39 隼人の生い立ち
プラットホームに停車しているmidnightblueの列車に戻ると、車掌のジョニーさんを始め、スタッフが笑顔で、出迎えてくれた。
「戻ってこれたわね。」
「まぁ、これからどうなるかわからないけどな…。」
車から降りて、ここまで来る間も、あまり話すことはなかった隼人。
「とりあえず、desertoからは出られる。」
隼人は、ソファーに足を伸ばし、座りながら、私を前向きで自分の膝の上に座らせ、腕を私の腰へ回してきた。
「lagoには、地球時間で4日かかるって、さっきジョニーさん言ってたわ。」
後ろにいる隼人に声をかける。
「そうみたいだな…。」
と言ったまま、考え込むように、そして私を後ろから抱きしめた。
ジョニーさんの出発のアナウンスのあと、列車は静かに動き始めた。
動き出す景色を、言葉なく眼で追う…。
「ケイ…。」
しばらくすると、後ろの隼人の声がする。
「ん、なに?」
隼人の抱きしめる腕の力が緩むと、今度は私の身体を横に向ける。
「ケイ、大丈夫か?」
心配そうな顔をして、両手で優しく私の頬を包む。
「私は大丈夫よ。隼人こそ大丈夫?」
「何か考え込んでいたみたいだったから…。」
「ごめん。。」
「lagoに向かうまでのことはもちろんのこと、先のことを考えていたんだ。」
「さっき、親父にも連絡した…。」
そういえば、車内で何処かへメールしてたわね。
「公はまずいが、親父の関係者に、俺が追われてることも、lagoに向かっていることも、伝えた。」
「何か返答はあったの?」
「怪しい動きがあるのは、掴み始めてたが、俺が追われてるのは知らなかったみたいだな。驚いてたよ。」
「そうなの…。」
「あと親父に、ケイをしっかり守ってやれって、言われた。」
「えっ?」
「言われなくてもそのつもりだけどな。」
頬にかかる手が顎に、そのまま二人の唇が深く重なる…。
「俺を追うやつらの方は、親父の関係者がすでに動き出したみたいだし。」
「櫻井さんにも、あとで連絡しないとな。」
「そうね。」
「これからは、度々親父からも連絡が入るだろう…。」
と言いながら、浮かない顔をしている。
隼人にしかわからない、何か複雑な思いがあるんだろうな。
だから、あえて今は何も聞かない…。
「でも隼人、よかった。お父さんが動き出してくれるなら。」
これは本当の気持ち。お父さんが動いてくれれば、きっと解決も早い。
「俺は良くない。」
私を引き寄せ抱きしめる。
「隼人…。」
「俺より、ケイの方がこれから本格的に周りが動き出すはず。」
「そう…、私はまだこれからだものね。気が重いわ。後戻りはできないし。」
前に進むしかない選択肢も辛い…。
「誰が一緒にいるんだ?」
隼人の大きな手が私の頭を撫でる。
顔を上げると、隼人がにっこり微笑む。
「大丈夫だ。俺が傍にいる。」
「いざという時は、本性を出す。」
「ん?本性って何?」
え?何か隠してた?隼人、怪しいものでも持ってるのかしら…。
「お前、今何かとんでもないこと考えてただろ?」
「ううん…何でもないわ。」
なんでわかったの?
「ケイの顔みればわかる。」
さすが…。
「一日でも早くsperanzaに行って、全部解決してケイと結婚するまで、俺も倒れるわけにいかないし。」
「でもこんな所で、力が役に立つようになるなんて思わなかったな。。」
「ちから?」
「まぁ、護身術のもう少し専門的みたいなものだな。小さい頃から、教わってきた。」
「もちろん、銃も使える。」
「親父の仕事が特殊だろ?」
「小さい頃から、狙われるのは日常茶飯事だったんだよ。」
「え?!そうだったの?」
初めて聞く話でびっくりする。
「うん。襲われても大丈夫なように、訓練受けてる。」
「…」
突然なことに、言葉がでない。
「desertoで寝込み襲われた時は、油断してた。本当なら二人とも倒せた相手だ。」
「あの時は、ケイに怖い思いさせて悪かった。」
隼人の抱きしめる力が、強くなる。
「ううん。隼人のせいじゃないわ。」
「事情があって、あえて親父の仕事とは関わりたくないから、全く関係ない商社の仕事についたんだけど。」
「でもまぁ、俺の選択は間違っていなかったな。仕事は別として。」
「ん?」
「こうやって、ケイに出逢えたんだからな。」
「でも、出逢わなかったら、こんなトラブルにも巻き込まれなかったでしょ?」
出逢いには偶然はないというけれど…。
「ケイは俺に逢えて嬉しくないのか?」
真剣な眼差しで、私を見る。
「嬉しいにきまってる…でしょ。」
隼人の頬にキスをする。
「それを聞いて安心した。」今までにない、柔らかい笑顔の隼人。
「ただ、今は戸惑いがあるの。」
「自分の周りで、それも知らない所で、たくさんの人が動いているから…。」
「そうだよな。」
優しく私の頭を撫でながら、答える。
「大丈夫、俺の傍にいればいい。」
笑顔で頷く…。
「私の命は、隼人に預けるから。」
「…一生、預かるから安心しろ。」
「うん…。」
「さて、寝る前に櫻井さんに連絡するか。」
「気が乗らないけどな。」
隼人は、苦笑いしながら、電話を手にとった。




