↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/11

ボーイ ミーツ キャットep1

皇帝御一家のご挨拶はつつがなく終わった。


ふー!


マリアンヌはため息を漏らした。

少し毛羽立った毛も落ち着きを取り戻した。

ふと視線を感じて振り向くと、愛猫家で名高い老侯爵が慰める様に頷いて何処かに行った。


マリアンヌの緊張状態を見て心配してくれていたのだろうか。


目の前では皇太子フリードリヒとマリールイスが婚約者としてのファーストダンスを踊っている。


くるくるくるくる。


マリールイスが公言したせいで、国王からのフリードリヒとマリールイスの婚約は何となく白けた雰囲気で


くるくるくるくる。


マリールイス様は華麗な蝶の様で、それをリードするフリードリヒは童話の王子様みたいに麗しかった。


顔と体と剣技と頭だけは良いのよね。

女癖がねぇ。


山羊のミルクをグラスに注いでもらい、マリアンヌはそんな辛辣な事を考えていた。

10年一緒にいた幼馴染でもあるから、頭の中では遠慮が無い。


くるくるくる。


回る皇太子と視線があった。

気づかぬ振りをした。

また目が合った。

うざい。

猫は視線に敏感である。



口パクで言う言葉にテラスに目を向ければ、いくつもあるテラスの入り口のうち一つの前で、フリードリヒの従者が入り口前でだっている。


行きません。


口パクで返したが、猫の口パクは読めないらしく首を傾げている。

ジャージって牙でもむこうか。

いや、そんな事して人に見られたら、淑女としての評判が落ちるわ!


「おうっ」


時間を見計らいテラスに足を運べば、フリードリヒの側近が扉を開けてくれ、マリアンヌをテラスにエスコートしてくれる。


扉を閉めようとする側近にカーテンだけ閉めてくれる様に頼み、マリアンヌは皇太子にお辞儀をする。


「他人行儀だな」


「他人ですから」


フリードリヒは苦笑いをするが、もう他人である。

テラスであれど、密室は避けたい。

猫だけど。


「本当に猫になってしまったんだなぁ」


何を、今更言っている。

お前のせいである。

そう言ってもいいが、きっとフリードリヒは苦笑いをするだけだ。

そう言う人。


何個も並んだテラスには、秘密の恋人同士や色々な秘密を抱えた人々がいる。


マリアンヌは昔、多分フリードリヒが好きだった。

この人と結婚し、この国を豊かにしていくと思っていた。

この人が恋愛遊戯を繰り広げる迄は。

いつしか心の道は別れ、違う道を歩いている様になった。

マリアンヌはテラスの柵に近寄り、下を覗き見下ろす。

山あいの城は高く、見下ろす先は暗くて見えない。


どうして、何で私を呼んだのかしら?


崖下から登って来る風にフリードリヒのムスクの香水の匂いが混じる。


「「どうして」」


マリアンヌの声と別の悲鳴の様な少女の叫び声が重なった。


振り向くとリリー男爵家令嬢が側近達を振り切ってこちらに向かい、フリードリヒの胸に飛び込んで来た。


「どうしてマリアンヌ様と会ってらっしゃるの?どうして前みたいに私を呼んでくださらないの。どうしてクロエ様なんかを寵愛なさるの」


やれやれと胸に縋り付くリリー嬢に触れない様に両手を広げるフリードリヒを、リリー嬢は絶望した目で見上げた。


「どうして抱きしめてくださらないの」


ただ苦笑いを浮かべるフリードリヒ、その姿をマリアンヌは何度も見た。

マリアンヌを何度も修羅場に立ち合わせ、後始末をさせて来た。

フリードリヒいわく、マリアンヌが勝手にしたのだが。


この人には青い血が流れている。

私達とは違う色の血が。

男爵家や子爵家、口をつぐまざるえない少女達と遊ぶ。

どれだけ放埒を極めようと皇族の誇りは忘れない。


民のためなら自己も捨てられる。

戦でも前線に立つのをやめない。

だからどんなに女遊びが激しくても皇太子で居続けられる。


苦笑いをするフリードリヒの目はどこまでも冷たくて、リリー嬢の顔が絶望に満ちた。


もうこの人の心には私はいない。


「私のお腹には貴方様の子供がいますのよ。結婚すると愛してると言うから、私」


心を繋ぎ止める為ならどんな嘘でもつけた。

この人から苦笑い以外の他の表情を引き出したい。

リリー嬢は自分でも愚かな嘘をついていると分かっていた。


「それはないな。君の月の周期は側近に調べさせている」


苦笑いで答えるフリードリヒにリリー嬢の瞳から光が消えた。


金目当てだった。

彼の恋人になり。甘い蜜を吸い、贈り物をいただき、いつか身分に応じ商人やどこかの後妻に入った時にお金に困らない様に換金制の高い物をもらっておけばそれで良かった。


結婚なんて望んでなかった。

茶会での婚約破棄など迷惑だった。


でも、心変わりされて気付いた。

何度もの夜。

彼の腕に抱きしめられて、リリー男爵家令嬢はフリードリヒをいつの間にか本気で愛していた。


艶やかな髪に刺した髪飾りを抜いた。

長い髪がはらりと風に靡きながら落ちる。

簪を構えるリリー嬢をフリードリヒは苦笑いで見つめている。


やめなさい。


マリアンヌは大声にならぬ様にリリー男爵家令嬢を制止する。

叶わないのよ、その人には。

軽くリリー男爵家令嬢が制圧されるのが目に見える。

そしたら、大事になる。

皇太子へ刃物を向けるとか大罪。

一族郎党処刑コースである。


ただならぬ気配に周りのテラスや皇太子達のいるテラスの入り口にも人が集まって来ていた。


その手を振り翳しては駄目。


マリアンヌは振り翳そうとするリリー嬢の手に飛びついた。

人間だった頃のつもりで。

誤算だったのは、今のマリアンヌが猫だった事。

飛びついたマリアンヌは簡単に振り解かれ、空を舞い、テラス下の崖下に落下して行った。


目を見開くフリードリヒとリリー嬢の横を一人の青年が颯の様に通り過ぎ、柵を足場に飛び上がると、宙に浮くマリアンヌを胸に抱きしめ、共にテラス下の崖に落ちて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。