37 不安な夜
「…報告は以上です。」
「ありがとう。」
隼人とケイが、櫻井の待つ部屋に入ると、ソファーに座る櫻井とSPらしき男性とが、話をしていた。
「櫻井さん、お待たせしました。」
隼人が声をかける。
「少しはゆっくり休めたかい?」
ソファーに座るようすすめてくれながら、話をする。
「部屋の中巡りをしました。とても素敵なお部屋だったので。」
と笑いながら私が答えると、柔らかな笑顔で私を見つめながら、
「それならよかった。何かまだ希望があれば言ってくれていいから。」
「そんな。充分過ぎて、反対に申し訳なくて…。ありがとうございます。」
「いいんだよ。気にしないで。」
と、話していると、
「櫻井さん、打ち合わせって?」
隣に座る隼人が、櫻井さんに不機嫌な声で話かける。
「そうだね。始めようか。」
言葉と同時に、櫻井さん、真剣な表情にかわる。
「ケイが連れて行かれる時、SPも近くにいたはずなんだが、確認してみたら、あの騒動に全く気がつかなかったみたいなんだ。」
「どうやって忍びこんで、連れ出したかは、捕まえた二人は白状したが、あと一人は泳がしてある。」
「泳がしてある!?」
隼人と私が同時に反応する。
「そう、空港でケイにぶつかった男。」
あ…そうだ。
そういえば3人仲間だった。
「奴、何処にいるかわかってるんですか?」
「わかってる。今SPが奴についてる。このHotel近辺に間違いなく来てるはずだ。あれだけの騒動だ。黙って引き下がるわけがない。」
顔色変えずに櫻井さんが答えるが…。
「二人捕まえただけで、何も解決してないからな。」
隼人も怪訝な表情をしている。
「隼人の言う通りだ。肝心なことを、捕まえた二人はしらない。」
「でもあの二人、私には、tenerezzaで待っている人がいると言っていたわ。私と鍵が欲しい…と。」
「本当か?」
櫻井さんの動きが止まる。
「ええ、間違いないわ。私に逢わせたい人が待っていて、鍵も…って。」
「だから余計に捕まるわけにいかないと思って暴れたんですもの。」
「……………。」
櫻井さんが、急に黙ってしまった。
「櫻井さん…?」
「あ…ケイ、ごめん…。考え事してた。」
「どうかしましたか?」
隼人も櫻井さんに聞く。
「…ケイが、連れていかれなくて本当によかったよ。」
真剣な眼差しの櫻井さん、私を真っすぐ見つめる。
「あのまま連れていかれたら、ケイの命も、speranzaも大変なことになってたかもしれない。」
「tenerezzaの王は、手に入れたいものがあれば、手段を選ばない。」
「人の命だって、奪うにも全く容赦ない。」
「…ただ。」
「ただ…?」
私を見つめる櫻井さんと目が合う。
「鍵を手に入れたい…っていうのは、わかるんだが。」
「ケイにも逢いたいっていうのは、どうも納得がいかない。」
「確かに…。」
隼人も頷く。
「何が目的なのかな?」
私も不安になる。
無意識に、自分の腕で自分を抱きしめていた。
それに気がついた隼人が、私の腰を引き寄せ、抱きしめる。
黙って考えていた櫻井さん、
「…まさか。そんな。」
「櫻井さん?」
「たしか、tenerezzaの王は、隼人たちと同年代…。」
「もしかして、王妃探しかっ!?」
櫻井さんが、焦る…。
「王妃?」
全く話がわからない。
「tenerezzaの王は結婚していない。」
「それが、私とどこでつながりがあるのか、わからないのですが…。」
隼人の抱きしめる力が強くなる。
「ありえる話だな。」
櫻井さん、爆弾発言です…。
「いや…櫻井さん、全然ありえないんですが?」
私も焦る。
一般庶民の私が、王妃なんて、全く縁なしです。
これ以上の混乱は勘弁してほしい…。
「王妃なんて、とんでもない。」
隼人が重い口を開く。
「冗談じゃない。ケイを連れていくなんて。何奴だよ、全く…。」
「絶対に渡さない。」
「隼人、俺も同感だよ。冗談じゃない。」
櫻井さんも、ため息をつきながら答える。
「今夜が勝負だぞ、隼人。」
「わかってます。」
「今夜無事越えたら、朝一でlagoに行く列車に乗るといい。」
「櫻井さん、列車には隼人を狙っている奴らがいたわ。大丈夫かしら?」
隼人も狙われている身、とてもとても気になる…。
「大丈夫…とは言い切れないが、相手も列車内での騒動は、最低限に抑えるはず。」
「もし、隼人を捕まえても、次のlagoまでは、途中下車できないからな。」
「あと車掌には、話はしてあるから、怪しい奴はチェックができる。」
「ジョニーさん、事情知ってるんですか?そうはいっても私は、100%の信用はしませんが。」
「買収されてるかもしれないからな。」
隼人も答える。
「一般常識でありえるはなしよね。」
「細かい事情は話してない。ただ、列車のあの部屋に入る時点で、一般の旅人ではないことはたしかだから。予約の時点で、speranzaまで、間違いなく送り届けてほしいと話はした。」
たしかに…。
一般庶民は無理だわね。
「駅までは送っていくから。」
「櫻井さんはこの先、どうしますか?」
「列車には乗らないが、lagoには向かうよ。たぶん列車より早く着くはず。」
「車内でも何かあったらすぐに連絡してくれればいいよ。SPも列車に乗ってるから。心配しなくていい。」
櫻井さんがにっこり微笑んで返事をしてくれた。
「そういえば隼人、speranzaに向かうこと、親父さんに言ってきたか?」
「はい。ケイと二人ででかけると。それがなにか?」
「ならいい。たぶん親父さんも隼人の身を案じているはずだから、隼人を狙ってる奴らのこともいずれ耳に入るだろう。」
あ…なるほど。櫻井さんの思いが少しわかったきがする。
「さて、食事して今夜に備えるか。」
言葉は、軽いが、表情は厳しいままの櫻井さん。
「間違いなく、今夜から、明日にかけて、多分動きがある・・・・。」
desertoでの夜が始まる・・・。




