82 buio/出発する
「ここをやっと出られるな」
助手席に座る岸田さんと運転中の真さんがお互いに今は表の顔で、穏やかに話をしている。
影の最強サポーターの2人、あえて裏の顔を知ろうと恐ろしくて思わないが、でも心強いのは確か。
わたし達はというと、真さんの運転する車に乗って、buioから船で移動ために飛行場に向かっている途中なのだけど。
いつもの通り、車内では私の両手は隼人と櫻井さんの手が重なっていて 。
朝のことも思い出すと、私だけがドキドキして、二人は素知らぬ顔。
「ケイさん、もうすぐ空港に着きますが体調はいかがですか?」
ミラー越しに、優しい眼差しの真さんと目が合う。
命の恩人の真さん、櫻井さんの側近になる前は医師で、薬関係もかなり詳しいとか。
「おかげさまで、随分楽に動けるようになりました。身体が思うように動けない時は不安でしたけど」
にっこり微笑んで、答える。
「それは良かったです。でもまだ無理しないようにして下さいね。あの毒はケイさんの身体の機能を一瞬で落としましたから。元気になったようにみえても回復はまだ完全じゃないので」
確かに、立ちくらみや身体の違和感はまだ残ってる。
「船は別々になりますが、体調が変わったら遠慮なく連絡下さいね」
「はい、ありがとうございます。気をつけます。これ以上皆さんに負担かけたくないですし」
出発が遅れたのも、倒れた私のせいだし・・・。
「負担なんて思わなくていいんだよ。ケイが悪いわけじゃないんだから」
櫻井さんの手が、髪を梳くように私の頭を優しく撫でる。
「それに、今はケイの身体の回復が一番優先だ。この先も多分簡単にはsperanzaにはつけないだろうから、ちゃんと元気にならないと」
「はい」
話をしていると、外の景色が変わってきたのに気がついた。
空港が近い。
「そろそろだな」
櫻井さんは、出発してから何本目になるかというタバコを揉み消し呟く。
「岸田さんの船は、buioからどの辺まで行けますか?停泊するのにそちらに合わせますが」
櫻井さんが、前に座る岸田さんへ声をかける。
「順調にいけばforesta❪フォレスタ❫になりますね」
順調にいけば・・・。
私にもその意味が十分にわかるので、わからないようため息をついた。
「真」
「はい、承知致しました」
言葉は少なくとも、櫻井さんの思いを広い意味を持ってわかってるんだろう。
さすがsperanza軍参謀。
隼人は心の中で呟く。
「隼人」
岸田さんがふいに呼ぶ。
「はい」
「・・・油断するなよ」
「わかってます」
岸田さんの言いたいことがわかる。
飛行中、停泊中・・・どこで狙われてもおかしくない。
「いい機会だ。親父さんを見返してやれ。もう独り立ちできるって」
その言葉に隣で、櫻井さんも頷いている。
「十分、今の隼人には戦える力が備わってるから、自信持っていいと思うぞ」
複雑だけれど、櫻井さんの言葉は素直に嬉しいと思う。
自分を守ると同時に、この手の温もりに繋がるケイを絶対守らなければ。
空港の敷地内に入ったようで、車内は緊張感で空気が張り詰めているのがわかる。
私の両手に繋がれている温もりにも力が入る。
真さんは目的地に着くと車を止めた。
助手席の岸田さんが降り、周囲を見渡す。
彼も、隼人のお父さん側近ということ、隼人以上に特殊な訓練も受けてるし、周りには恐れられてるんだ・・・と隼人が教えてくれた。
後部座席のドアが開く。真さんだ。
先に隼人が降り周囲を見渡し、私に手を差し延べる。
「ケイ、おいで」
隼人の呼ぶ声に頷き、隣に座る櫻井さんの方に振り向くと、
「何も心配しなくていい、近くにちゃんといるから」
笑顔でそう言いながら、私の頬にキスをした。車内は薄暗いので誰も気がつかないだろう。
「ほら、隼人が待ってる」
頷いて、外で待っている隼人の手をとった。
外にでて周りを見渡すと、相変わらずたくさんの人達でごったがえしていた。
buioに着いた時もそうだった。
色々な思惑が混じり合っている星。
滞在は数日間だったのに、それ以上に時がたってしまったんじゃないかと錯覚しそうになる。
この先は、何が待っているんだろうか。
最後に櫻井さんが車から降り、そして4人が、私を囲うようにして歩き出し、搭乗口を目指す。
空港内でセキュリティチェックを済ませ、既に出発準備を終えていた私たちの乗る船に着くと、顔の知ったSPさんが入口に立っていた。
「何か変わったことは?」
私の後ろから、声が聞こえる。
いつもより声のトーンが低い真さんの声にドキッとする。
振り向くと、とても厳しい表情をしている。
「特に変わりはありません。いつでも出発できます」
それに答えるように、私たちの前に立つ岸田さんが、
「ありがとう、助かりました」
とお礼をいうと、笑顔でこちらに振り返り
「では、櫻井さん、隼人さん forestaで」
二人が頷いたのを確認すると
「隼人、ケイさん行くよ」
先に船内に入っていった岸田さん。
私は、手にある櫻井さんの温もりを握り、出来るだけ穏やかに言葉を繋ぐ。
「鍵、ちゃんと持ってますから心配しないで下さいね」
胸の間にあった鍵を見せ、存在を確認する。
もしトラブルがあって、私が連れさられたとしても、信じて待っている・・・ということは心の中にしまっておく。
「心配するな・・・というのは、無理な話だが」
そういうと、私の鍵を持つ手に櫻井さんの繋ぐ反対の手が重なり、鍵にキスを落とした。
「これは、ケイを守るものだ。万が一の事があっても必ず助けに行くから信じて待っててくれ」
私の心の中がわかっているように答えてくれる櫻井さん。
「はい」
そして、櫻井さんはそのまま隼人に視線を向けると、
「隼人、この先は今までの相手とは桁外れに違うが、大丈夫。自信を持って戦え。俺たちも全力でサポートする」
その言葉に、隼人も大きく頷いている。
「出発する」
櫻井さんが、私の手を離したのが少し寂しく感じたけれど、いつもと同じように頭を撫でて、真さんと船に向かうため歩いていった。
「ケイ、行くよ」
隼人が抱きしめて、優しく唇を重ねたあと、私の肩を抱き船内に向かって歩き出した。




