8 告白
隼人の運転する車は、海岸沿いのイタリアンカフェに着いた。
車から降りて外にでると寒さはあるけれど、潮風が気持ちをつつんでくれる。
「海はいいな~。」
「食事をしたら少し海岸歩こうか?」
背中越しにふわっと温かさを感じる。隼人が後ろから抱きしめたからだ。
「身体が冷える前に中に入ろう。」
どちらからともなく、自然に手を繋ぎ、店に入る。
海が見える窓際に座り、隼人はPizza、私はPastaを頼んだ。
しばらく外の景色をぼんやり眺めていると、
「疲れただろ?」
声の方へ振り向く。
「疲れてない…って言ったら嘘になるかな。何だか一辺に色々頭の中に入ってき
て、整理しきれないみたい。」
「そうだよな。1週間整理しながら考えるといいよ。でも、旅のことは、気持ちは
ほとんど決まってるだろ?」
「うん…。」
その後、旅の話は触れず、お互いの趣味や普段の生活、仕事の話などをする。
10年近くも一緒に働いて知らないことの方が多かったことに、びっくりした。
食後のコーヒーを飲みながら、目の前の隼人に聞く。
「隼人は、店主の話を聞いていてどう思った?」
急に聞かれ、すぐに言葉がでない。
「どう?って。」
ケイの表情を伺いながら、聞き返してみる。
「店主の印象や旅の条件など説明を聞いてみて。」
真剣な表情で返してくる。
「店主はとりあえず、胡散臭い所もなさそうだし、旅のことは…色々考えること
はあるんじゃないかな?」
「そうね。条件をだしてきた時はびっくりしたわ。まぁ、それだけ大変な道のり
だってことかもしれないけど…。」
そこまで言ってから、黙り込む。
「出ようか?」
私の手を握り立ち上がる。頷くと、隼人もにっこりする。支払いを済ませ
外にでると、強い潮風が頬を撫でる。
思わず、自分の腕で身体を抱きしめると、その上から温かい体温が重なり、
隼人のコートの中にすっぽり入ってしまっている。
「隼人、あったかい。」
コートの中で隼人が私の腰を引き寄せる。見上げると、こんな顔されたら
女の子はイチコロ…みたいな、柔らかい笑顔で私を見つめている。
「少し歩こう。」
二人で、カフェからすぐの所にある海岸の砂浜に足を運んだ。
「海、久しぶりだから嬉しいわ。気分が凹んでいる時とか無性に行きたくなるけど。
ほっとするの。不思議ね。」
「今は凹んでるの?」
隼人はコートの中で、私を引き寄せる。
「ううん。今は大丈夫。ドキドキはしてるだけ。」
見上げて隼人の顔を見つめる。
「ケイ…。はぁ…やっぱり俺だめだわ。」
「ん?どうしたの…って。」
気がついたら視界が暗い。隼人にがっちり抱きすくめられていた。
「言おうか迷っていたけど、やっぱり言わずにいられない。」
「ケイ好きだよ。誰にも渡したくない。」
何となく隼人の気持ちは感じていたけれど、改めて言われ腕の中で固まる。
普通の女の子なら、きっと文句なしで喜ぶ台詞。
私は、数週間後には、旅にでる。けれど…。
「ありがとう、嬉しい。あなたに思って貰えるなんて。私も隼人のこと…
好き…。」
言ってしまった…。
「………。ほんとっ?」
隼人が真剣な顔で私を見つめる。
コクンと頷く。
「ほんとよ。今回、一番初めに不動産屋で話を聞いた時、隼人の顔が浮かんだの。
どう思うかな?って。でも、最終的な判断するのは自分自身だと思ってる。
同僚の域は越えられないし、相手にもされないと思っていたから、今まで言わな
かったの。あなたのことが心のどこかにいたから、付き合っていた彼との結婚
にも踏み込めなかったのかもしれない…。」
「でも、旅にでてしまえば終わりだと思って…。思いに蓋をしようと思ったら、
辛くて昨夜は寝られなかった…。」
隼人の目をまっすぐ見つめ思いを伝える。
隼人の指が、私の顎に触ったと同時に、唇に温かいものが重なる…。
「チュッ。」
濡れた音をたてて離れる。
「俺もずっと前からケイのこと好きなんだよ。気がつかなかった?たぶんケイと
他の人との接し方が違ったと思うけど?」
「『氷のプリンス』の隼人が、私には優しくて甘いのは感じてたわ。
何故私だけ?って思ってた。」
「普段はそれでも抑えていたんだ。彼氏と付き合っていたのも知ってた。わかっ
ていてもどうしようもなかったし。俺も何人かと付き合ってみたよ。
でもやっぱり駄目だった。」
「ケイ、俺はお前じゃなきゃ駄目なんだよ。」
強く抱きしめられる。
隼人の言葉に涙が溢れる。
「もっと早く思いが通じていたら離れなくてもよかったのに…。」
「speranza[スペランツァ]に俺も一緒にいくよ。」
「えっ??」
びっくりして隼人を見る。
「昨日の電話の後、迷ったんだよ。でもさっきの話聞いて決めた。安全の保障がない
道のりをケイだけで行かせたくない。」
「こうやって思いがやっと通じて尚更ね。」
私の頭をそっとなでる。
「でも、帰ってこれる保障はないじゃない。仕事も隼人いなくなったら会社は
困るだろうし。これは私の問題で…。」
「ケイ?これは二人の大事なことだよ。一人で行かれたら、待ってる俺は
どうしたらいい。もし、途中で亡くしてしまったら一生後悔する。」
「もう、離れたくないんだよ。」
「隼人…。」
気がついたら、海に輝く太陽の光が西へ傾いてきていた。
「ケイ、今日は帰したくない…。」
返事の代わりに、隼人の洋服をギュッと握りしめる。
私の額にチュッ、と軽くキスをすると、
「車に戻ろうか。」
たくさんの思いを抱えて、二人は歩きだした。




