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本能寺の敵  作者: 桜木覚
16/19

本能寺の変(3)

山門での小競り合いが、”日妙”によって境内に引きずり込まれたのをみて、明智秀満は、雑兵たちの暴発を止めるべく、それを追った。

数百の兵がそれに引き続いた時、再び、塀の上に弥勒寺の孫六たち、雑賀衆が姿をあらわし、横腹から散々に銃弾を撃ち込んだ。

「おのれ」

味方が血煙を上げるのを見て、工兵隊がその足場を崩そうと、本能寺の土塀に丸太を突進させる。

丸太の衝突とほぼ同時に、本能寺の内側で再び大爆発が起こった。

内外からの同時の衝撃で、塀はたちまちのうちに瓦礫となった。

明智兵たちはそこから境内に雪崩れ込む。


明智兵の意気は上がる一方であった。

ごおお、と表現したら良いだろうか。

腹の底から湧き上がる高揚感。

死と隣り合わせの戦場だからこそ味わえる、抑制の効かない「楽しさ」とでも呼ぶべき感情が、全ての兵を支配していた。


「しまった!」

明智光秀は、慌てた。不測の自体は、こういう時に起こる。

「庄兵衛!」

さらに一将である溝尾茂朝に、無秩序な乱入を止めるさせるべく、その後を追わせた。


明智軍の五将軍のうち、3人が、本体から離れた。

その一瞬、明智光秀から一番遠くに離れた、左翼に向けて、一騎の騎馬が駆けた。

大将と見える鎧兜。

「者ども聞けい!」

兵たちの腹に響く音声。

「我らは、これより妙覚寺を焼き討ちいたす!我が殿、明智日向守様が、天下様となられるのじゃ!蟻の子一匹討ち漏らすな!」

一軍を率いる将の号令は、一朝一夕になるものではない。

この号令は、まさに将の号令であった。


当然である。

無敵の武田、二十四将の一人として、天下にその名を轟かせた男の号令だ。

真田昌幸が、そこに居た。


明智の左翼の兵たちは、彼を司令官と信じた。

「おう!」

鬨の声が上がった。

「駆けよ者ども!我に続けい!」


明智兵、その数およそ三千が、怒涛の勢いで本能寺から離れ、妙覚寺〜織田信忠寝所〜へ駆けた。


「何事か!」

左翼から聞こえる地鳴りに、光秀は叫んだ。

「わかりません」

「物見を出せ」


だが、光秀の本陣を離れるや否や、物見は路肩で骸を晒した。

光秀が本能寺周辺に張り巡らせた、不見の城砦が、彼らを閉じ込める檻として機能していたのである。


「一か八かじゃ」

光秀が采配を振るった。

「全軍、境内へ入れ!本能寺を占拠せよ!火は放つな!延焼してきたらば消し止めよ!」


境内に軍を入れれば、手練れの敵たちに袋の鼠にされてしまう危険があった。

だが、これ以上グズグズしていては、確実に信長の命がない。

ギリギリの決断であった。


明智兵が勢いを増して境内に雪崩れ込むと、本能寺の僧兵たちは支えきれずにワッと散った。

だが、明智兵が本堂に駆け上ろうとすると、中から、4〜5人の武者が現れ、縦横無尽に明智兵を切り倒して行った。

その中に伊那の又五郎の顔があった。

明智兵はたちまち二つに割れた。

大波を切り裂く様に、又五郎たちは明智兵の真ん中を進んでいった。


振り返る明智兵に”日妙”が、

「どこを見ておる」

と鉄棒を振るう。

明智兵が崩れたとみるや、本能寺の僧兵たちも体制を立て直して打ちかかる。


又五郎たちが易々と陣を突破してきたのを見て、光秀の旗本たちが一塊りになった。

あの敵がこちらを襲うと見たからだ。


だが、又五郎たちはそのまま光秀の陣地のすぐ横を通り過ぎると、京の町の中へ消えて行った。


「さて、と」

成田重四郎はそれを見届けると

「撤収撤収」

と呟いて、踵を返した。

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