88 厳しい結果と驚きの事実
「思っていたより・・・」
櫻井さんと真さんが厳しい表情で、送られてきたケイの診断結果をみている。
「かなり深刻な状態ですね」
真さんが口を開く。
彼は、櫻井さんの側近でもあり、優れた医師でもある。
「ああ」
タバコの煙をくもらせながら、何か考えている様子。
暫くすると、扉をノックする音が。
返事をすると、扉が開きケイと隼人が入ってきた。
「行ってきました」
ペコリと頭を下げるケイに気がついた。
「どうした?涙の跡がある」
櫻井さんが指で私の目元を撫でた。
「検査が終わって、ちょっと心配になってしまって・・・」
と答えると、櫻井さんがいつもより優しく頭を撫でてくれた。
「どんな検査結果がでても、受け止めるのはいいが、不安になることはない」
「その為に今回ここに来たのだから」
「後でちゃんと話をしよう」
櫻井さんと話をしてると、新堂先生が戻ってきた。
ちらっと、櫻井さんの方を見ると、
「検査結果もお二方に見て頂けたようなので、ケイさん含めて皆さんにお話したいと思いますが」
「では、そちらのソファーに移動しますか」
真さんの提案で、それぞれに座る。
一人がけの椅子には櫻井さん、私と隼人は、新堂先生と向かい合わせで座った。
真さんはいつものように櫻井さんの横に。
張り詰めた空気の中で、新堂先生は話し出した。
「木理谷から大体の事情は聞いていたが、先程の検査結果を見ると、1番良く分かるのは、画像で見ると脳の細胞が所々で壊死している。その意味、隼人くんは、解るかい?」
急な指名で驚いたが、
「もう細胞が再生することはない・・・ということですね」
「そうだ。一度壊死した細胞は戻らない。ケイさんが触った毒は、猛毒で僅かな量でも一瞬にして死に至らせるものだった」
「今回は、木理谷が居て処置も早く命は取り止めた。これは偶然が重なった奇跡でもあるんだよ、ケイさん」
新堂先生の言葉に頷く。
「さてここからが本題」
「一瞬で命を落とさせる猛毒は、身体の機能を全て落とす。その中でも一番影響を受けるのが脳と心臓だ」
「脳は身体の司令塔でもある。今回のケイさんがお腹が空いたのがわかりにくい、という症状」
「元気な時には、血液中の栄養が不足すると、脳に指令が行って、そこからお腹が空いたから栄養をとってと胃に指令が行く、そうするとお腹がグゥっと鳴って、お腹が空いたから食べよう、になる」
「わかり易く言うと、脳の細胞が壊死することは、その指令が上手くいかなくなるってことなんだ」
新堂先生は、私を射抜くよう真っ直ぐ視線を合わせた。
「ケイさん、今はお腹が空いてる?」
いつ食べたのか忘れる位時間がたってるのはたしか。
「多分空いてると思うんですが、わからないです」
「そうだよね。壊死した細胞周辺は、消化器官を司る神経が集まっているところで、ケイさんの胃には指令が届けられないはず」
「・・・とすると」
隣に座る隼人。
新堂先生は頷くと、
「この症状は、現状のままで完治はできないと思って貰っていい」
「だが、治療によってこれ以上の細胞が壊死しないようには出来る」
「これから俺がその治療を担当する」
驚きの表情で見るケイさんに
「これ以上他の症状が出ないように治療していくんだ」
混乱しすぎて、新堂先生の言うことに反応できない。
「その治療環境は、提供出来るんだよね」
視線は櫻井さんへ向ける。
「もちろん、最初からそのつもりだ」
櫻井さんが微笑を浮かべ頷いた。
「ケイ、勝手に話をすすめて悪いがそうすることにする」
決定事項らしい。
「でも、治療していくってどこでどうやって?」
混乱の中、なけなしの頭で考えての疑問。
「今向かっているsperanzaで治療する。既に国へ手配してある」
「良く分からないって顔をしてるな、ケイ」
「はい」
聞いていて、話が全く繋がらない。
でも国にって・・・まさか。
櫻井さんに視線を移すと、
「俺はsperanza国で2番目に、皇位継承権を持っている」
「えっ、皇位継承権って??」
