夜会は踊るep2
赤い絨毯が敷かれ、従僕やメイド達の動きが
静かだけど慌ただしくなって来た。
皇帝御一家の登場が間近なのだろう。
椅子に座ってボンヤリしていたマリアンヌの父は、侯爵家の従僕に耳打ちをされるとソファから立ち上がりマリアンヌに両手を広げた。
「マリアンヌちゃん、パパと行こうか」
「結構です。
猫の姿になったとは言え、マリアンヌは16歳。
父親とはベタベタしたくないお年頃。
ピンクの肉球を見せてお断り。
ここ数年、マリアンヌは皇太子妃教育に忙しく、親子としての触れ合いが殆ど無かった。
可愛く賢く産まれて目に入れても痛く無いくらい可愛かったが、王室から望まれては断れない。
泣く泣くマリアンヌを皇太子の婚約者に差し出したが、猫になって帰って来た。
それも世にも稀な美猫。
可愛いが可愛いをかけて可愛いすぎる。
二本足でとてとて歩くマリアンヌに、3歳頃の愛らしい時期を思い出して侯爵はにっこにこだ。
隣を歩く侯爵夫人もメイドも侍従もにっこにこでマリアンヌの後ろ姿を目で追っている。
ぴたり。
前を歩くマリアンヌの足が止まった。
耳をぺたんとさせ、つつつと柱の影に隠れながら、侯爵達を振り向くとシーって口の前に手をやり、こちらに来いと手招きをする。
何々?
空気を読むのもお仕事の貴族、マリアンヌの手招きに静かに一緒に大広間に向かう大階段の柱の後ろに隠れた。
「やはりそうですのねー」
大階段に向かうたたりばでマリールイス公爵令嬢が下位貴族の令嬢と談笑している。
「わたくしね。リリー子爵令嬢は捨てられると思ってましたのー。皇太子様は面食いですしー。クロエ男爵令嬢の方が言ったら何ですが、顔可愛いですしぃ」
下位貴族の令嬢は側から見ても引いている。
相変わらず空気を読まないマリールイス嬢は、周りに階段を降りる為にたくさんの人々がいるにも関わらず話を続ける。
海を割る様に人々の群れが、マリールイス嬢と下位貴族の令嬢を避けて通って行く。
触らぬマリールイスに祟りなし。
上位貴族ほどそれを知っている。
「マリアンヌちゃん、どうかしたのかい?」
いつものマリールイス様じゃないの、何を目玉をひん剥いているの?
侯爵夫人がおっとりとマリアンヌの視線を追って小さな悲鳴を上げた。
マリールイスから死角になるであろう場所に、リリー子爵令嬢が紙のように白い顔で立っていたからだ。
マリールイスは周りを見回したり配慮すると言う機能はついてないので、マリールイスに配慮や忖度は通用しないので、誰を責めたらいいのかどうしていいのか誰も分からない。
どうしてこう言う会話ってやけに響くのだろう。
これだけ人がいて、ざわめきに満ちているのに。
「でも、クロエ様もリリー様もどうなさるのかしらね。未婚の時から皇太子様とは言え男性の閨に入り浸るなんて、身分からして愛妾にもなれないでしょうし、私は娼婦と代わりませんって言うてるみたいな者ですわよね」
娼婦、その言葉はやけにはっきり聞こえた。
一瞬の静寂の後、騒めきがすぐに戻った。
ポキリ。
マリアンヌの猫耳にはそれが聞こえた。
何かをへし折る音。
真っ白な顔のまま、リリー子爵令嬢はマリールイス嬢の横を通ると静かに階段を降りて行った。
「あら、リリー子爵令嬢だわ。聞こえてたかしら」
マリールイス様はリリー子爵令嬢の後ろ姿を見送ると、話していた下位令嬢を振り返るがそこにはもう誰もいなかった。
「あらぁ?」
首を傾げたマリールイスはきょらりと周りを見回し、凍りついている侯爵一家を見ても顔を輝かせた。
「マリアンヌ様」
裾さばきも美しく、背中に一本の棒が入っているかの要な美しい姿勢で歩いて来ると、侯爵夫妻にお手本の様に美しい礼をする。
「おじ様方、ご機嫌麗しゅうがざいます」
菲のうちようがない貴婦人ぶりであるマリールイスである。
口さえ開かなければ。
「マリアンヌ様.ご機嫌よう」
深く腰屈めてマリアンヌの姿勢に合わせてマリールイスは挨拶をしてくれる。
優しくて気遣いの出来る女性なのだ。
口さえ開かなければ。
マリアンヌも考えなしのマリールイスの発言に何度も傷ついたりドン引きしたりしたが、マリールイスのマリアンヌの好意や友情に偽りがないので、この人はこう言う人だといつしか受け入れて友情を築いている。
これからも友達でいたいのでああいった発言はやめて欲しいのだが。
いつか取り返しのつかない発言をして社交界から消えたら寂しいですもの。
なんやかんやでマリアンヌはマリールイスが好きなのである。
大広間で公爵一家がいると言う事なので、ご挨拶をしようかと言う侯爵一家と合流したマリールイスはマリアンヌと手を繋ぎながら階段を降りながら、なんて事もない様に言った。
「そういえばわたくし、今日の夜会で皇太子妃の婚約者になる事を発表されますの」
「にゃ!にゃんで!」
思わず猫語になるマリアンヌにマリールイスはうふふと笑う。
「断る理由がないからですわ」
そんな二人の会話を聞きながら侯爵は夫人に囁いた。
「今日の夜会は荒れるぞ」
夫人も異論が無いのか頷き答えた。
「何にせよ、夜会を楽しみましょう」
マリアンヌは耳をすませばの猫男爵の恋人をイメージしてます




