ボーイ ミーツ キャットep3
誰かが優しくマリアンヌを持ち上げてくれた。
ローズマリー?
腹心のメイドの名前を心の中で呟いて、乾いた大きな手だと言う事に気がついた。
不覚。
猫なのに、気づかないなんて。
気がつくとマリアンヌは、毛布を羽織り焚き火を見つめるジャックの胸の中にいた。
男性の胸!
にゃ!と声が出て、自分を見下ろすジャックと目があった。
「お寒くないですか?」
マリアンヌの背中をジャックは優しく撫でてくれた。
にぃ。
あまりにも優しく撫でるから、マリアンヌは顔を上げジャックをじっと見上げた。
茶色の瞳に焚き火の火が映ってとても綺麗。
男性の胸に抱かれているのが恥ずかしくって前足をジャックの胸に当てたら膨らみがあってマリアンヌはビックリした。
「貴方は女性でささたの?」
「はい?」
「だってお胸が膨らんでてよ」
ふみふみと前足でジャックの胸を不思議そうに押すマリアンヌ。
「いや、それは胸筋で」
「きょうきん?」
えーと、と説明しかけてジャックは頭をかいてやめた。
そんな話をしている場合ではない。
服の胸元を広げてマリアンヌをそっと外に出してあげる。
すとん。
大地に降りたマリアンヌはジャックを不思議そうに見上げている。
話の続きを待っている風なマリアンヌに苦笑いをする。
困った苦笑いに、あ、わたくし、この人の苦笑いは嫌いじゃ無いわ。
マリアンヌは思う。
フリードリヒのあの苦笑いは大嫌いだけど。
「マリアンヌ様は人に好かれているんですね」
「わたくしをご存知なの?あら、人語を話す話す猫なんてわたくし位ですものね」
焚き火の前で猫座りしながらコロコロ笑うマリアンヌをジャックは目を細めて見つめる。
その目がとても優しいから、マリアンヌは何となく落ち着かなくなってしまう。
「あ、貴方の名前。わたくし知らなくてよ」
「ジャック☀︎トリバーチです。トリバーチ領の役立たずの領主です」
自嘲した様に笑うジャックに、マリアンヌの頭がフル回転しだす、トリバーチ、痛ましいあの災害の。
復旧がままならず、王家に領地を返すと言う噂。
「行った事があるわ。痛ましい悲しい事でした」
「はい」
パチパチと火が爆ぜる。
「マリアンヌ様へ、たくさんの荷物が転がって来てきました。山羊のミルクはお好きなんですね」
多分、転がって来た荷物の中にあったであろう真鍮のカップに山羊のミルクを入れ、ジャックはマリアンヌに渡してくれた。
本当はこの形のカップは飲みずらいのだが、マリアンヌは淑女に見られたくて頑張って両手で受け取った。
優しい、優しい人。
猫になってから、時には平皿に飲み物を出される事もあった。
確かに便利ではあったけど、この人は私を猫じゃ無くてどこまでも人として扱おうとしている気持ちが見えた。
甘くて美味しくて、でも男性と二人きりは気恥ずかしくて、小さく舌を出して舐めた。
二人で救援物資の堅パンを浸して食べた。
「こちらに」
ジャックが毛布を被って広げて誘うから、マリアンヌも静かにジャックの胸に潜り込んだ。
暖かい。
とても暖かい。
人の体温がこんなに暖かくて気持ち良いなんてマリアンヌは知らなかった。
二人で一つの毛布にくるまり、焚き火を見つめているとマリアンヌはうとうととしてしまう。
「寝ても大丈夫ですよ」
ジャックはそう言うけど、淑女としてはしたないんじゃ思うがうとうととしてしまう。
猫はねむたがりなの。
「昔、こんな夜がありました。トリバーチで。8歳の貴女が夜に宿舎を抜け出して、被災者達が眠る墓地に行こうとしてたんです」
うとうとと頭を揺らしながらマリアンヌは答えた。
「覚えてない、、、わ、、」
寝落ち寸前のマリアンヌの頭に顎を乗せながらジャックは話を続ける。
「どこに、こんな夜更けにどこに行くのですか?と聞いたら、貴女はこう言ったんです」
お墓の中、最初は寂しいと思うの。
だからお歌を歌ってあげようと思うの。
覚えてないわ。
恥ずかしいわ、小さな頃のわたくしって変な子だったのね。
うとうとしながらマリアンヌはそう思ったけと、ジャックの声が震えてる事に気づいた。
「私はとても嬉しかった。あの時から私は貴女が大好きです」
ビックリして顔をあげようとしたら、背後から強く抱きしめられた。
「今は私の顔を見ないで下さい」
手の平で顔を隠すジャックをマリアンヌは顔だけ上げて見つめた。
本当にビックリした。
大好きですと言われたり事も、男性が泣くのを見たのも初めてだったから。
マリアンヌにとって男性は父や皇太子しか知らなくて、彼らが泣いた事を見た事が無かったし、男性は泣かない者だと思っていたから。
小さく嗚咽を漏らすジャックの手にマリアンヌは小さくキスをした。
胸がキュンとした、守ってあげたいと慰めたいとマリアンヌは心の底から思った。
泣かないでジャック様。
泣かないで。
わたくしが側にいるから。
母性の爆発である。
そう言えば身内以外の男性にキスしたのは初めてだし、男性と一夜を過ごすのも初めてだわ。
夢うつつでマリアンヌは思った。
これは醜聞だわ。
責任とってもらわないと。
わたくし、ジャック様と結婚しないと、修道院行きか猫の踊り子として見せ物小屋に売られてしまうわ。
それにこの人、わたくしの事大好きだって言ったもの。
わたくし、わたくしもこの人嫌いじゃないわ。
マリアンヌの胸の中に、ジャックと言う人が住み始めた。
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