「speranzaの現国王は、私の実兄だ」
櫻井さんの突然のカミングアウトに、衝撃で頭がヒートしそう。
すると、
「speranza国の王子様なんだよ、櫻井さんは」
隼人が私の肩を抱き寄せる。
「ねぇ、隼人は知ってたの?」
「ケイが元彼に騙されて誘拐された頃だな、知ったのは。俺も聞いた時は衝撃強すぎて言葉がでなかったよ」
「肩書きなんてたいしたことないんだぞ、ケイ」
一瞬悲しげな表情をする櫻井さん。
「こんな煩わしいものはない。俺自身でじゃなく、煩いくらい肩書きで皆寄ってくるからな」
「今回、俺が関わり自国の騒動に巻き込まれて、ケイが被害にあってしまったし」
「でもそれは、櫻井さんのせいでは無いですよ」
「ケイ・・・」
「誘拐も今回の毒も、隼人の関係の自爆テロも、相手が敵対心おこして勝手にやっただけで、櫻井さんたちが吹っかけてやったわけじゃないですから」
「責任を感じることはないと思います」
「失礼なことかもしれませんが、櫻井さんが王子様であっても、特に今までと私は変わらないですよ。あ、でも変わって欲しければ変わりますが」
「いや、変わらなくてもいい」
「ふふっ」
笑い声は、櫻井さんの横に立つ真さん。
「やはり、ご主人様のおっしゃるとおりでしたね」
「だろ?」
櫻井さんも笑っている。
「ご主人様は自分の身分を明らかにしても、ケイさんはきっと変わらないと断言されていたんです」
「ケイさんは、肩書きで見るんじゃなくて、個人で見てくださると」
「ですよね?ご主人様」
真さんの言葉に、頷く櫻井さん。
「これから治療するにあたって、もう隠しておく必要もなくなったし
な」
「海唯も王族の一員なんだよな、実は」
「え、そうなんですか?」
「母方の従弟になる。俺は仕事は医師だから別に肩書きも関係ない」
「因みに真さんは?」
櫻井さんの側近という真さん、多分近く間柄だと思う。
「私は王族ではありません。ある貴族の出ではありますが。でもご主人様とは子どもの頃からずっと一緒ですね。今もですが」
「真の親父さんは、国の政治のTopにいる。国王の片腕みたいなものだな」
「外での戦いになれば、自分たちが中心になるが」
「そうなんですか?」
「ご主人様はsperanza軍の総司令官、私は参謀長なので、何かあれば戦いの最前線に行くことになります」
真さんが代わりに答えてくれる。
「王子なのに戦場?」
普通なら有り得ない話だと思う。
「国内は兄に任せて、国外は自分が引き受けてきた」
「負け戦は一つもなかったけどな。もちろんこの先も負けるつもりはないが」
「ケイ、治療も心配することはない。海唯も真もsperanzaトップクラスの医師だ。安心して任せてくれればいい」
「真さんも?ですか」
櫻井さんの側近になる前は医師だと聞いていたけど。
「国内で3本の指に入るだろうと言われる内科医の名医だからな」
新堂先生が、真さんに言うと、
「お前に言われると、嫌味にしか聞こえん」
真さん、珍しく素で喋ってる。
「それはお互い様かもね」
二人のやり取りを聞いてて、
「お二方仲がいいんですね」
と言うと、
「ケイさん、それはない」
同時に強く否定された。
横で珍しく大笑いしている櫻井さん
「こいつら専門は違うが同期なんだよ。顔を合わせれば言い合いしてるが、お互いに力は認めあってるんだ。海唯も脳神経外科専門で真と同じ位置にいるからな」
「今回、兄が海唯に頼んだっていうのも、ケイに少しでもよくなって欲しいからだと思う」
「お兄さん、国王が??」
「ああ、真が国へ連絡したら、海唯を送ってきたからそういうことだと思う」
なんだか、ハイレベルで話がついていけなくなってきた。
「みんなケイに良くなって欲しいからだよ」
隼人もそーいうことを、さらっと言う。
自分のことだけど、自分ではないみたい。
先程の気持ちのダウンはなくなったけど、この先どうなっていくのか、別の心配ごとが増えたみたい。
目の前の真さんと新堂先生のやり取りを聞いているとそう思った。




