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夜天余話  作者: 宵宮 詠
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賢者と拾い子 2


 賢者は街へと足を向ける。当面の食糧を仕入れなければならない。仕方なく市場の雑踏へ足を踏み入れる。

フードを目深に引き下げた。


鮮度が良いと思ったものを次々に購入する。

アイテムボックスの容量はほぼ無限だ。

ぽんぽんと突っ込んだ。

もう良いだろうと思った頃合で、丁度腹が鳴った。

気付けば串焼きの屋台が目の前だった。

肉と野菜をたっぷりのタレに絡めて焼く、香ばしい匂いが漂っていた。

目をやると、焼けた串をパンに挟んで器用に引き抜き、客へと渡す様子が見えた。

自然とそちらへ足が向く。


数名の先客の後に代金を差し出す。


「はいよ、毎度あり!」


威勢の良い声と共に差し出された串焼きパンを受け取ろうとしたところで、人波が肩にぶつかった。取り落とした串焼きパンがべしゃりと地面に落ちる。


「おっと、今新しいのを作ってやるよ!」


気の良い店主の言葉が終わる前に、屋台と屋台の隙間から黒いものが飛び出してきて落ちた串焼きパンに覆い被さる。

はぐはぐと貪る音に、何の獣だと首根っこを捕まえた。


「ぴゃ!?」


ぷらんとぶら下がったものは、なんと人型をしていた。子供だった。ひどく汚れた子供が、ボサボサの髪の隙間から目を真ん丸にしてアスランを見ていた。

そして我に返ると、持ち上げられた拍子に落とした串焼きに手を伸ばしながら暴れ出す。


「……そんなものを食わずとも良い。」


聞こえているのかいないのか、子供は暴れ続ける。

「ぐぇ」と潰れた声がするので仕方なしに襟首を離し腕に抱え込んだ。

店主から受け取った新しい串焼きパンを与えると、

ガツガツと貪り出す。


「増えてるんでさぁ、孤児みなしごが。剣聖様が引退されたここ数年。」


店主がポツリと言った。

アスランは眉をひそめる。

そして、新しい串焼きパンの代金を渡すと隠れ家へと跳んだ。


「お客さん、お代はいらないよ!」


言って伸ばした店主の手が、空に浮いた。


 隠れ家に着くとすぐに風呂を沸かした。

水と火の二重詠唱であっという間に。

食べ終えた子供は再び暴れ出したが、構うことなくぽんぽん剥いてざぶんと風呂に突っ込んだ。


見る見る湯が黒く濁り、石鹸は泡が立たない。

子供はアスランの腕に噛みつき爪を立てる。

湯を替え二度目の丸洗いにかかった時に、やっと子供がおとなしくなった。

遠慮なく泡塗れにしてゴシゴシと洗い終え、容赦なく頭から湯をかける。

黒い子供が夜のような深い藍色の髪をしている事に気づく。

もう一度湯をかけて泡をあらかた流した時、

子供が女児である事を知った。


 着替えなどないので適当な布を巻きつけてみた。水とパンを与えると、部屋の隅に蹲り、貪り食べている。


「獣かと思ったら子供であった」と思ったが、

どうやら獣で合っていたようだ。

アスランの動きを夜色の瞳が追いかける。

目が合うとビクッと身が跳ねる。

近づくとシャーシャーと威嚇された。


やがて力尽きたのか、隅っこから寝息が聞こえて来た。起こさぬようにソファへ運んで毛布に包む。


「明日にでも施設に連れて行くか。……結界柱のある街の。」


呟き、人差し指と中指を揃えると、そっと子供の額に当てた。


本編「夜天の魔女」

https://ncode.syosetu.com/n1950lv/

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