夜会は踊るep3
にゃにゃとしか言えなくなっているマリアンヌを見て、マリールイスは首を傾げる。
「あら?これ言わない方が良かったかしら」
でも、すぐに分かる事ですし。
あらあらと頬に手を当てて困っているマリールイスを探しに大公一家が歩いて来たが、微妙な顔をしている侯爵一家に気付き、侯爵夫人から何かを耳打ちされると「ご内密に」とマリールイスを回収して去って行った。
にゃにゃ、にゃんと!
あの思った事を全部口に出すマリールイスが皇太子の婚約者!
あの他人の意向を重んじる事なく我が道を行くマリールイスが皇太子の婚約者!
皇太子とマリールイスが立ち並ぶ姿を想像して、マリアンヌは首を傾げた。
複雑な心に胸がチクリと痛んだ。
皇太子に恋していなかったのに、皇太子の婚約者として過ごした10年の思い出が心を痛めるのかしらね。
人の心って不思議。
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「ジャック様。皇太子がマリールイス大公令嬢と婚約される様ですね」
「何だいそれは。どこ情報だい?」
「本人がでっかい声で大階段あたりで言ってましたよ」
あちゃー。
ジャックは額を抑える。
それって国家機密ではないのだろうか。
それを本人がベラベラ話すとかどうなの。
「マリアンヌ嬢は傷ついてないといいが」
「目ん玉ひん剥いて、尻尾がぴーんとなっていたので、かなり驚いてらしたね」
あちゃー
ジャックは再び額を抑えて唸る。
そろそろ夜会の幕が上がる。
王族専用の壇上に動きがあり、上位貴族は壇上近くに、下位貴族は少し離れた所に。
煌びやかな上位貴族の群れの中、マリアンヌは猫だから小さくてきっと見えない。
いつもは壇上で可愛らしい笑顔を見せてくれていた。
マリアンヌが幸せで健やかであればいい。
そう願うジャックだが、マリアンヌは健やか所かドン引きのまま上位貴族の群れの中にいた。
二本足で立ち、身長的には1メートル位なので埋もれがちだが、マリアンヌには猫の目と猫の耳がある。
周りからはマリールイスの名前が囁かれ、壇上では普段の流れとは違う慌ただしさが見て取れる。
先日まで皇太子の婚約者で、壇上に立っていたマリアンヌには分かる。
スケジュールの変更や貴賓の遅刻、スピーチの急な変更があった時のあれだ。
多分、皇太子とマリールイスの婚約を発表するアレコレがマリールイスの発言で変更になったんだろう。
ファンファーレが鳴り響き、皇帝御一家が静かに壇上に現れた時、皇后陛下の微笑みにマリアンヌは怒りを感じた。
あれ、怒ってる時の皇后陛下ー!
義娘になる予定だったマリアンヌには分かる。
怒ってるー!
そう、皇后は怒っている。
皇太子である息子は可愛い。
でも、施政者の配偶者としての勘が危うい物を感じているし、女としての自分も嫌悪感を覚えている。
春の茶会で皇太子がフリードリヒが婚約破棄を叫んだ時、マリアンヌが猫にされた時。
皇后は道家を演じて話の流れを変えさせた。
フリードリヒを皆の怒りやそしりの矛先にしてはいけないと、皇后の勘が言った。
マリアンヌ可愛い。
猫になっても可愛い。
その流れに皇室支持者はすぐ乗ってくれたし、皇室に否定的な者も空気を読んだ。
フリードリヒの女癖の悪さは国を傾ける錘になりかねない。
一人っ子ゆえ、廃嫡などしたくなく、降格して親戚の子を皇太子になどもしたくなく。
祈る様な気持ちでフリードリヒを他の人の悪意から逸らした
皆が空気を読んで、フリードリヒを責めるのではなく、マリアンヌは猫になっても可愛い思考に走った。
マリアンヌ可愛いブームは本当でもあり、作られた物でもある。
なのに。
皇后は居並ぶ貴族達を見下ろしながら、皇族達が並ぶ壇上下を見渡した。
猫のマリアンヌ。
勝ち誇った顔のクロエ男爵家令嬢。
青白い顔のリリー男爵家令嬢。
そして、厳命したのに皇室の発表前にフリードリヒとの婚約も喋ったマリールイス。
リリー男爵家令嬢と結婚すると叫んだのに、クロエ男爵家令嬢と恋仲になっているフリードリヒ。
皇后は椅子から立ち上がり、こちらに手を差し伸べる国王に手を預けた。
「これより夏の夜会の開催を宣言する」




