっとさせ頬を膨らませ不貞腐れる。その顔がまた可愛らしい表情で、私は笑ってしまった。
彼女達と他愛ない会話をしていると、「クリスティーナ嬢」とある青年から声をかけられる。声をかけられた方を見ると、黒髪の短髪に黒い瞳で、身長は175センチぐらいありそうな青年だった。体格も鍛えているのか、すらっとしている。髪色と瞳が兄と似ていて、兄を思い出させる。
「ダリル王太子殿下、おはようございます」
クリスティーナ様は制服のスカートの両端を軽く持ち上げ、頭を下げた。彼女の行動で、この方がこの国の王太子殿下だと分かった。私もカノン様も彼女と同様にして頭を下げ挨拶する。
彼が、クリスティーナ様を婚約者候補にしているダリル王太子殿下なのね。だから髪が黒色をしているんだわ。黒い髪は遺伝だとしても、もしかして瞳の色も兄と似ているから、そちらも遺伝なのかしら? それに噂通りでイケメンだわ。
私がチラリと彼の方を見ると、彼も私に気付いたようだった。
「ああ、おはよう。あれ? 見ない顔だね? ああ、今日留学生が来るって聞いていたけど、令嬢かい?」
「はい、レミリア・ブロッサムと申します。本日から、この学院に通う事になりました。よろしくお願いいたします」
私は頭をもう一度軽く下げ、とりあえず愛想笑いをしてみる。
何か返答が返ってくると思っていたけれど、暫く沈黙が続いた。そして彼は表情を緩める。
「あ、ああ。こちらこそ、よろしく。私は、ダリル・ハンシェミントだ。クリスティーナ嬢から聞いているかと思うが、この国の王太子だ。ここは、学院だから、楽に接してほしい。堅苦しいのは辞めてくれ。そういえば、レミリア嬢はドルーニア国から来たんだよね」
「は、はい」
「あそこの第二王子メイナード殿下は婚約したのかな?」
「え……い、い、い、いえ、ま、まだのようです」
私は、メイナード殿下の名前を聞いて、挙動不審の答え方をしてしまった。
「そうか、彼にはご執心の令嬢がいると聞いていたんだが……」
「そ、そうなのですね。ダリル王太子殿下、失礼します。もう教室に行きます!」
これ以上、変な事を訊かれても困る。ましてやメイナード殿下のご執心の令嬢の話など以ての外だ。それが、私だと知られるのも厄介だ。
なので早く教室に行こうと、クリスティーナ様の手を引っ張って足早に教室へ向かう。それなのにダリル殿下は私達の後を付いて来る。
何故? 付いてくるのよ!?
「レミリア嬢! 『何故? 付いてくるんだ?』 と顔に書いてあるぞ」
え? え? と私は慌てて両手で両頬を包んだ。
ダリル殿下は、はははは! とお腹を抱えて笑い出した。
「そんな書いてあるわけないだろう! 俺は、二人と同じクラスだ」
「え?」
私は、クリスティーナ様の顔を見た。
「そうですわ、レミリア様。王太子殿下と同じクラスですのよ。先程のクラス発表に王太子殿下のお名前がありましたのよ」
私は先程まで、王太子殿下の名前まで知らなかったのだ。
「そ、そうなのですね……」
何だか厄介ごとに巻き込まれるような気がしてきたのである。
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次回更新は6月28日0時10分頃の更新予定をしております。
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