84 後遺症
それにしても、隼人のお父さんと話ができたなんて。
突然で驚き過ぎて、動けなかった。
でも、素敵なお父さんだったな。
一人息子の隼人を、可愛くないわけがなく、岸田さんに言わせると、溺愛の域にいるらしい。
二人の会話をきいていても、よくわかった。
お父さんの仕事が特殊なものでなければ、親子関係も違ってたのかもしれない。
お父さんには、色々話をする中で、身体の状態が良くなってきたか?って聞かれて、良くなってきてるって答えたけど、実は良くなっていない。
隼人をはじめ、誰にも言ってないけれど、表面上は身体を動かせるようになってきて、回復してるようには一見みえても、内面は違和感だらけ。
食事は少量しか食べれないし、お腹がすいたという感覚がわからない。食いしん坊の私がね・・・。
身体の痛みはないけれど、急に脱力感がきて倒れそうになったり、手足の末端が常時痺れてるし。
これは治るんだろうか。
薬、どれだけ私の身体に影響してるんだろう。不安になる。
早いうちに、真さんに相談した方がいいのかな。
その前に、隼人に言っておかないと100%間違いなく、後で面倒なことになる。
「どうした?難しい顔して」
声に驚いて顔を上げると、いつの間にか、お風呂から戻ってきた上半身裸の隼人が 目の前にいた。
「ん?ちょっと考え事してただけよ」
「一人で悩むな、誰が近くにいるんだ言ってみろ」
聞いた途端、私を抱き抱えて、部屋のソファに座り頭を撫でる隼人。
「俺はケイの力になりたい」
そう言うと、私を自分に向かせ、唇を重ねた。
隼人のお父さんとの話を終え、岸田さんに案内されて、船内の角部屋がわたし達の部屋になった。
岸田さんが、
「この部屋は、防音がしっかりしてるから心配しなくていいよ」
と言い笑顔で部屋を出ていったが、その意味がわかったのは、
隼人が
「それなら激しくしても大丈夫だな」
と微笑んだから。
意味がわかると・・・恥ずかしい。
それなら試しに、というスイッチの入った妖艶な隼人に、散々声を上げさせられた後、シャワーを浴び今に至るんだけど。
「何だか身体がはっきりしないから、真さんに相談したほうがいいのかなと思って」
「今はどんな具合なんだ?」
「ケイのことだ。船に乗る前に真さんに話してないことでもあるんだろ。大丈夫って言いながら、実際は大丈夫じゃないんじゃないか?」
と心配そうな顔をするが
「それがわかってても手加減出来ない俺も悪いよな」
私を抱きしめている腕に力が入る。
「ううん、いいの。隼人に抱かれてる時は、身体の不調は感じないの。満たされてるのよね、きっと」
隼人の頬を両手で挟み、優しく唇を重ねる。
「今はいいんだけど、不意に脱力感があって倒れそうになってみたり、末端が痺れたりはかなりの頻度であるし」
「そうだな、時々倒れる時があったもんな」
寝てる生活から起きている時間が増えた頃、時々不意に意識を飛ばして倒れていた。
その時は、近くに隼人がいたから良かったんだけど。
「あとはね、全く空腹感がないの」
「お腹が空いたって脳の指令でしょ?それがないの。薬で倒れる前には普通にあったのに。食べないほうが体重が増えなくていいんだけどね」
それを聞くと、急に隼人の表情が厳しくなる。
「それ、真さんに言った?」
「誰にも言ってない。隼人が初めて」
隼人が電話を片手にとると、コールを鳴らす。
何度か呼び出したあと、電話口に声が聞こえる。
「はい。木理谷です」
「隼人です。忙しい所申し訳ありません。今お話してもいいですか?」
「大丈夫だよ。どうした?何かあったのか?」
「はい、ケイの身体のことで相談があるんですが」
「傍にご主人様がいるが、聞かれてもいい話か?」
話してる向こうで、
「ケイか?」
という櫻井さんの声が聞こえる。
どうせ隠し通せる相手じゃない。
「聞いてもらっても構わないです」
「わかった、それで相談って何だ」
「ケイの体調がよくないのはわかってるんですが、真さんにも言ってないことがあったみたいで。ケイと代わりますね」
