閑話 僕と大精霊
「え、無理ですよ、説得なんて。」
僕の無邪気な返答に、大精霊は絶句していた。なお、僕はガタの来ているこの魔道具を直す作業をしながら話している。
魔道具はメンテする人が居なくなってから相当経っており、正直なところ機能しているのが不思議なくらいだ。
「いや、説明しただろう!私が消えれば魔法は使えなくなるのだぞ!?阻止するには、エルフ達を説得するしかない!」
「説明は聞きましたよ。でも彼らを動かしているのって、つまりは正義感じゃないですか。そういう輩って、絶対に説得をペテンと受け取りますよ。」
「……、で、では仕方がない。少々荒っぽいが、行動不能にさせることも視野にいれて……。」
わお、びっくり。
「まさか殺害許可が出てしまうとは……。」
「いや、違うぞ!行動不能だ!なぜ即座に殺害につなげるのだ!」
……ちょっとわがまま過ぎませんかね、この王様。部屋に閉じこもりっきりのニートのくせに。
「儂は働いているぞ!ここから出られないが、ちゃんと世界を見ておる!」
なぜ罵ったことがバレたのだろう。こちらの心を読んだのだろうか。
「……ニートかどうかはさておいて、エルフ達を麻痺させたとして、それからどうするんですか?ずっと麻痺させ続けるとか?それって最後には死んじゃいますけど。
一時的に追い返しても、絶対再チャレンジしてきますって。だって彼らの心の中では、崇める大精霊を自分たちの手で救い出す、という英雄譚がコレでもか!ってくらいに歌い上げられてるんですから。」
大精霊は絶句している。うーん、なんというか、彼は自分の望みを叶えることに夢中すぎて、周りが見えてない感じがする。
「結局のところ、貴方はエルフに自分が死んだと伝えるべきでした。中途半端に生きていることをほのめかすから、貴方を信奉する彼らが奪還を試みるのです。
居ないなら取り戻そうなんて考えないでしょ?エルフを愛でる気持ちはわかりますけど、心を鬼にして死んだことに出来なかった時点で、この結果は決まっていました。」
僕の突き放した言葉に、大精霊は不満げに言葉を返した。
「……君はこの魔道具の管理者だろう。なぜ、心臓部である私の消滅を願うのだ。」
「別に僕は貴方の消滅を願っていません。論理的に考えて、エルフたちを止めることは無理、あるいはコストが高すぎると考えた結果です。」
「私が消えれば、君たち人間は苦難に陥る。それは同意するだろう?」
「ええ、同意します。でも、それは仕方がないことではないですか?どうしようもないことを無理になんとかしようなんて、結局は破綻しますよ。
神は僕達を信頼してこの地を去りました。貴方も、僕達を信じる時が来たのでは?」
大精霊がこの地に残ったことは、人間にとって福音だ。でも、見方を変えれば僕達の能力が低いと見なしているとも言える。まあ過保護な性格ってことなのかな。
僕の言葉は、大精霊にとっては聞きたくない言葉だったようだ。人間を見下すな、と言ってしまったようなものだ。彼にとって痛いところを突いてしまったかもしれない。
大精霊はみるみるうなだれていき、力をなくしていった。
「……君は、私が消えた後、どうするのだね?」
「そうですね。できることをやろうと思います。この魔道具の管理者に任命してもらったのですから、僕のできることをやれる範囲でがんばりますよ。」
「……そうか……。」
大精霊は僕の返答にそうつぶやき、以後、彼は静かになっていった。




