16 怪しい鍵
「あ、メールが来てる。」
ベッドサイドのテーブルで、光っている携帯電話に手を伸ばす。
掴んだとたん、ベッドに引き込まれる。
「おはよ。ん…。」
隼人が、妖艶な雰囲気で言葉より先に、唇から首筋へ熱いキスをしてくる。このままいってしまうと、昨夜の延長になりそうで困る。そうじゃなくても、動けないのに…もぅ…。
隼人に何とか話かける。
「隼人、メール来てるの。多分、櫻井さんだわ。」
「あとで見ればいい。」
「だ~め。大事なことならどうするの?」
渋々抱きしめていた腕を緩める。
「見て。」
隼人にメールの画面を見せる。
櫻井さんからきたメールを読みながら、隼人の顔つきが厳しくなる。
「別にしたほうがいい…って、普通の鍵じゃないのを完全に認めてる内容だな。何が怪しいものじゃないだよ、まったく…。契約違反じゃないか?GPS付いてる時点で十分怪しかったけどな。そうじゃなくても、今回の旅にはリスクがついてまわるのに。」
深い溜息をつきながら、私を腕の中に抱き寄せる。
「ケイの考えていたことが当たってたみたいだな。」
「残念だけど、そうらしいわね。」
私も溜め息をつく。
「今更ながら、俺もついてきて本当によかったと思うよ。」
「手放したら、二度と逢えない所だった…。」
隼人の抱きしめる腕に力が入る。
「これだけの部屋、用意出来る人だし、ただの、不動産屋じゃないのは確かよね。」
「契約の時、もっとつっこんで聞いとくべきだったわ。」
とぼやく。
「そうだな。俺も後で櫻井さんにメールするわ。こうなったら、本当の事情を知らないと、こっちの身が危ない。どこまで正直に話すかわからないけど。」
「明日『alba』に到着する前に話つけとくかな。」
いつの間にか、話の仕方が、仕事をしていている時の口調になっている。
「久しぶりに仕事モードって感じね。隼人の仕事してる姿も大好きだったけど。」
「ん?そうか?」
「うん、社内にいる時は、いつの頃からか覚えていないけど、気がついたら隼人を目で追ってた。気がつかなかったでしょ?それに、私だけじゃなかったみたいだし。」
「社内でも人気があったから、色んな所で目がいたはずよ。会社辞めるとき大変だったでしょ?」
「興味本意の視線には気がついてはいたけど、他の女性は別にいいやと思ってたし。でもその中に、ケイもいただなんて、初めて聞いた。気にしててくれてたなんて嬉しい。
辞める時は、別に大変じゃなかったぞ?付き合ってるのみんな知ってるし。でも、そういえば、何人かは声かけてきたな…。」
「いつも隼人と同期っていうだけで、私のほうに、とばっちりはきてたけどね。」
思いだすだけで溜め息が出るほど。。
「そうなのか?」
知らなかったのは本人だけ…。
「でももう、過ぎたことはいいの。今はこうやって、独り占め出来てるし。」
隼人にぎゅっと抱き着く。
「ケイも知らないだけで、男性陣から俺も言われてきたんだぞ。」
「そうなの?」
「同期だから、逢えるきっかけ作ってくれって言われたけど、即答で却下してやった。自分で言えって。何人かに誘われてるだろ?」
「たしか。でも丁寧に断ったわ。彼もいた頃だったし。」
「ケイに言った時点で、仕事は容赦なかったけどな…。」
さらっと答える
「……まったく。公私ごっちゃまぜじゃない。よくみんな大丈夫だったわね。王子の事情聞いたら怒られたわよ、きっと。」
「そうでもしないとやってられなかったんだ。他の奴らにケイを持っていかれるなんて考えたくなかったし。」
「でも、今はこうやって、腕の中にいてくれるから幸せだよ。」
優しい笑顔の隼人と目があう。
「せっかく手にいれた幸せを絶対持って行かれたくないし。櫻井さんとちゃんと話をしておかないとな。」
そういいながら、頬にキスをする。
「さてと、起きて朝食にするか。食堂車があるみたいだぞ。」
「そうね。言われたら急にお腹すいてきたわ。」
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食堂車に行く途中、廊下の窓から見える外の景色は、太陽から離れて来ているためか、黒が濃くなっている気がする。
明日、地球を出て、初めて停車する星『alba』は、火星を過ぎて少し先に行った星らしい。
今では火星も地球並に環境を整えられ、政府も、地球から一番近い宇宙移住空間としてすすめている。今回、この列車は止まらず通過する。
近い所に住める所があるのに、あえて遠い星を選んだ私たち。先を行く意味があるのか…。
食堂車の入口の扉を開けると同時に、おいしそうないい香りが鼻をくすぐる。
すぐにテーブルに通される。車内を見回すと、調度品も一流ホテル並の物が置いてある。
夕食は、ドレスコードが入っているのかしら…。
朝食はトーストとスクランブルエッグ、サラダなど地球で食べていたものと変わ
らない。
食事もそうだけど、車内の雰囲気に、何かさっきから違和感を感じるのは私だけなのだろうか・・。
隼人はブラックコーヒー、私はミルクティーを食後に飲みながら話しをする。
「部屋に戻って、櫻井さんに連絡するかな。」
「食事してても、何だか落ち着かないわ。」
「どうした?」
「私の思い違いかも知れないけど、乗客の中に、駅で私にぶつかった人いたでしょ?似てる人、さっき見かけたのよね。」
「本当か?」
「あの人が、直接影響があるとは言い切れない。櫻井さんにも一応報告したけど。疑いだしたらきりがない。」
「そうだな。とりあえず部屋に戻るか。」
部屋に戻る途中に、サロンカーがあって、乗客が軽いお酒などを飲みながら寛いでいる。
1ヶ月も一緒に旅をすれば、いずれ話もするようになるだろうと思い、私たちは、たちよらずに部屋に戻った。
「はぁ…。疲れた。」
私の隣に座った隼人は、早速、不動産屋の櫻井さんにメールを打ちはじめた。
[櫻井さんへ:
渡辺です。お世話になります。明日到着予定の『alba』に向けて、列車は走っています。今回メールを送らせて頂いたのはケイに託した「鍵」についてです。
昨日ケイに返したメールの中で、鍵と地図は別々に保管した方がいいと書いてありましたが、今回の鍵は、誰かに狙われるほど大事な鍵なんでしょうか?
もしそれが本当なら、契約の際、ケイに嘘をついたことになりますが。
本当のことを教えて頂ければと思います。このままでは、婚前旅行どころではありません。
もちろん、自分がいる限り、彼女は全力で守ります。自分にとって、大切な大切な彼女ですから。
ケイも契約の際、鍵のこともっと深く聞いておくべきだったと言っています。
今は、事情がわかって納得の上で、彼女も鍵も守りたいというのが、自分の本心です。櫻井さん、教えて下さい。 from渡辺隼人]
「ふぅ…。」
送ってから、溜め息をつく。
「どんな返事が返ってくるんだか。」
隣に座るケイをみると、外を見ながら、不安そうな顔をしている。
肩を抱いて引き寄せる。
「俺がいるから大丈夫。心配するな。」
黙って頷く…。
少しずつ、二人に近づいて来ている怪しい影、まだ気づいていない…。




