エアの特技
「ずいぶん、ちんまいな」
ダンプがスノウをつつこうとするが、指は空を切ってスノウを突き抜ける。
スノウが「やめてよー!」と首を振っている。触れてはいないが、何かを感じはするらしい。
「あれー。俺は触れないのか」
「霊魂の気を掴めるのは、共鳴者だけなんですよね。慣れれば、どこかに接触しなくても、スノウと石を繋いでいられるようになりますよ」
エアは今一度、スノウと繋いだ手を見る。小さいとはいえ、女の子と手を繋いでいるのは気恥ずかしいが、飛んで行ってしまいそうなのでまだ離すわけにもいかない。
「どれくらいで慣れるの?」
「うーん、修行してざっと1年くらいですかねえ」
スノウがあからさまにガクッとした。
「自由に動いてみたいのにー」
「ちなみに、もしエアと離れてしまったら、一瞬でこの世をさまようことになりますから。しかも、一定時間、仮の住まいを見つけられないと霧散します。そして、我々が探すのは不可能に近いです」
カイの言葉にスノウがどんどん青ざめていく。コクコクと頷きながら、ぎゅっとエアの手を握り直した。
「もし、俺が手を離したい状況になったらどうすればいい?」
出せたのはいいが、戻ってもらわないと、一生手を繋いでいないといけなくなる。それも不便だ。
「スノウの右手を翡翠の石につけてください。そうして、スノウが翡翠の石に飛び込むようにすれば戻れるはずです」
「わかった! やってみようよ」
右手をぐいぐい引っ張るスノウを押しとどめて、エアは左手に持っていた剣をスノウに近づけた。スノウは、右手を翡翠の石につけて息を吸い込むと思いっきり石めがけてダイブする。
ぶつかる! と思った瞬間、ブワッと凄まじい空気の塊が剣に打ち付けられる。
その衝撃がエアたちを襲う。
「エア、絶対に気を離さないでくださいね!」
「わかってる!」
左手の衝撃に耐えながら、エアは右手の感触を逃すまいとぎゅっと握った。
エアの右手から翡翠の石に吸い込まれるかのように、空気の塊が戻っていく。
風が緩まり、最後にふわっと一つ暖かい空気が流れると、エアの手からするりと気がすり抜けて行った。
「戻った!」
翡翠の石からスノウの声が聞こえる。
「大丈夫そうですね」
「こっちは大丈夫そうじゃないけどな」
ダンプが室内の様子を見渡し言う。
二度の衝撃波のせいで、棚や金床に置いてあったものはグチャグチャになって床に散乱し、炉にはヒビが入り、細工のための装飾品はいくつかが割れ、見るも無残な姿になっていた。
「……」
「これは、剣の話どころか、家にも帰してくれないかもしれねえな」
槍の先で、散乱した道具を丁寧に選り分け、いくつかの道具をダンプが掘り起こす。
「あー、これも壊れちまってるわ」
「あ、あの、本当にごめん! 謝って済むわけじゃないのはわかってるけど、弁償するから!」
「弁償ねえ」
道具を傍に置き、散乱した中からさらに小さい部品を取り出す。
「こいつらさあ、そこらに売ってないんだよね。親父と母さんと俺で作ったもんだから」
小さい部品を見つめたまま、ダンプの目が悲しげに歪んだ。
「親父、悲しむかな」
「――! お、俺、直せるかも!」
エアが思わずダンプに近寄る。やれやれ、とカイは首を振っていた。
「そんな簡単に直せるもんばっかじゃねえぞ」
「うん、わかってる。ちょっと見せて」
そう言って、エアはダンプが掘り起こした道具と部品を受け取る。
色々な方角から眺めて、パチリ、とある一箇所にはめた。
「!」
ダンプが絶句する。設計書も製図もなしに、部品だけで迷いもなく組み立てるなんて、普通できない。
「な? できそうだろ?」
エアは得意げにダンプに向かって笑う。カイがその肩をポンと叩いた。
「エアは、天才なんですよ」




