12 旅立ちの日
鉄道の駅入り口に、二人が降り立つ。
国内外を走る鉄道と宇宙に繋がる鉄道の始発駅ということもあり、野球場が4つや5つ入りそうな広さと、その上吹き抜けで高さもある。駅には、隣接のビルや店もあり人も多く賑わっている。
「迷子になりそう・・。」
圧倒され思わず呟く。
頭上でクスクス笑う隼人の声。
「ちゃんと手を繋いでいないと迷子になるぞ。」
隼人の言葉にムッとする。
「こどもじゃないから。」
「わかったわかった。」
相変わらずクスクス笑いながら嬉しそうに私の手をとる。
「隼人・・嫌いっ。」
手を離そうと思ったら、ぐっと引き寄せ抱きしめられた。
「ごめん・・。今更嫌いになられても困る。」
見上げると本当に困ってる顔をして私を見ている。背伸びして私から唇を重ねる。
「本気で嫌いになるわけないじゃない。」
にっこり見つめると、
「まいった…降参…。」
隼人の溶けてしまいそうな笑顔にドキッとしてしまう。
「さてと・・行きますか。」
頷くと隼人が荷物を持ち、手続きのため、二人で受付窓口に向かう。
………………………………………………………………………………………………
旅立つ1週間前。
最後の打ち合わせのために、不動産屋にきていた。
「いよいよ1週間後だね。」
主人が大きな袋を抱えてきた。
「持っていくものが間に合ってよかったよ。」
言いながら、袋の中からテーブルの上に出す。
「まず二人のパスポートね。もし、道中無くしたとしても、最寄の駅で再発行してもらえるから心配しないで。指紋登録してあるから、無くしたパスポートは使えなくなるし。」
「鉄道の切符も同じく。」
「すごいですね。」
思わず感嘆の声が出る。
「指紋なら二人として同じ人はないもんなぁ。でも偽造できない・・とは、100%いえないでしょうけど。」
隼人は主人に話しかける。
「たしかに、100%ではないね。気をつけるに越したことはない。あと、パスポートに記載してある住所は、ここの店にしてあるから、とられたとしても、第三者に、二人の住んでいる所は知られることはないし、実際僕も二人の住所はしらないから教えようがない。」
「え?」
びっくりして聞き返す。
「念には念を押しておかないと、何に利用されるかわからないからね。」
主人がにっこり微笑んで答えてくれる。
「そこまで迷惑かけては・・。」
と言いかけると、
「ありがとうございます。お世話になります。僕たちに何かあったときにはこちらに連絡が入りますね。」
なにやら細かい話を二人で話し始めた。
どうも、私の思いと違った次元で二人は話しているみたい。そう思って話の中に入るのをやめた。
二人を眺めながら、ぼぉっとしていると、
「ケイ?どうした?」
隼人が私の顔を覗く。
「ん?二人で話してたから黙っていただけよ。」
「そっか。気がつかなくて悪かった。ごめんな。」
隼人の大きな手が私の頭を撫でる。
彼はよく私を撫でてくれるけれど、優しい手が気持ち良くてホッとするから大好き。
「あとは携帯電話とクレジットカード。両方全宇宙で使えるから心配しないで」
もう私は、何も言わず頷くだけ。
「あとはね。」
と、言いながらB5サイズの封筒を差し出した。
「鳴沢さんにお願いする、鍵と手紙ね。」
そう言われて、無意識に受け取る。
「この前も言った通り、speranza[スペランツァ]、についてからの地図と連絡先が書いたものも入っている。」
「無事終着駅まで着けることが前提だけど、万が一着けなかったり、無くなってしまっても、責任は感じなくていいからね。」
「一応、鍵にはGPSのような物も組み込まれてるし。」
「はぁ…。」
返事のしようがない。
「実は、せっかくのプライベートの旅、何だか押し付けてしまったようで申し訳なく思っているんだ。」
「それには私が承諾したことで、気になさらないで下さい。」
「彼も一緒なので心強いですし。」
隣に座る隼人も頷いている。
「そう言って貰えると嬉しいな。鍵を持っている以上、こちらでも場所がある程度把握できるし、何かあったら携帯で連絡してくれれば力になるから。」
「ありがとうございます。私たちの方がすべて準備して頂いて申し訳なく思っています。旅の途中に連絡するようにしますね。」
「いい旅になるように祈ってるよ。」
準備が揃って、店を出てきたら、もう辺りは真っ暗で、星が輝く時間になっていた。
………………………………………………………………………………………………
「あと1週間か…。」
自宅に戻り夜空を眺めていると、背中に温かいものを感じる。隼人が後ろから抱きしめてきたからだ。
「何を考えてる?」
「ん?いよいよ出発なんだなぁって思ってた。」
「そっか…。」
「国内旅行なら、こんなに身構えて準備しなくてもいいんだけど、今回のは特別だから、期待と不安が交互に来る感じ。」
「今日の、店の主人の話を聞いて特にそう思う。隼人は思わない?」
「たしかに、いろいろ思うことはあるけどさ。」
といいながら、私を正面に振り向かせ抱きしめる。
「すべて始まってみなきゃわからないものだと思うよ。仕事でもそうだっただろ?新しいプロジェクトに取り掛かるのに、心配よりとりあえずやってみて結果がでると。」
「だから今回の旅も行ってみないとわからない。行く前から不安になることはないんだよ。」
「俺も一緒だし。」
「そうだね。でもごめんね隼人。結局一緒に行くようになってしまって。私が辞めればよかったのかもしれないけど。」
「もう、それは言わないの…。」
私の顔を両手で挟み、額に優しいキスをする。
「俺は、一緒にいられるだけでいい。この気持ち伝わってる?」
挟んでいた手が顎に移り、今度は深く唇を重ねる…。
「俺を信じなさい。ちゃんとお前を守るから。」
黙って頷く・・。
「ありがとう。隼人と行けるのはとっても嬉しいし心強い。これからよろしくお願いします。」
運命は自分で開くもの…。待っていては、幸運は掴めない。
勇気を持って、一歩前へ歩みだす…。




