4 想い人
店に入ると、満席に近いため、空いているカウンター席に座る。
「何にする?」
「俺は生ビール。あとは適当でいいや。ケイは?」
「私はハイボールにしようかな。あとは任せるわ。今日は、隼人の奢りでしょ?」
お店に入って、初めて横に座る隼人と目が合う。
「そうだったね。」
と言いながら何品か選んで、店員さんに注文した後、隼人が話し出す。
「昼間の話…どうするんだ?」
ドキドキしすぎて頭の回転が乱れてる私に、ストレートに話を振ってきた。
「ん~どうするも、まだ決められない。」
本当は、行く気持ちがほとんど決まっているけれど、言い出せない…。
「本気で行きたいのか?」と真剣な顔で尋ねる隼人。
「行こうとは思ってる…。」ハイボールを口にしながら呟くように答える。
一瞬、沈黙の間が空く。
「…今の生活を止めてまでもか?」
更に、眉間に皺を寄せ難しい表情をしながら、尋ねる隼人の顔を見ながら話し始める。
「知らない所へ、それも未知の宇宙へ行こう…と思うのは、今の生活をしていても
前が見えないから。」
「?」隼人はわからないという顔で私を見る。
「この年まで独身で、と言っても、結婚を考えた彼もいなかったわけじゃないの。
実現しなかっただけで」
「普段、他に何も変化のない仕事中心の生活をしてきて、同期はみんな結婚して
やめていっても、私は結婚がすべて幸せ、ではないと思っていたの。
別に強がり言っているわけじゃないのよ。来年は30歳になるし。
、このまま何もしないより、何かしてみたい…と思っていた時に、
ちょうど不動産屋の前を通りかかってこの話に出会ったの。」
「それに、仕事もそろそろ後輩達も増えてきて任せられるようになってきたし、辞めても
支障がないかなと。」
「支障はでてくるよ…。」溜め息混じりの隼人の声。
「そう?きっと大丈夫よ。それに私の席も空けば、隼人の隣に来たい人達がたくさんいるだろうし。」
クスクス笑っていると。
「……」
「どうしたの?」急に黙ってしまった隼人に不安になる。
「ごめん。考え事してた…。」
「ケイ?」急に名前を呼ぶのでドキッとする。
「なぁに?」
「行くつもりなら、また不動産屋を訪ねるんだろ?」真剣な眼差しで、私を見つめる。
「そうね。詳しい話も聞いてみないといけないし、行くようになったら旅の手続きもし
てくれるって言ってたし。」
「その話の時、俺も行く。」
「えっ?」意外な返事に、隼人の顔を見る。
「いや…、宇宙旅行なんてめったにないだろ。どんなものなのか聞いてみたくなってさ。」
珍しく慌てたように答える。
「彼女と行くために?」さりげなく聞く私。
「彼女いないし。」少しむっとした声で即答する。
「今は、じゃないの?」
アルコールの力で、ちょっと絡んでみる。今まで近くにいても聞いたことがなかったから。
「いいよ~。明日土曜日だから仕事休みだし、一緒に行ってみる?」
何杯目かのグラスの中味をを飲み干す。
「ああ…。」
「隼人?」隣の顔を覗きこむと、悲しげな瞳と目が合う。
「出ようか」目を伏せ、隼人が立ち上がる。支払いをして店を出てきた。
店から駅に向かうが、話をすることなく二人で歩く。駅につく少し前、
隼人が立ち止まって私を見つめる。
「明日、家に車で迎えにいくよ。10時でいい?」
「うん。いいの?」
「いいよ。車の方が行きやすいだろ?」
「ありがとう。待ってる。今日はご馳走さま。隼人と話もできたしよかった。」
隼人がにっこりと微笑むと同時に、伸びた手が、私の頬を撫でる…。
「やっぱり、今日の隼人、いつもと違う。どうしたの?」
「ん?どうもしないよ。ただ今日は・・ケイに無性に触れたくなっただけ・・かな。」
言葉を無くして、固まる私に、
「じゃ、明日迎えに行くから」
と、手を振って電車のホームに向かっていく隼人。
なんなのだろう・・・・・。
私は今日の出来事を頭の中で整理ができずに、しばらく動けなかった・




