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5… 湯けむりの中


「いない…」

半蔵さんは湯畑を半周回って道也がいた所まで来たが、そこに彼はいなかった。

いるはずもないのだが…


「半蔵さん!見たの?道也さんを!」

ハァハァ息も荒く、しんどそうに梨乃さんが走って追いかけてきた。

(走ったのは二十メートルぐらい)

「お、おう…見たような気がしたんだけどなぁ、みっちゃんを…そんなことないよなぁ」

半蔵さんはバツが悪そうに頭を掻く。

なんだなんだと他の還暦ズもついてきていた。二人に声を掛けようとした謎のイケオジが「うわっ」と叫ぶ。

謎のイケオジの、謎の組織の支給品の、謎の腕時計が緑色に光る…スキーマーアラーム信号を出したのだ!

「ものすごく濃い緑…!この近くに宇宙怪物スキーマーがいる!」

ちなみにこのアラーム信号、レベルによって濃さが変わるようになっていて、濃いほど危険レベルが高い。

しかし"濃さ"という曖昧な基準なので今ひとつ薄いんだか濃いんだかのレベルが分かりにくかったりする。

これは謎の組織の内部でも不評で改善が待たれる事案だ。


しかしアラームは一瞬で消えた。「え?」イケオジが驚く。

「いなくなった?」

「隠れたってこと?」

みんなでキョロキョロ…「あ!」と三郎さん。

「どうした!」

「湯もみと踊りショーだって!秀治さん行こっ!」

空気読まないくせに心なしか嬉しそう。


着物姿の可愛らしい女の子のマスコットキャラクターがお出迎え…草津に来たら見たい、湯もみ。


皆さん、湯もみってご存知でしょうか?

草津温泉の源泉はとても熱いので(五十度〜九十五度)温度を下げないと入れないのですが、水で薄めて効能を下げたくない。

そこで、温度を下げるために大きな板でお湯を混ぜるのです。

「草津良いとこ一度はおいで」で始まる有名な「草津節」と共に。

コレを聞くとしばらく頭の中で「ちょいなちょいな」をがリピートされます…楽しいです。

「湯もみショー、見よう!」

「お、おう…」

スキーマーアラームは消えてしまったし、せっかくの温泉地だしということで、一旦観光に戻ることにする。

梨乃さんと半蔵さんは複雑な顔をしていた。

「もしかしたら…この中に人型スキーマーの形跡があるかもしれませんよ」

謎のイケオジが声をかける。二人はそうかもしれないとうなずいた。


さていつもなら、大人気ゆえ何公演か待たないと入れない湯もみショーだが、この日はユーレイ効果(?)ですんなり入れてしまった。

チケットを売る受付のお姉さん方も「今日は少ないわねぇ、外にはたくさんヒトがいるのに」などと不思議がっている。

場内は四割のお客さん。客席が一階と二階があるので、もっと少なく見えた。

湯もみのお姉さんを少しでも近くで見たい男性陣の誘導で七人は一階の最前列に座る。


ショーは楽しく進み、一同が草津での変な出来事を忘れかけていた時事件は起こった。


[ショーのネタバレ注意]ショーの最後にお湯が大きく噴き上がる場面がある。

わあ、と見上げる観客…そしてお湯が落ちる…その瞬間、充満する白い湯気の中に、客席一杯の人間が座っているのが見えたのだ!

「さっきまでは…こんなにいなかったよね…?」ざわつく観客たち。

「あっ!」誰かが叫ぶ。「ばーちゃんだ!」

「え、ハルくん?」

「うそ、お父さん!」

「そんなはずはない!」

「去年死んだじゃない…!」

どうやら、見えるはずがない人が見えているヤツらしい。

騒つく声がどんどん大きくなった。

「う、うううう」

そんな中、梨乃さんの隣に一人で座っていた中年男が酷く青ざめてうめき出す。

「どうしたの?」

声をかける…が、男は梨乃さんを無視して頭を抱えて足をドンドンと踏み鳴らし始めた。

「あいつが生きてるはずないんだ、あいつは死んだんだ、あいつは…

オレが殺したんだ」

どうやらこの男は、湯気の中に“かつて自分が殺した人間”が見えているらしい。


やばい、と思った時には遅く、男は梨乃さんの首を羽交締めにして立ち上がった。

「梨乃さん!」

売れない漫画家さんが異変に気付く。「梨乃さんを離せ!」

謎のイケオジがスーツの上着内側から何かを出そうとしたのを(拳銃?)、秀治さんが止めた。

「いやそれはマズイでしょ」

「…では…いきますか」

「りょ!」(こまちちゃんの真似をして若ぶる半蔵さん)

「タスキの戦士!還暦戦隊コウレイジャー、変身です!」

一応一般人にモロバレしないように、イケオジが湯の中に小さな何かを投げ入れる。

それは湯気より濃い煙になって会場は視界ゼロ状態になった。

そして三つのタスキ(梨乃さんの以外)を高く投げると、それぞれ吸い込まれるように各担当の手元に落ちた。


「変身!コウレイジャー赤!」

「変身!コウレイジャー青!」

「変身!コウレイジャー黄色!」

ピカーン!

「還暦戦隊!コウレイジャー!」


ちなみに、他の一般客はユーレイ(?)と煙のせいでコウレイジャーたちに全く気が付いていない。

それよりも、死んだはずの人間があちこちに座っている、という現象に阿寒絶叫だ。


しかし、盲点があった。


「梨乃さんが、見えない!」

目眩しのために煙を出したのはいいが、ついでにコウレイジャーたちも見えなくなっている。

タスキスーツのおかげで基礎能力が二倍から三倍ぐらいにはなっているのだが、なにせ元が元だし老眼にはあまり効果がないというダブルパンチで、要するにサッパリ見えない。


黄色の三郎さんが、

「逆に?!スモークandスメルだ!」

と例の必殺技を繰り出そうとしたが、青の秀治さんが全力で止めた。

「逆にってなんだよ!」

解説しよう!

スモークandスメルは爆風と激臭が広範囲に届くオナラである!

ある方面でダメージがデカい!

「爆風で、この白い湯気が吹き飛ぶかも?!逆に?!」

売れない漫画家さんがいらんことを言う。

「よし!」

「あー!!!」

「必殺!スモークandスメル!」


ブオーフププ


場内に尋常ならざる音が…響き…それについては皆意外と気が付かなかったが、あり得ない匂いに気が付いた者から軽くパニックになった。

「くさっ!これ、温泉の硫黄じゃなくない?くさっ!」


しかも、爆風により無事に湯気が引いてしまい、全身タイツ、還暦戦隊コウレイジャー赤青黄色の姿があらわになった。

お客さんたちは流石に気が付いて騒つく。

「な、なんかの撮影?」

「ドッキリ…?」


気まずさが溢れてきた瞬間、うっかり忘れかけていた梨乃さんの悲鳴が響いた。

「きゃー!早く助けて〜!」




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