34 救出
「隼人、早くこれに乗って。」
ホテル前に着いた、一台の車に櫻井と共に乗り込む。
「空港まで急げ!」
櫻井はイライラの気持ちを抑えきれず、運転手に伝える。
「承知しました。」
運転手はすでに状況がわかっているのか、冷静に答える反面、出発と同時に猛スピードで走り始めた。
隼人は、二人の上下関係のやりとりと、車内の凄さに圧倒されている…。
「すごい…。」
一般レベルの家庭より上の生活をしてきていた隼人でさえ、お目にかかったことがない、車内の広さや豪華さ。
ちらっと横に座る櫻井をみる。
イライラはあるだろうが、落ちついた雰囲気で、ナビを追っている。
やっぱり…櫻井さんもただ者じゃないし、ケイの後ろにあるものが、大きすぎる。
隼人は、どうしてこうなってしまったのか、たまらなくなって大きなため息をついた。
「どうした?」
櫻井が尋ねてくる。
「いや…。ケイが心配で。大丈夫かと思って。」
「まだあいつら空港には、着いていないが、特別な入り口含めて、空港の入口全部SPで押さえてあるから、先には進めないだろう。」
「特別な入り口って?」
そんなの見たことがない。
「空港内で、個人で所有する宇宙船がとまる所があるんだが、そこに行くための入り口だよ。」
「たぶん、あいつら、こっちに入って来るはずだ。」
確信したように答える。
「隼人、着いたと同時に、奴らからケイさんを取り戻しに行くから準備しておけよ。」
と言いながら、身体にいろいろ装備を付け始める。
「櫻井さんって、何者なんですか?」
緊急事態だけれど、準備をする櫻井に聞かずにいられない…。
「ケイさんと同じこと聞くんだな。」
クスッと笑う。
「何者…かは、いずれ後からわかってくることだと思うが。」
「そうだな。今まで戦ってきて、銃撃戦では負けたことがないかな。」
ピストルを持ち、弾を込め準備のできた櫻井は、すでに先程とは顔つきが違う。
一瞬、言葉を失う……。
「ケイさんは、必ず取り戻す。」
櫻井の言葉に、強く頷いた。
「もう10分ほどで、空港に着きます。」
「わかった。」
私を連れ去った、男たちが、話をしている。
「あと10分ほどで着く。出発できるようにしておいてくれ。」
一人の男がどこかに連絡をとっている。
「たぶん、一緒にいた男も目が覚めて追ってきてるだろうが、その前に出発する。」
「もうひとり男がいましたが、大丈夫でしょうか?」
「たぶんな。たいしたことないだろう。」
隼人と櫻井さんの話だ…。
もうひとりの男って、櫻井さんのことだよね。
彼のこと知らないんだ。
speranzaの関係者なのに…。
今、きっと二人で、追ってきてくれている。
少しだけ、心に生きる希望が出てくる。
(隼人……助けて。他の星に連れていかれちゃう。)
必ず、何があっても助けに行く…と言ってくれた彼の温もりを、思い出す。
私も、黙って連れて行かれるわけにはいかない。
でも、どうしたらいいの。
そっと外をみると、空港らしきものが見えてきた。
そうだ。大声あげて抵抗しよう。
身体も、男たちにわからないように、そっと動かしてみる。
大丈夫。動ける……。
隼人たちが、見つけてくれるように。
櫻井さんがいれば、SPも空港内にいるはず…。
鍵を握りしめる。
必ず、speranzaに行くんだから。
ここで連れて行かれるわけにはいかない。
(隼人、櫻井さん、私を見つけて…。)
車が段々とスピードが落ちてきた。
もう少しだ…。
心臓が飛びだしそうな勢いで、脈を打っている。
私が頑張らなきゃ…。
そして、車が止まった。
「よし、降りるぞ。」
男が後ろにいる私に声をかける。
「降りるぞ。一緒にきてもらう。」
私も、まだ虚ろなフリをして、ゆるゆると起き上がる。
「ここは?」
「空港だ。今から宇宙船に乗る。」
「なぜ私があなたたちと一緒に行かないといけないのよ。」
「tenerezzaという星で、待っている人がいる。」
「私は、逢う気持ちもないし必要ないわ。」
「貴方がなくても、逢って貰わないと困る。こちらは用があるのでね。貴方と、貴方の首にかかっている鍵に…。」
(やっぱり鍵か。)
「私はいやよ。」
男が強引に連れて行こうとするので、
「いや~~。誰か助けて。連れて行かれる~。」
引っ張られながら、大きな声で反抗する。
「黙っていけなければ…。」と男が言った瞬間、
「パンッ!」
「ああっ」
私の手を掴んでいる、男の足から血が流れている。
「ケイっ。」
声のする後ろを振り返った瞬間、櫻井さんが、私の手を握っていた男を思い切り殴り倒し、そして私を抱きしめた。
