マリアンヌの事情
怒涛の数ヶ月だった。
「まぁ、わたくし猫になってしまいましたわ」
茶会の席で猫になってしまったわたくしを見て、静寂に包まれたのは一瞬。
次の瞬間には、王妃様の腕の中にいた。
「なんて美しい猫なの!」
ああ、王妃様は大の猫好きでしたわね。
そう思う束の間に、マリアンヌは色々な人に囲まれてしまっていた。
元凶のマリアルイーズ様も目を細めて「マリアンヌ様は猫になっても綺麗ですね」と褒めそやしてくれる。
本当の元凶の皇太子にいたっては、お手手をニギニギしてこちらを見ている。
貴方が最大の元凶ですが。
目があったけどマリアンヌは何か風が気持ち良いわねみたいな顔でそっぽを向いておいた。
当国の王室は大の猫好きなのである。
猫好きの猫好きによるマリアンかヌ可愛い祭りを止めたのは、犬派グループであった。
尋常ならざる事が起きているのだ。
神殿に早馬を飛ばし、執務室にいるであろう国王と宰相に伝令を飛ばし、マリアンヌ嬢のご実家にも早馬を飛ばした。
マリアルイーズ嬢は皆様忙しそうねと普通に帰って行った。
皆、唖然としていたが、何故かそれが許されるマリアルイーズ嬢なのであった。
それからの事はマリアンヌはよく知らない。
大人達で政治面で宗教面で色々な話し合いが持たれたのであろう。
マリアンヌは家でまさに屋敷中から猫可愛がりされながら、撫でられたりブラッシングされたり、猫用のドレスを仕立てたり、猫用のジュエリーを仕立てたりと猫ライフを満喫していた。
そして、ある日疲れて帰って来た父に抱き上げながら皇太子との婚約が白紙になった事と、人生二回分の慰謝料が払われた事を知った。
「皇太子のあの発言は世間には渡り切っているから、マリアンヌは何も気にしなくていい。前を向いて歩いていいんだからね」
あらまぁ。
マリアンヌは思わずニャアと鳴いた。
そんなマリアンヌをどう思ったたのか、父はマリアンヌをぎゅっと抱きしめてくれた。
父はいつも淡々とている人だったから、家族には興味がない政治だけの人かと思っていたけど、マリアンヌの鼻に届く匂いは心配と愛情だった。
にゃぁ。
愛されて大事に思われてるのが嬉しくて、にゃぁと鳴けば、母が父とマリアンヌごと抱きしめてくれた。
猫になるのも悪くない。
言葉にならない思いさえ、感じる事が出来るのだから、悪くないわ。
ずっと皇太子妃教育や淑女教育、皇族予定者の仕事で家族団欒には程遠かったし、貴族の娘として親が恋しいとか甘えたいなんて事は考える余地が無かったから、両親の腕の温かさがマリアンヌには嬉しかった。
「マリアンヌはどうしたい?女神様が正気に戻れば人には戻れるだろうが、いつになるかはわからない」
父の執務室で母に抱っこされながら、執務机で頭を抱えている父を見てマリアンヌも悩む。
言い忘れていたがマリアンヌは16歳だ。
2年後の18歳でマリアンヌは王太子と婚姻し、王太子妃になり、いずれ王妃になる予定であった。
帝国の貴族の女性の結婚適齢期は大体が18歳であり、22歳を越えると行き遅れと言われがちになってしまう。
「マリアンヌちゃんはもうずっと家に居ればいいわ」
ここにはいないが、領地には侯爵系の嫡男であるマリアンヌの兄がいる。
別に無理してマリアンヌは嫁に行かなくてもいい。
母はマリアンヌの頭に顔を埋め、すーすーと猫吸いをして幸せそうだが、そう言う訳にもいかない。
貴族の娘だからではなく、親としてもマリアンヌには幸せになって欲しい。
いつかは解けるだろうが、女神様の鬱が解けるのは明日なのか3年後なのかわからない。
自分達が生きている間なら、ずっとマリアンヌを守ってあげれるけど、人の寿命は分からない。
マリアンヌを守れる人を侯爵は探さなければやらない、出来たらマリアンヌを本当に大事にしてくれる人。
侯爵は机に積みあげれたパーティーの招待状の束から一つの招待状を取り出した。




