第25話 どちらが大切?
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「えええぇ!」
ルシア様に兄と私がハンシェミント国の王位継承権があると言う事を伝えると、彼女の驚きの声が執務室に響き渡る。ルシア様の驚きすぎて目が落ちそう。それぐらい目を見開いていた。私はルシア様の張り上げた声に両耳を抑える。
そうなるわよね。私も聞いた時はものすごく驚いたもの。
でも、ルシア様だからこそ、こんな我が家のややこしい事情を話せるのだ。それだけ、我が家はブロッサム家とルシア様を信頼しているという事。
「え、あ、あの……ち、ちょっと待ってください。で、では、私とラルス様と結婚して子供が出来た場合ってどうなるのですか?」
動揺を隠せないルシア様は父に質問すると、何故か兄が先程まで真っ青だった顔が真っ赤になっていた。耳まで真っ赤にしている。
少し不快な感情が湧き出て、私は眉間に皺を寄せる。
兄は一体何を想像したのかしら?
父も兄が頬を紅潮させているのに気付くと、兄を睨みつけて、ゴホン! と咳ばらいをした。
「我が家は傍系だから、結婚し、子が出来るとラルスの王位継承権は消滅し、順位は後ろになるが、子にその権限が移る」
父の説明にルシア様は黙ってしまった。母方祖母が嫁ぎにでた王女だったので、その子は結婚し子供を成した場合、子は王位継承権が消滅し、生まれたその子に権限が与えられると言うのがハンシェミント国の決りらしい。だから兄を産んだ時点で母にはその権限が消滅した。これが祖母ではなく祖父で、母でなく父の場合だとまたややこしくなるらしい。本家、分家で違う。どのみち私たちの家系は分家に当たる。結婚して子が出来れば、自分の権限が無くなる事さえ覚えていればいい。
「ルシア様、私の順位は八番目になります。だから、子供が出来ても私の後ろになると思われます。あって無いような物だと考えれば……」
「そうだよ。その前の人たち殆どの者が急死さえしなければ、君たちまで順位が上がることはない。あとは、エミーリアが結婚して子が出来るともしかすると順位が上がる可能性があるが心配いらないだろう」
父はルシア様に気にしないようにと思って言った言葉だったけれど、『急死さえしなければ』なんて、ちょっと縁起でもない事を言わないでほしいわ。それこそ、戦争かクーデターでも起こらない限り無いはず。
「わかりました……頭の片隅に置いておきます」
「そうだね、ありがとう」
「それで、おねえ……エミーリア様が偽名を使われることはどういう事でしょうか?」
流石に父の前で私を『お姉様』呼びは出来ないでしょうね。ルシア様は言い直したわ。
偽名の件も簡単に父が説明し、話が終わるとルシア様は憐憫の情で私を見る。
「エミーリア様も大変ですわね。ああ、私もご一緒に留学してエミーリア様のお助けができれば良いのですが……」
「だ、だめだ! ルシアまで行かないでくれ!」
兄の顔がまた真っ青だった。今日一日で青くなったり赤くなったり、忙しい人だ。そんな事は冗談に決まっているのに何を慌てているのだろう。
「お義父様、私も一緒に留学をしてはダメでしょうか? 結婚を4年後に遅らせて頂けないでしょうか?」
冗談で言っていると思っていたルシア様がとんでもないことを父に願い出る。
流石に私は「はああ!?」と素っ頓狂な声を張り上げた。これはまずいわ。兄が大暴れしてしまうかもしれない。
ルシアは私の学年では一つ下。こちらの学園を卒業するには、もう一年通わなければならない。このまま順当にいけば、来年の卒業後結婚となるはず。それを途中にして、4年留学?
「ル、ルシア様。じょ、冗談ですよね? ね? ね?」
「冗談なんかじゃないわ」
ルシア様は平然な顔をしている。
「ル、ルシア。俺とエミーリアとどっちが大切なんだ?」
そんなルシア様を見て今にも倒れそうな顔面蒼白な兄は、彼女に縋りつく。兄の情けない姿に私と父はただ茫然としていた。
ルシア様は兄の問いに少し気に障ったようで、表情は少し怒っているようにも見える。確かにその質問は卑怯だわ。
そしてルシア様は不満げに兄に訊く。
「ラルス様は私とエミーリア様とどちらが大切なのですか?」
当然如く、ルシア様もその質問をするわよね。兄ならすぐに答えると思ったのだけれど……直ぐに答えれなかった残念な兄だった。
「…………………………ル、ルシアだ!」
お兄様よ、その間まは何でしょう? 何故、そこでルシア様と私を天秤にかける? すぐに「ルシアだ!」と答えられないの?
