神の手
「嘘だろ、天才とか言う次元、超えてるぞ」
エアは、すでにその道具の完成形がわかっているのか、散乱した部品の中から次々と目的のものを取り上げては、道具にはめていく。
流れるようなその手つきは芸術的でさえある。
「……神の手か」
野太い声に全員が振り向く。店主の大男が頭を振りながらエアたちに近づいてくる。
「親父、起きたか」
「お前な、ちょっとは手加減しろ、と言ってるだろ。それにまあ、よくもこんなにしてくれたもんだな」
大男は転がっていた装飾品を丁寧に棚に置き、ヒビの入った炉を優しく撫でる。
「わ、悪い!」
「正式な謝罪と弁償代金については、後日また改めて伺わせてください」
思わず謝るエアの前に出て、カイが名刺を渡す。
「へえ、マネージャーねえ」
大男は名刺をポケットにしまうと、大きく笑った。
「ま、いいさ。いいもんが見れてるしな」
すでにできあがっていた道具を大男はエアの手から貰い受ける。
「神の手とはなんですか?」
「武器屋や道具屋には何百年かに一度、とてつもない才を持った奴が現れるんだ」
『てふいご』と呼ばれるその道具は、空気の流れを変えるためのもので、火の温度をあげるには欠かせない。普通は釜や炉の温度をあげるために使うが、それは通常よりもかなり小さく作られている。大男は、取っ手のようなものを押してみたり、手をかざしてたりして、道具の確認を行っていた。
「まるで、歴代の勇者みたいにな。人間業とは思えないその手腕を評して、そいつらは神の手と呼ばれている」
一通り確認の終わった大男は息を漏らした。
「見事なもんだな」
エアがひょいと、てふいごを大男の手から取る。
「これって、火力をあげる時に使うんだよな? 武器に取り入れるってことなら、仕切板を風車みたいな形にすると良いかも。回転させるともっとよくなるかなあ。試してみないとわからないけど」
「風車?」
「こんな感じにして、」
と言って、エアは作業台に置いてある紙に5枚ほどの羽を隙間なく円になるように描いて見せる。
「これを回転させながら押し込むようにする」
「どう?」とエアが大男を仰ぎ見る。
「なるほど。全体を円にして回転させることで、より高密度に溜めた空気を噴きださせるんだな」
「よくわかんないけど、たぶんそうなるんだろうな」
「まじか。どんな思考回路してんの、お前」
ダンプまでもが、エアの設計図を見て、唸っている。
「これなら、大型の武器に載せられるかもしれんな」
大男がエアの頭をゴシゴシと撫でる。
「ありがとう、坊主。坊主では、神の手に失礼か。私は、ジオだ。こいつは、バカ!息子のダンプだ。よろしく頼む」
へいへい、とダンプが不満げだ。
「俺は、エア。こっちは、俺の仲間のカイ。カイのが断然強いんだけど、一応、魔王討伐に行くところ」
ジオの右手を握り返しながら、エアが答える。
「そういえば、お前たちは剣を探しに来ていたんだっけな。アリアは?」
「そこに寝かせています。手にやけどを負っていますが、一応無事です」
金床の裏側にいたのがよかったのか、アリアには大きなものが当たらないで済んだ。
けれど、目が覚める気配は一向にない。
「何があったかは後で教えてくれ」
ジオはしゃがんでアリアの様子を確認するとダンプを見上げた。
「ここでは可哀想だな。ダンプ、二階に寝かせてやれ。あと、やけどの手当な」
「ヘイヘーイ」
ダンプは槍の先を変化させようとして――。
「槍は使うなよ」
ジオに釘を刺され、首をすくめた。アリアの体を持ち上げて、二階の階段を登る。階段を踏みしめるたびに、アリアの腕輪が鳴り、金色にきらめいた。
「なんか、まともに手を使って何かを持ってるの、初めて見たかも」
「あいつは、究極の面倒臭がりでな。なるべく動かなくて済むように、あの槍を作ったんだ」
「それって面倒臭がりか?」
エアの言葉にジオはため息をつく。
「最初は俺も何が目的だろうと、武器を作るなら嬉しかったさ。でも、作り上げた今では、ダンプはもう数歩も歩かん」
それは究極だ。
「あいつはうちから外に出なくてな……。もっと世間を見せてやりたいんだがな」
遠い目をするジオに、先ほどのダンプの悲しい表情が重なる。思わずエアが叫んだ。
「じゃあ、あいつも魔王討伐に連れてくってのはどうだ!?」
「「は?」」
ダンプとカイの声が重なった。




