第28話 【side キーラ】 欲しかったドレス
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何故、あの女があのドレスを着ているの!?
今日はクリフ様の卒業パーティーに出席した。もちろん彼のエスコートで。
でもドレスが贈ってくれたドレスは、安物のドレスだった。今までかなり良いドレスだったのに、最近は何も買ってくれない。買ってほしいと言うとすぐにはぐらかされてしまう。このドレスだってやっと買ってもらった。
それなのに、あの女は私が欲しかったドレスをきているのよ!
しかも第二王子殿下の衣装と合わせたかのように雰囲気が似ている。あれでは完全にお揃いコーデに見えるじゃない。
ドレス店では、高貴な方が買っていったって訊いたけど、もしかしてメイナード殿下がエミーリアに買ったってこと!?
何故!? 何故よ!? あああああ! くやしいいいい!
私はキーラ・バルト。子爵家の長女で。
髪は母譲りのピンク色。ふわふわと軽くウェーブもかかっていて、可愛くてとても気に入っている。
この学園には婚約者を探しに入った。もちろん勉強も大事だと思うけど、学力なんて関係ない。どうせ結婚したら意味がないのだから。
学園に入学して、2年以上たったころには沢山の男子生徒とお話をしたけれど、なかなかこれといった家柄の人たちと仲良くなれなかった。そのうちに3年4年と経っていき、早く誰かに決めないとと少し焦り出したころ、髪も瞳も紺色のクリフ・ルピナス侯爵令息を見かけた。
彼にはエミーリアという婚約者がいた。だけど噂によると仲が悪いらしい。一度クリフ様と一緒にいる所を見かけたけれど、話しをするわけでもない。容姿だって私の方が良い。長い黒髪に紫の瞳、あれじゃあ、私の方が断然可愛い。何も話さないつまらない、あんな婚約者といるよりも可愛い私といた方がきっと良いに決まってる。
私はクリフ様に声をかけた。
最初は単に挨拶をするだけで終わらせていたけど、徐々に一言二言増やしていき、仲良く街を歩く程になった。いわゆるデート。
最初は気に入った小さい小物を買ってくれていけど、段々とエスカレートして行き、高価なアクセサリーも買ってもらった。お礼に頬にキスをすれば次はドレスも買ってくれる。
さすがは侯爵家だわ。子爵家とは全然金銭感覚が違った。
こうなったら、エミーリアとの婚約を辞めてもらって私と婚約してもらいましょう。将来、侯爵夫人になるのも悪くない。
でも、どうしたらいいのかしら?
私がエミーリアから嫉妬で陰湿な嫌がらせやいじめにあっていると言って、そんな女とは婚約破棄をして私と婚約しましょうと言えば良いと思いつく。クリフ様も単純だから、すぐに信じてくれるはず。
早くしないと、卒業まであと数か月。私はクリフ様を学園の裏庭に呼び出し泣きながら、本当は目薬なんだけど、エミーリアに陰湿な嫌がらせを受けていると伝えた。
「エミーリア様が……私の教科書に落書きをされてしまって……」
「はあ? あの女はそんな事をしたのか?」
私は自分自身で落書きした教科書を見せた。
「はい……これです。きっと私がクリフ様とよくお話をしているからですわ。今までにも他にいろいろされて……おりました」
「本当か?」
「そんな方とクリフ様が婚約なさっているのは、不釣り合いです。エミーリア様と婚約破棄をして、私と婚約いたしましょう。私ならクリフ様の心に寄り添えますわ」
目薬だけど涙を流し、そう訴えかけた。もうイチコロだった。
「ああ、そうしよう」とクリフ様は言ってくれた。
そして、翌日下駄箱の中に手紙が入っていた。差出人不明の手紙だった。
私の事が好きだから付き合ってほしいっていう手紙かしら?