ケイと代わりつつ、電話も音声から画面に切り替える。
「真さん申し訳ありません。忙しいのに」
画面に向かい頭を下げる。
「大丈夫だよ。どうした?俺に言ってないことがあるって。今の状態教えて」
笑顔だけど、いつもの真さんと違う。
「脱力感があって倒れそうになったり末端が痺れたりっていうのは言ったと思うのですが」
「うん、聞いてる」
「一番違和感があるのが、空腹感がわからなくて。食べたいって思うことも全くないんです。悪い言い方だとずっと食べなくてもいられます。調子が良くなればいいのかと思ってましたけど、今もってかわらなくて。空腹感って脳の指令でしょう?今までの私なら考えられなかった。時間が経てば戻るものなんでしょうか」
反応がない・・・。
画面の向こうで何か考えるような素振りをしている。
「真さん?」
「ああ、ごめんね」
「ケイさん、その状態は意識が戻ってからずっと?」
「はい」
「そうか・・・まいったな」
「空腹感が出てくるのは、まだ先なのかもしれない。もう少し様子を見ようか。とりあえず、隼人も近くにいるし食事も3度だけでなく数回に分けて食べるようにしてごらん。後でやりかたを隼人に伝えておくよ」
「有難うございます。そうします」
「そう言えば、ケイさん夜は眠れてる?」
「うーん、眠ってはいますが、眠りが浅くて時々目が開いたりしますね。昼間もウトウトしますから」
「眠れる時に眠るといい。神経質になるのが一番悪い」
「わかりました。すいませんお世話掛けて」
「隣から来る黒いオーラが強くて、まだ俺も命が惜しいから代わるね」
そう言いながらクスクス笑う真さん。
プライベートでは、完全に話し方が違うんだな、なんて思っていたら、
「ケイ?」
電話口に櫻井さんの姿。
「櫻井さん、申し訳ありません、お世話掛けてしまって」
「いいや、謝ることなんてないんだよ。それより、やっぱり傍に置いておくべきだったと思って今後悔してる」
「傍にいないと、心配で仕方が無いよ、ケイ。胸が張り裂けそうだ」
櫻井さんの不安げな顔。
電話で良かった・・・。
目の前でこれを聞いたら、切なくてどうしようもなくなる。
「身体、大丈夫じゃないようだな・・・」
溜息をつく櫻井さん。
「forestaに着いたら、真に診てもらえ。その先のことは考える」
「でも・・・」
私が言おうとすると、
「ケイ、あの使われた毒は殺傷能力のある薬の中でも、特に毒性が恐ろしいものなんだよ」
「えっ?」
毒が強くて、処置が遅かったら命は絶えてたんだとは聞いたけれど、そんな・・・。
「戦場などで使われたら、致死量で大量の死人がでる」
過去の戦いを思い出しただけでも、怒りがこみ上げる。
「例え助かったとしても、その後遺症で生活に支障がでてくる」
「ケイ、今も身体に異変があるだろ。人によって出方は違うんだが」
「この先の事を考えて、ちゃんと治療した方がいい」
櫻井さん、画面ではあるけれど真っ直ぐ私の瞳を見つめる。
「俺たちがついてる。大丈夫だ心配するな。必ず良くなるから」
きっと近くにいたら、櫻井さんが抱きしめてくれたに違いない。
無言で頷くと、
「ケイ、隼人に代われるか?」
「はい、代わりますね」
隼人もいやな予感がしたので、音声だけに電話を切り替えた。
「隼人です」
「隼人か。今話を聞いて驚いたが、ケイの毒の後遺症が思っていた以上に酷い」
「そうなんですか」
ケイが目の前で聞いてるので、動揺をしているのを隠す。
「ああ。完全に、脳障害おこしてる」
「脳の状態を見たい。forestaの前に緊急で停泊する。後で岸田さんに連絡すると、伝えておいてくれ。こっちも医師の手配をするから」
「真さんだけではダメなんですか?」
「真ももちろん一緒だが、脳の専門の医師を呼ぶ」
「・・・ということは」
「本国から呼び寄せる」
そこまで聞くと、事の重大さがわかり、血の気がひく。
「では、岸田さんに伝えてきます」
「ああ。あと、ケイには心配するなと言っておいてくれ。検査してみるだけだと」
「わかりました」




