第26話 女は度胸よ
リアクション、ブックマーク、ありがとうございます。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
あれからメイナード殿下とは、挨拶を交わすことがあっても、二人だけで会うことはなく、学園では卒業に向け毎日が慌ただしく過ぎていった。着々と留学の手続きも進み、そして今日、最終学年の私は学園を卒業する。
午前中の卒業式は滞りなく進み、午後からは卒業パーティーだった。
「用意はできたかい?」
黒地にカフスと襟には暗めの赤、所どころ金糸で刺繍が施されている正装で、髪をオールバックにした兄が私を呼びに来た。落ち着いた控えめで、それでいて刺繍で華やかさが出ていたけれど、二人で並んだ時にどちらが主役かということが一目で分かるようにしてくれた装いだ。
「ああ、悔しいけれど、やっぱりそのドレスはエミーリアとても似合っているよ」
「お兄様も落ち着いた雰囲気でかっこいいですわ。ルシア様にも見せてあげたいわ」
苦笑いする兄を私が少し揶揄うようにして言うと、兄は頬を赤らめた。
来年はルシア様が卒業だから、きっと兄が卒業パーティーにはエスコートするんだろう。その時には、私も帰省してお祝いをしようと思っている。
そして私はメイナード殿下から頂いたドレスを着ていた。ワインレッドのAラインのドレス。自慢の黒髪は結い上げ、小花の髪飾りをつけ、胸元と耳には髪飾りと同じデザインの物を付けた。すべてメイナード殿下からの贈り物だ。
これもまた、悔しいほどにドレスに合っていた。
外は日差しが出て温かく見えるけれど、午後から少し冷え込んできて、肌寒く感じる。兄と同じ黒地に金の糸で刺繍をしてあるボレロを羽織った。これは、少しでも兄に合わせたいという私の意地だ。
「じゃあ、行こうか? エミーリア」
「はい。お兄様、お願いします」
兄の手に私は自分の手を乗せ、馬車に乗る。パーティーが終わり翌日早朝にはハンシェミント国に向かう段取りになっている。こうして兄と居られるのもあとわずかだ。
「なんだか、胸に込み上げるものがあるね。エミーリアの卒業式が終わって、明日には……」
まるで、嫁がせる娘を見る父のように目に涙を溜める兄。私はハンカチを取り出すと兄の目元にそって当てた。
「お兄様……これっきり会えなくなるわけでもないのですよ。また、帰って来ますから」
「分かっているよ。ちゃんと長期休みには戻って来てくれよ」
兄は私をそっと抱きしめてくれた。
卒業式が行事が終わり、落ち着くころに婚約者がいる者は結婚をする。来年、兄とルシア様も婚姻を結ぶが、式は私が長期休みに入る頃にするらしい。私も式に出席できるようにというブロッサム家からの要望だった。
それを聞いた時には、ルシア様やブロッサム家の家族からもこの結婚は本当に望まれているのだろうということが分かった。私も、もし結婚をすることがあるとしたら、両家から望まれる結婚をしたいと思った。
そうしているうちに学園に到着した。会場はこの学園の大ホールだ。
兄の腕に手を乗せ、中に入ると半分ぐらいの人たちが中にいた。豪華な花や照明でいつもと違う大ホールになる。中にいる人たちも彩とりどりの正装を着ていて賑やかだった。
華やかに飾られたホールを見渡していると、後ろから「お姉様」と声をかけられる。
振り向くとミナリーだった。
彼女のドレスは淡いブルーから濃くなっていく裾には小さな宝石が散りばめられ、深い海を思わせるようなドレスだった。
そして、彼女の隣には見たことの無い男性がいた。
「お姉様、こちら私の婚約者のアンバー様でございます。ハンシェミント国からわざわざ来ていただきました」
「エミーリア・レグレスです」
「兄のラルス・レグレスです」
私はドレスの両裾を軽く持ち上げ、兄と一緒に軽く頭を下げお辞儀をした。
一瞬、ミナリーの婚約者が目を瞠ったように見えたのは、気のせいだろう。
私が、不思議に思い首を傾げた。
「アンバー・トラメニです。ああ、貴方がエミーリア様なのですね。とても素敵な黒髪です。あなたの話はミナリーから聞いております。彼女がエミーリア様のファンだと」
トラメニ様も軽く頭を下げ、ミナリー様の着ているドレスと同じ瞳を細めて、無邪気に笑っていた。
留学の話は口留めしてあるから、そちらは大丈夫なはずだとは思うけれど、その他に何をミナリー様は私の事を話しているのだろう。どんな風に話しているのか、少々気になり怖くなる。
そんな事を考えて私は、ははは、と頬を引き攣らせながら微笑んだ。
「お姉様、やっぱりそのドレスを着てこられてたのですね」
ミナリー様は私のも耳元でこっそりと言う。
