63 冷戦(隼人&櫻井)
列車に無事たどり着き、ソファーに座り、タバコに火をつける。
煙と共に、大きな息を吐き出す。
タバコを持つ反対の手に、ケイから貰ったライターがある。
買い物の際に、いつの間にか買ったらしいが。
「櫻井さんに、気に入ってもらえるかわかりませんけど・・。」
と、部屋に入る前に、遠慮がちにケイから渡された包みを開けると、自分の手にしっくりと収まる手触りのいいライターだった。
「気に入らない・・わけがないだろ。」
と呟く。
先程まで自分の手の中にあった、ケイのぬくもりを思いだし、ライターを触りながら、何度目かの溜め息をつく。
買い物も、ケイが行きたいと言ってるが、どうだろうかと朝隼人から連絡を貰った時、今の状況で一瞬迷ったが、ケイの喜ぶ顔を思ったら、
「俺と隼人が近くにいれば、少しの時間ならいいだろう。」
と返事をした。
ケイと一緒に買い物に付き合ってると、ほんとに嬉しそうで、目がキラキラしている。
気がついたら、ケイと一緒に、自分自身も楽しんでいた気がする。
地球をでてから、こういう時間がなかったからな。
少しの時間なら、俺たちが守ってやればいいこと。
ケイの隣に立ち、ふと首筋に目がいく・・と、赤い印が数ヶ所みえた。。
一瞬凝視したが、隼人が付けたものだと分かるまでには、時間がかからなかった。
隼人が、〃ケイは、自分のものだ〃と言っているようで。
・・プツッと自分の中で何か切れた。
ふっ、上等。それならこちらも遠慮なく反撃にでるか。
櫻井さんの顔つきが変わったのを、後ろにいた真さんがぎょっとした顔で見ていたことは、彼は知らない・・。
手を繋ぎ、駅に向かって歩いていると、ケイは辺りを見回してキョロキョロしている。
多分、駅で狙われてるから、その不安感からだろう。
無理もない、自分の意志ではなく、巻き込まれているのだから。
「ケイ。」
呼ぶと振り返り見上げる視線にドキッとするが、
「大丈夫、ケイには指一本触れさせない。」
と伝えると、膝を折りケイの額へキスをした。
一瞬びっくりして、固まったケイも顔も可愛い。
クスッと笑い、何もなかったように歩き出す自分を、彼女の瞳にはどう映っていたんだろうか・・。
本心は抱き締めたい衝動にかられたのだけど、そこは抑えた。
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列車は、buioに向け、定刻通りに出発した。
3日ほどでつく予定らしい・・らしいっていうのは、この先どうなるかわからないから。
列車が停まった前例もあるし。
そう、speranzaに確実に近づいている今、更に危険は増しているはず。
でも、どうにでもなれ・・なんて、自暴自棄にはなれない。本当はなりたいけど。
私の取り巻く環境は、悪くなっている。
私が望まなくても、相手が望むから。
speranzaに着いて、私の持つ鍵から解放されたら、この束縛から逃れることができるのかな。
後で、櫻井さんに聞いてみよう・・。
櫻井さん、どういうつもりでさっきは私にキスしたんだろうか。
きっと、不安になっていたのがわかったんだろうけど。
隼人の前でやらなくても・・。
と、ふと思い出す。
隼人がつけた印・・・まさか。
火に油を注いだのかも・・,そう、考えると納得する。
どうしようもなく、大きな溜め息をついた。
離れていくlagoの星を、考え事をしながら窓辺に座ってボーッと眺めていると、背中から暖かい体温で身体を包まれた。
「ケイ・・。」
「ん?」
私を呼んだ声が、それ以上聞こえることもなく、列車の進む音だけが聞こえた。
どのくらいの時間がたったのか、背中の温もりが、やっと動き出し、ぎゅっと抱きしめられる・・。
「ケイは・・俺のだ。」
隼人の声が震えているのは気のせいか。
列車に乗る前に私が、櫻井さんにキスをされてから、隼人の様子がおかしい。
抱きしめる隼人の腕を解き、向かい合わせに座り、視線を合わせると、不安気に隼人の瞳が揺れている。
隼人の頬を、両手で包み、微笑みながら
「大丈夫よ。私はあなたの傍にいるわ。」
「それとも、信じれなくて、不安なら私から離れる?隼人。」
意地悪な質問かなと思い、首を傾げると、
びっくりした隼人も、フッと口角をあげ笑う。
「離れるわけないだろ。俺はケイの王子様、だから・・な。櫻井さんであろうが、どこぞの王子なのか知らないが、誰にもケイは渡さない。」
隼人もきっと不安で仕方がないんだと思う。
私も腕を背中に回して、ぎゅっと抱きつく。
私を抱きしめる隼人の香りが、ほっとさせる。
そして、どちらからともなく、唇を重ねた。
最初はついばむように、そしてだんだん舌を絡め深くなる・・。
チュッ・・。
そして、たっぷりの水分を残し離れる。
「ケイを閉じ込めておきてぇ・・。」
一瞬耳を疑うような言葉をはき、抱きしめる腕に力が入る。
「監禁??」
顔をあげ、隼人を見つめると、困った顔をする。
「できるものなら、閉じ込めておきたい。そうしたら、もう誰の目にも入らないからな。」
一歩間違えると犯罪者になりかねない・・。
「心配性ねぇ、隼人は。」
「俺をそうさせるのは、ケイだけだ。」
「うふっ、ありがとう。でも、ここまで思ってくれる隼人がいるだけで、私は幸せよ?」
「オフィスで働いていた隼人から想像できないくらい、旅に出てからびっくりさせられているけれど、今もって隼人が私を選んでくれて、愛してくれていることが信じられないけどね。」
「それはお互い様だな。」
そういうと、櫻井さんがキスした額に、隼人もキスをする。
「上書き・・。」
「え?」
「無かったものにした。」
あ・・そっか。
横を向いて、面白くなさそうにしている隼人。
ふてくされる、隼人の頬にキスをした。