目の前では、隼人がもう一人の男を投げ飛ばし、ピストル口を、男の頭に当てていた。
「大丈夫だったか?」
櫻井さんが私に尋ねる。
声にならなくて、震えながら頷く。
「間に合ってよかった。」
顔を上げると、微笑んでいる。
「櫻井さん…。」
「ケイ…。」
櫻井さんが、私を包むように優しく抱きしめ、額に軽くにキスをした。
不思議…とっても居心地がいいの。
「よくも俺の大事なケイを連れて行こうとしてくれたな。いい根性じゃないか…。」
目の前で、ピストルの引き金を引きそうになっている隼人に、
「隼人まてっ。そいつを殺っても、何も解決しない。生かせっ。」
それを聞いて、隼人も我に返る。
「こいつら連れて行って、はかせろ。」
櫻井さんがいうと、SPが数人きて、二人を連れて行った。
残ったのは、呆然としている私と、隼人と櫻井さん。
男たちが行ってしまうと、隼人が私の所に走ってきた。
「ケイっ」
今度は隼人に抱きしめられる。
私も、手を伸ばして隼人に抱き着く。
「はやとぉ…。怖かった…。」
隼人の体温を感じた途端、涙が溢れてきた。
「無事で…よかった…。」
隼人も、力いっぱい抱きしめる。
「必ず助けに来てくれるって信じてたけど、でも…。」
涙で言葉にならない。
「わかってるから、喋らなくていい。」
大きな手で、頭を撫でてくれる。
やっぱり隼人がいい…。
「隼人、ケイ、ここにいるのはまずい。とりあえず車に行こう。」
私の隣に櫻井さんがくる。
「はい。」
三人で歩きながら、話をする。
「櫻井さん、ありがとうございます。」
立ち止まって、櫻井さんに頭をさげお礼をいう。
「当たり前のことしただけだよ。」
櫻井さんの手が、私の頭にのる。
「責任があるからね。」
「でも、無事でよかったよ。」
「これから奴らの正体がわかってくるだろうけどね。でも、ただじゃおかない。」
意味深なことを言う櫻井…。
「今度は足だけでは、すまないから。」
「あれは櫻井さんが撃ったんですか?」
撃たれた男の足を思いだす。
「命が助かっただけありがたいと思って貰わないとね、奴らには。」
「ケイの寝込みを襲っておいて、薬で眠らせて、連れていったんだから。」
「本当なら、殺されても文句はでないと思うよ。」
「今は、あえてとどめを撃たなかったけど。」
「えっ?」
サラリと言う櫻井さんの顔をみる。
「気持ちはとどめを撃ちたいくらいだったけどね。隼人と一緒で。」
隼人をみると、難しい顔しながら、頷いている。
「死人にくちなし…だから、死なれたら奴らの思惑がわからなくなるだろ?」
「だから生かしたんだ。」
「聞いたあとは、それから考えるかな。」
「!! 」
私も、隼人も返答出来ずに固まる。
「これが、駆け引きだよ。」
「国を守るための…ね。」
「そういえば、男の話では「tenerezza」に行くって言ってたわ。」
「tenerezza?ほんとか。」
真剣な表情で、私をみつめる。
「間違いないわ。車を降りる時言ってたもの。」
「そうか・・・。」
しばらく考えてから、
「また違う方向で動くな・・これは。」
「まだ今回のは序の口かもしれないが。」
ふと、悲しそうな顔をしながら、
「騒動に巻き込んでしまって、二人には申し訳なく思っている。」
「俺がここにきた以上、全力で命は守る。」
「櫻井さん?最初にsperanzaに行くと決めたのは、私たちだわ。」
「そう。俺らはた櫻井さんに言われたから宇宙にでてきたわけじゃない。」
「鍵を届けるのも、受けたのは俺ら。」
「嫌ならうけなきゃよかったんだから。」
「まぁ、婚前旅行に、これだけの騒動に巻き込まれるのは想定外だったけどなぁ…ケイ。」
「そうね。」
「でも櫻井さんのだけの、責任ではないわよね。」
「あえていえば、連帯責任…ね。」
「そうだな。仕事ならひと騒動あるパターンだ。」
二人でクスクス笑う。
「二人とも…。」
「後戻り出来ないなら、speranzaに向かわなきゃ…ね、櫻井さん。」
櫻井も笑顔になる。
「託したのが、ケイと隼人でよかったよ。俺の人選は間違っちゃいなかった。」
「そういえば、櫻井さん。いつのまにか、俺ら名前で呼んでるよね。別にいいけど。」
「そうだな。他人と思えなくてな…。」
思わず苦笑いする。
「さて、今夜こそさらわれないように、臨戦体制を敷くか。」
櫻井さんの顔つきが変わる。
「まだ、終わったわけじゃないからな。」
気が引き締まる。
「別のHotelを手配した。荷物は全部動かしてあるから、そちらに向かおう。」
まだ旅は始まったばかり。