「仕方がありませんわ。何事も無く無事にお開きになることを願うばかりです」
私もミナリーにコソリと言う。今日が終われば、明日はまた新たな一歩になるはず。
「あら、お姉様にミナリー様」とリリエラ様が声をかけてきた。彼女の隣にも見慣れない男性がいた。
「紹介させて下さい。こちらは婚約者のリック様です」
「リック・コールマンです」
スラっとした体形に群青色の髪に金色に近い黄色の瞳。その瞳と同じ色のドレスをふんわりと着こなしているリリエラ様。婚約者の方もハンシェミント国から来られたのでしょう。
ふたりとも婚約者の瞳と同じ色のドレスを着ているのでとても仲良く見える。見ていてもお二人は幸せそうにしていた。これが本来婚約者の対応なのだろう。特に彼らは、この学園に留学をしていたけれど、この国の人では無い。わざわざ卒業パーティーにエスコートをしに来てくれるのだから、ミナリー様もリリエラ様も婚約者に大切にされているのが分かる。きっと彼らなら以前聞いた彼女たちの不安も理解して幸せにしてくれるだろう。
しかし気になることがある。
トラメニ様と同様、コールマン様も私のことを見て、ほんの一瞬だけ、目を見開き驚いているようだった。彼は兄を見ても驚いているようだ。
六人で会話をしている間に、合図があり周りが静かになる。この学園の卒業生の王太子殿下が王太子妃殿下をエスコートしながら入場された。続いてメイナード殿下の入場である。彼は一人で入場してきた。確かに婚約者が決まっていないのであれば、それはそれで良いのかもしれない。けれどその正装に兄と私は絶句した。なんならミナリー組もリリエラ組も絶句していた。
「……………………」
「お、お兄様……。そっと帰ってもいいかしら? 私、帰りたいです……」
兄と私はこんな事になるとは思っていなかった。リリエラ様もミナリー様も同様だったらしく目を見開いて驚いている。
メイナード殿下の正装は、私の着ているドレスの色と同じで金色の糸でネックレスと似たような小花の模様の刺繍がされていた。まったく同じ色なので使っている生地も同じだろうと、遠目から見ても分かる。全くお揃いか言われると違うけれど、雰囲気が似ていて、さりげなくお揃いコーデになっている。これではメイナード殿下と私がシミラールックのよう見えてしまう。
メイナード殿下と目が合うとこちらを見て微笑む。
私の近くにいた令嬢たちはと私の装いに気付いたようなのか、なにやらコソコソを話をしていた。これでは、ドレスがメイナード殿下が用意したものだとバレてしまう。
「くそっ! アイツはなんてことをしてくれたんだ! ……だ、だ、だだだ、大丈夫だ、エミーリア。落ち着け……」
冷や汗が流している私に、一番狼狽えている兄に落ち着けと言われても、いえ、お兄様こそ落ち着いてください、と心の中で呟く。
「お姉様……大変ですわ……」
リリエラ様やミナリー様もと顔を青くしていた。
私もすぐにでもここから逃げ出したい。けれど皆が、王太子殿下の前まで行き挨拶をしている。そういう習わしだからだ。これは私もしないわけにはいかないだろう。兄は自分の右腕に乗っている私の手を反対の手でそっと押さえる。
「お兄様、私達も王太子殿下に挨拶をしに行きましょう」
意を決して、兄に声をかけた。兄の腕に乗せた左手にグッと力を入れる。兄は唇を噛みしめ、「行きたくない」と呟く。
けれど、退出するわけにもいかず、しぶしぶ王太子殿下の元に向かった。
王太子殿下の挨拶の列に並ぶけれど、胸が早鐘を打つ。一組、一組と挨拶をして行き、列が段々短くなっていく。メイナード殿下とは目を合わさないようにしているけれど、視線を感じる。メイナード殿下から視線だけじゃない、周りからの視線も痛いほど感じて、ブルッと震えた。前方を見ると皆、王太子王太子妃殿下に挨拶をした後、なんとメイナード殿下にまで挨拶をしていた。
「お、お兄様。何故、皆、メイナード殿下まで挨拶をしているのでしょうか?」
兄は唇を嚙み締め、顔を顰める。
「アイツも一応卒業だから……皆、『おめでとう』と挨拶しているのだろう……」
「…………」
「厄介だな……一応、王族だ。挨拶しないわけにはいかないな……」
「…………」
あと5組ほどで自分たちに挨拶の番がくる。胃がキリキリと痛む。けれど、もう逃げも隠れも出来ない。私は腹を括った。
よし、女は度胸よ!! と心の中で叫んだ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたなら、応援やブックマーク、評価などいただけましたら励みになります。
次回更新は5月26日0時10分頃の更新予定をしております。
また読んでいただけると嬉しいです。




