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星の降る街に  作者: 霧島
第1章
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10 旅の『鍵(かぎ)』


週始めから、12月の年度末の忙しさに加え、会社を来月辞めるようになって、引き継ぎの仕事もあり、毎日残業で帰りが遅く、うんざりした日々を送っている。

隼人も、管理職で私以上の仕事を抱え、お互い擦れ違い、話もできなかった。


やっと迎えた週末の土曜日。


今日は、不動産屋へ話に行くようになっていた。

車で迎えにきてくれた隼人も流石に疲れた顔をしている。


「おはよう。」

「おはよう。隼人、身体大丈夫?…っん。」

助手席に乗った私を突然引き寄せ、何度も唇を重ねる…。

「心も身体も充電切れだよ。まだ足りないけど、今ので少しだけ回復した。ほんとはこのまま押し倒したい気分だけどね。」

思わず顔が赤くなる…。

そんな私に、クスクス笑いながら、左手を私の右手に重ね、車は不動産屋へ向かった。


………………………………………………………………

「こんにちは。」

不動産屋の扉を開けると、珍しく店の主人が、奥から出てきていた。


「いらっしゃい。やっぱりきたね。」

笑顔で迎えてくれる。


「はい。」


「どうぞ、座って。」

主人に薦められ、隼人と並んで座った。


「それで?気持ちは決まったのかい?」

「はい、彼と相談して一緒に行くことにしました。」

主人が隼人に視線を動かす

「よかったのかい?一緒に行くようになって。」


隼人も頷く。

「先日の話を聞いて、彼女を一人で行かせる訳にいかないと思いました。仕事も彼女は1月、僕は2月いっぱいで辞めるように会社には話をつけました。」

「そのほかの細かいことは、出発までにはちゃんとしていくつもりです。」


「わかった。そこまで話がまとまっていれば、手配していいね。今回の旅に関わるお金の心配もしなくていい。もちろん、旅費も往復ね。」


私は不思議に思っていたことを主人に聞く。

「二人分の旅費をみて下さるほど、私に預けていくものは大切なもの、なのでしょうか?道中は何があるのかわからないし、私達も万が一たどりつけない可能性もあるのに…です。」

「もちろん、私達は旅費の件は助かりますが。」


「本当は、自分が行かなければいけないんだけれど。」

と言いながら主人が話はじめる。


「今ここを離れる訳にいかないんだ。どうしようかと思っていた時に、鳴沢さん

が来店してくれた。でも若い女性だし。なので最初に聞いたんだよね。」


「一人で行くの?」って。私は答えた。


「そう…。その時、鳴沢さんはまだ何もわからないと言っていたし。チラシを持って帰ってもらって、数日後には、彼と一緒にきたから、もし鳴沢さんが本当に行くつもりなら彼も一緒に行ってくれると心強いと思っていたんだよ。決して安全な旅じゃないからね。」

「鳴沢さんにお願いするものは、『鍵と手紙』なんだ。この間も言ったけれど、怪しいものじゃない。」

「speranza[スペランツァ]についてからの連絡先と、持っていく場所の地図も一緒に入れて置くから、お願いできるかな?鳴沢さん。」


「もう行くのは決めていますし、持っていく相手先も判っているのならお預かりします。でも、先程も言った通り、speranza[スペランツァ]に着けない場合もあるかもしれない。その時はどうしますか?」

一応、預かっていく身としては、確認しておきたい。


「鳴沢さんには、責任を押し付けることはないし、着かない場合は、向こうから連絡が入るはずだから、心配しないでほしい。」

私の目を捕らえるように見て答える店の主人。


「わかりました。行ってみないとわかりませんが、渡せるように努力します。」

「一人で行くならお断りしたかもしれませんが。」

隣にいる隼人を見る。

「二人なら大丈夫だと思います。」

隼人もにっこり微笑む。

「ありがとう。よろしくお願いします。」

主人もほっとした表情をする。


「出発は、彼が2月末に仕事を辞めるのなら、3月15日でどうだろうか?」

隼人の方に向く。

「そうですね。手続きの都合もあるので、その日なら大丈夫かと。」

「ケイはどう思う?」

隼人が聞いてくる。

「いいんじゃないかしら。私は大丈夫。隼人が良ければ。」

「じゃあ、3月15日にしよう。出発時間は、20時。ちなみに、speranza[スペランツァ]も地球時間で動いてる数少ない星だから。旅の道中も、基本的には地球時間で車掌さんが伝えると思う。停車する星ごとに、地球時間に対してズレがあるけど。」

「旅に使う書類やパスポートやキャッシュカード、電話などは、出発までには用意するから、店に取りに来て欲しい。」

また連絡するという主人に送られて、店を後にした。


………………………………………………………………


いよいよ現実化してきた今回の旅。

楽しみのような、不安のような複雑な思いが心に広がる。

『鍵』の存在も気になるし…。


「ケイ?」

隼人の呼ぶ声にびっくりする。

「どうした?不安そうな顔して。」

私の顔を覗き込む。


「ん?大丈夫。ちょっと考え事してただけ。」


「これから忙しくなるな~。仕事とプライベートで両方だぜ。」

隼人の優しい手が、私の頭を撫でる。

「ケイと旅に行けるのも楽しみだし。」

「俺がついてるから、不安にならなくてもいい。」

隼人の笑顔に、素直に頷く。

「さてと、お腹もすいたし、昼ご飯食べに行こうか。」

隼人の優しさに、心が溶けるように、自然と笑顔を返す。


忙しい日々の、つかの間の休日。


雪がちらつく街の中を車は走り抜ける…。



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