「ラルス様、一瞬迷われましたよね? すぐに答えられないのに私にそんな質問はしないていただきたいですわ」
ルシア様はプイっと顔を横に向ける。兄の顔をもう色が無いくらい真っ白だ。
「ゴ、ゴメン、ゴメン。もうそんな事を言わないから。ルシア、お願いだ。許してほしい……。でも留学も行かないでほしい……どうしても行くというのなら、俺も付いていく!」
兄も突拍子もない事を言い出した。いえ、兄ならあり得る事なのかもしれない。あまりにも真剣で、とても冗談には聞こえなかった。
「馬鹿者! 跡取りのお前が一緒に付いて行ってどうなる。お前は残らんか!」
父の怒声が響く。けれどその声には呆れたものも混ざっていた。怒られた兄は小さくなる。そんな兄を見ていると、段々哀れになって来た。
いつも頼りがいのある兄は何処に行ってしまったのか。
「ルシア様、もうそれぐらいにして兄を許してください」
情けない兄の姿は少々見物だったけれど、これ以上見るのは流石に私も辛い。
「仕方がありませんね」
ルシア様は照れながら兄の手を握った。
兄は安心したのか、ルシア様に手を握られたからなのか、すぐに顔を紅潮させた。まあ手を握られたからに決まっているだろうけど、兄は完全に尻に敷かれているようだ。
これほどルシア様を大切にしているのだから、彼女も兄を置いて留学は出来ないし、こっちはさせられない。
結局、ルシア様も兄の事が大好きなんだろう。
「エミーリア様、ハンシェミント国は治安がいいと聞きますが、やっぱり心配ですわね」
「心配してくださってありがとうございます。でも何とかやって見せますわ」
「本当に大丈夫かしら? やっぱり私も……」
「ルシア様、兄の事お願いしますわ。ルシア様までいなくなったら、兄は悲しむだけでは済まないかもしれません。長期休みには戻って来れると思います。その時にはまた沢山お話いたしましょう」
ルシア様がいなくなったら暴れるどころか落ち込んで部屋から出てこないのではないだろうか? これでも次期伯爵家当主のなるのだから、引き籠りされると困る。
もしかすると、いえ多分、兄の命運はルシア様が握っているのかもしれない。
「ルシア、ゆっくりしていってくれ」
大切な話が終わり父は優しく瞳を細め、ルシア様に伝えると、応接室を出て行った。
私たちは兄に、今日エリク先生に助けていただいたことを話した。
「ああ、エリク先生か……気さくな先生だし話がし易かっただろう。何かあったら、助けてほしいと言ったあったんだ。良かった」
「メイナード殿下は悪気が無いんだっておっしゃっておりました」
ルシア様が少しぎこちなく微笑んだ。
それを聞いた兄は、はははと乾いた笑い声をだした。
「まあ、分からなくもないが……あれじゃ、エミーリアが怖いだろ? アイツもエミーリアと二人で話しをしたいとか言い出したんじゃないか? 二人だけで話をしていると変な噂もたってしまうからな」
「変な噂?」
私は首を傾げた。
「何も分かっていらっしゃらなかったのね」
ルシア様が右手で頭を押さえ、深い溜息を吐く。
「お姉様……変な噂と言うのは、メイナード殿下がお姉様を婚約者に決められたのではないか、と言う事ですわ。ただでさえ、殿下がお姉様にアプローチをかけていると噂されているのですよ」
「え? ええ?」
ルシア様の言葉に驚いてしまった。
「エミーリア、男性と二人だけで会うと言う事はそういう事なんだよ。分っているとは思っていたんだけど、分かっていなかったか。だからアイツと二人だけで会ってはダメだと言っていたんだ」
「あ、あ、あ……そ、そうなのですね」
変な汗が背中を伝う。いつもルシア様かリリエラ様、ミナリー様が側に居てくれたから気付かなかった。そんな理由があるなんて思ってもいなかった。
「大丈夫ですか、お姉様。学園入学と同時に婚約者がいらっしゃったから分からないのかもしれませんね。留学されても、それはお気をつけてください。私がお側にいないのですから」
「あ、あ、はい……」
だから、いつも3人の誰かが側に居てくれたのね。
私、一人で留学しても大丈夫なのか?
少々不安になった。
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次回更新は5月23日0時10分頃の更新予定をしております。
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