何処の殿方なのかしらと封筒を開けると、中にはたった一文だけ書かれていた。
『婚約破棄宣言は大勢の生徒のいる前の方が効果的ですよ』
一瞬、驚いた。
裏庭でこっそりと話をしていたのに誰かがあの話を聞いていたようだ。少し怖くなったけれど、この手紙の言う通りだ。大勢の前で言えば、エミーリアも恥をかくってものよ。
手紙の事は言わずにすぐに、クリフ様に提案した。
「ああ、それは良い案だね。エミーリアも恥をかけば、心を入れ替えるかもしれない」
え? と私は驚いた。
別に心を入れ替えなくても良いのに、私はクリフ様と婚約出来れば良いだけよ、と心の中で呟く。
心を入れ替えたら、よりを戻すなんて言わないわよね? 第一嫌がらせなんて嘘なんだし。とっとと婚約破棄宣言をしてほしい。
数日後、皆が集まる教室で婚約者のクリフ様が声を高らかに叫んだ。
「エミーリア、君との婚約を破棄する!」
やっと、やっとだわ! やっと私は侯爵令息と婚約できるのね。
ざわつく教室の中で、私はクリフ様の腕の中に縋るようにくっついた。目を潤わすつもりだったけれど、やっぱり目薬がないと駄目ね。目が潤うどころか乾燥するわ。
「言い逃れは聞かない。そして君より私の心に寄り添ってくれる彼女を手を取りたいと思ってる!」
カッコよく決めてるじゃない、クリフ様は。
皆の前で婚約破棄を言い渡されて、恥をかきなさい! と思ったのだけど、周りの様子は少し違った。何故か周りの女子生徒の中には、軽蔑するかのように白い目で見る者や、クスクスと笑っている者がいた。それはエミーリアに向けたものではなく、こちらに向けられているような気がした。
あの女もおかしい。落ち込むどころか、待ってました! と言わんばかりの表情を見せると、すんなり了承した。
「承知いたしました。婚約破棄を承ります。後で、取り消しされても困るので、ここは皆様に証人になっていただかないといけませんね」
あの女は周りに生徒に微笑みかけると、何故か周りの男子生徒が目を輝かせ、首を何回も縦に振り頷き、女子生徒はうっとりして見ていることに気づいた。
どういう事? こっちには白い目で見るのに、あの女にはどうしてそんな憧れをみるように見ているの!
「あ、後で泣きついても……後悔しても……」とクリフ様も様子がおかしいことに気づいたのか、少し焦り気味であの女に言う。
「しませんわ」
クリフ様が言い終わる前にえっミーリアは言葉を重ねる。
堂々たる態度にイラついたけど、こちらがイチャイチャすれば少しは何か感じるのかもしれないと思い、クリフ様に思いっきり縋ったけれど、あの女はスキップしながら教室を出ていった。
なんなのよ! あの女! なんかイラつく!
だけど、次の日からクリフ様は学園に来なくなった。
私は心配になって学園の帰りにクリフ様の家に行った。
庭に通され、ガゼボに座ってクリフ様が来るのを待つ。周りを見ると彩とりどりの花が立派に咲いている。さすが侯爵家だわ。
これが将来、私のものになるのよ。
その後、クリフ様に会うことができたけれど。
「エミーリアとの婚約破棄を勝手にしてしまったことが父上を怒らせてしまって……」
クリフ様は青い顔で言い、レグルス家に頭を下げて婚約破棄を取り消しにしてもらわないと、外に出してもらえないんだと続けて言った。
「え? そんな。それで、クリフ様はどうされるのですか? まさか、行かれないですよね?」
「ああ、行かないよ。せっかく婚約破棄をして、君と堂々と一緒にいられるのに、そんな事はしない」
行かない、と聞いてホッとした。
まさかここで頭を下げに行かれたら私の計画がパーになってしまう。それに私はどうしても欲しいドレスを見つけた。子爵家にとっては高価すぎる値段だったからクリフ様におねだりしようと思った。彼なら買ってくれるから。
「ねぇ、クリフ様。この間素敵なドレスを見つけたの。ワインレッドのドレス。シンプルだったけど、素敵な色で、装飾品を付けたらもっと素敵になると思うの。今度、一緒に見に行きましょう」
「あ、う……うん。そうだね。でも、父の怒りが収まらないと……そ、外にで、出れないから。暫く待っててくれよ」
クリフ様は自信なさげに、目を泳がせていた。
え? いつまで待てばいいのかしら? あんな素敵なドレス……早くしないと無くなってしまうわ。
暫くして、クリフ様は学園に来れるようになったけど、いつまで経ってもクリフ様は気に入ったドレスを買ってくれない。
どうして、クリフ様はドレスを買って下さらないのかしら? もう卒業パーティーまであと2か月切ったというのに。
そして先日、こっそりドレス店を除きに行ったら、欲しかった赤のドレスが無くなっていた。ドレス店の店主に聞くと、高貴な方が買っていったと言っていた。もしかすると、クリフ様のサプライズなのかもしれない。きっとそうだわ。
そう思っていたのに、プレゼントされたドレスは安物のドレスだった。
そして欲しかった私のドレスがあの女が着ていたのだ。
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次回更新は6月1日0時10分頃の更新予定をしております。
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