夜会は踊るep1
猫になった当初、マリアンヌは困っていた。
末はは修道院行きか、見せ物小屋で猫の踊り子かしら?と首を傾げていたものだが意外と受けがよく、お茶会やパーティーに引っ張りだこである。
可愛い可愛い可愛いの大合唱である。
先にも書いたが、この世界は12の神々に治められる12の国。
神々によっては獣人タイプもいるので、獣が人語を話すと言う事のハードルが低い。
マリアンヌは皇太子の呪いを代わりに受けたと言う事や元々侯爵令嬢で周りからの人気も高かった。
色々な要素が回り回って、現在、社交界の華である。
猫の踊り子の衣装も仕立てたのに...
あの春の茶会から季節が移り、夏が来た。
宮廷が夏を過ごす山あいの城に宮廷は移っていた。
王のいる所、そこが宮廷である。
山を切り抜いた山城は戦乱の時は要塞になり、山の天辺にある為に、籠城に使われたと言う逸話がある。
平和な今は山の涼しさを好まれ、夏の宮廷として使われている。
本日の夏の夜会に向けて、離宮の出入り口を色取り取りのドレスを着たレディや艶やかな燕尾服を纏う紳士で溢れている。
それをマリアンヌは大広間にある高位貴族専用のバルコニーから尻尾を揺らして眺めていた。
ここは夜会の開かれる大広間を見下ろせる各個室にあるバルコニーで、大きさには差があれど伯爵家以上が使用出来る様になっている。
皇帝御一家が挨拶の際は無礼にあたる為に大広間に降りるが、皇帝陛下の挨拶が終われば自由に使える様になっている。
マリアンヌは侯爵家に当てがわれた個室で、大広間に入ってくる貴族達を楽しく見つめながら、家族と夜会の開催を待っていた。
猫になってからマリアンヌは息がしやすくなってる気分がしている。
皇太子妃教育が無くなった事もあるだろうし、言葉の通り皆から猫可愛いがりされ、楽しい事もある。
「まぁ」
目をまん丸にして声を上げたマリアンヌに、レディースメイドのローズマリーが失礼ながらとマリアンヌの頭の上から覗きこんでニヤリと笑う。
「今夜は荒れそうですね」
「本当に」
出入り口ではクロエ男爵令嬢が兄君の手に手を乗せ、しずしずと入場を果たしていた。
皇太子様の金の髪の毛の色をアクセントとし、皇太子様の瞳のアイスブルーの色のドレスを着て。
首には男爵家には豪華すぎる金のチョーカー。
茶色に近い金髪にグリーンアイズのクロエ男爵令嬢には少し違和感のあるコーディネートだが、彼女が主張したい事はとても伝わって来た。
皇太子の今の一番は私よとの言葉だ。
「先程ご入場されたリリー子爵令嬢は金に見える琥珀色のドレスに真っ青なサファイアの首飾りでしたね」
「そうねぇ」
不躾ながら見下ろしてしまう形になるマリアンヌを見て、ローズマリーは心の中で笑う。
マリアンヌの尻尾は大きく揺れ、瞳もいつもより大きく見開いている。
何がどうあれ、マリアンヌ様がご機嫌なら良し。
そんなマリアンヌの今日のドレスは夏の夜会に相応しく、夏の夜空の濃紺に星を散らばめた様なスパンコール。
前を短く後ろを少し長く、二本足で立つマリアンヌの可愛らしい後ろ足が見えている。
シルエットは優雅な猫ラインを際立たせつつ、動きやすいエンパイヤスタイルだ。
最近、皇太子様のご寵愛が深いと噂のクロエ男爵令嬢と少し前まで皇太子様のご寵愛を受けていたリリー子爵令嬢。
リリーと結婚すると言うあの発言は何だったのだ。
皇太子の婚約者だった頃は、あれダイヤモンドを付けろとか、ドレスはどの仕立て屋でとか、パーティーでは誰と誰を鉢合わせてはいけないやら、どこぞの大使にはこの会話をしろとか色々あった。
皇太子様のご寵愛は今誰にあるとか、喧嘩にならない様に調整をしろやら、ほんっと面倒くさかったわ。
何で婚約者の浮気相手に気を使わないといけないのとか、男の浮気に目くじら立てる様では王妃になれません、とかー。
猫になって大正解。
マリアンヌはバルコニーの手すりに前足を乗せると、うーんと背伸びして、また目を丸くした。
「ローズマリー。男の方2人が手を繋いで入って来たわ」
「あらま」
バルコニーから覗き込む二人と、そして、大広間に集う人々の注目してを浴びる中、ライオンの立髪の様に豪奢な金髪の美青年が凡庸としか言いようが無い黒髪の青年の手を引いて大広間に入って来た。
こう言う場所は男女のパートナーで入場するか、家族で入場するのが普通である。
普通であるのであって規則ではない。
それでもやっぱり男性同士と言うのは目立つ。
「軍服ですか。多分、あの組み合わせはトリバーチ子爵ですね。有名なんですよ。金と黒の組み合わせ。トリバーチ領主のジャック様とそば付きのアレク様ですね」
トリバーチ。
マリアンヌは口の中で呟く。
知っているわ、小さい頃に皇帝御一家と慰問に行ったわ。
災害で痛ましい事だった。
その時、少年だったジャック様とお会いした様な?
頭の片隅に浮かぶのは、マリアンヌと反対側に皇帝御一家を挟んで立っていた少年。
俯いた横顔だけがなんとなく印象に残っている。
あんな綺麗な金髪だったかしら。
「アレク」
「何ですか、ジャック様」
「滅茶苦茶、見られてるんだが」
そりゃ、男性二人が手を繋いで入って来たら見るでしょう。
それに、式典用の軍服は見栄えが良い。
今回の夜会も軍服の人は何人かいるが、年配の勲章をたくさんぶら下げている人が多い中、若手で軍服の人は少ない。
制服マジック。
上背のある二人は中々かっこいい。
それに見る人が見ればわかるのだが、ジャック達二人が着ているのは、最も格式の高い軍の礼装だ。
国王の即位式典などで着る様。
ジャックの領地の事を知っている人達は気づく事があるのか目礼をくれる。
「見たい人には見せておけば良いんですよ。貴族としての最後の夜会です。楽しみましょう」
シグルドはそう言うと、給仕に回っている使用人からワイングラスを貰うとジャックに手渡した。
楽しみましょう、夜会を。




