4… 草津
「物騒…」
こまちちゃんがつぶやいた。
せっかくの観光地なのに最先が悪い。
「おもしれぇなあ!」
半蔵さんはウキウキしている。
幽霊とか、UFOとか、宇宙人や地底人とか、信じるかどうかは別として、いるといいなぁと思うタイプだから。そーゆーの夢があるじゃん!
自分がコウレイジャー赤という、かなり不思議な存在である自覚は薄いのだが…
温泉揚げ饅頭とコーヒーを平らげた御一行は、店長にサービスで清めの塩をちょっぴりかけてもらって、とりあえず店を出た。
「不思議なとこだったぜ、蕎麦屋“石うすうさぎ”…」
三郎さんがふぅ、とため息をつく。
「磁場、かもしれません」
イケオジがフとそう言った。
「磁場?」
「磁場、というか、地球上には面白い場所があって、人間の思考に影響する何かを発する場所があるのです。
例えば、ですが、数メートルの間に数秒の時間の歪みがある場所、知能指数が高くなる場所、低くなる場所、細胞の老化が遅れる場所などが確認されています。」
「ナニソレちょっと最後の所教えなさいよー!」
梨乃さんが理論を飛び越えた欲望で食いついた。
「…と言っても微弱な変化の積み重ねなので、生まれた時からそこにいる、レベルでないと目に見える変化はありません。」
「ちっ」
こまちちゃんもガッカリ。
「その、磁場の乱れを広げて宇宙トンネルからやってくるのが、我らが宿敵宇宙怪物スキーマーだと言われています」
「スキーマー…じゃあ、ここにも出る?」
売れない漫画家さんも神妙な顔になっている。
「おそらく。しかし多分人間変身タイプだと思うので、見抜くのは難しいかもしれませんね。」
この時梨乃さんは、バスの隣に乗ってきたアラサーの男性のことを思い出した。
亡夫に似ていた(より五割ほどイケメンだけど)あの男。
「あのさ、さっきのバスで私の隣に座ってた…」
「え?バスでは二列席に梨乃さん一人だったでしょ?他は満席だったのに…気楽でいいなぁと思って見てたんだよね。」
こまちちゃんの隣に座っていた売れない漫画家さんは微妙な気持ちになったが、他の一同は背筋が凍った。
正体が分からない何かにロックオンされている…!?
ーーーーー
ホテルでチェックインを済ませて、夕飯にはまだ早いので少し観光地を巡ることにした七人。
ちなみに部屋割りは単純に男女で分けている。男は五人部屋になるが、そこは和室の良いところ、布団をふた部屋にぎゅうぎゅうに敷き詰めたらどうにかなるのだった。
さてホテルから出ようと言う時に、三郎さんが見たらない。
探すのも面倒なので放っておこうと思った矢先、三郎さんの声が響き渡ってきた。
「うめぇ、うめぇ!」
地下一階に広がる赤い絨毯を敷き詰めたロビーのソファーで、何かグビグビと飲んでいる。
「何やってんの、三郎さん、行くわよ…あら。」
梨乃さんも、そこにあるフリードリンクコーナーに食いついた。
テーブルの上にお茶やコーヒー、それに酒粕が並んでいる。ご宿泊客様限定サービスである。
「これ、五時までだから!早く飲まないと!」
で、三郎さんは酒粕をバカスカ飲んでいるのだった。
酒粕は好き嫌いが分かれる飲み物だが、お好きな人にはたまらない。
三郎さんはテコでも動きそうにないので、皆も一杯飲むことにした。
「えー、美味しい!」
自称下戸の売れない漫画家さんも酒粕は気に入ったみたい。
「私はコーヒーでいいや」
こまちちゃんは意外と慎重派である…が、梨乃さんの「これ、美容にいいのよ」の一言でやっぱり酒粕を飲むことにした。
半蔵さん、秀治さん、謎のイケオジももちろん飲む。
「そう言えばぁ、お正月に巫女のバイトした時、御神酒みたいに酒粕配る神社さんがあってぇ、そーゆー力、あるかもぉ?的な?」
こまちちゃんの発言に、一同は妙に静まり返った。
「なんか、色々、導かれてる気がしますね…」
イケオジがしんみり語る。
「まあとりあえず、行こ、湯畑!」
半蔵さんが元気にリーダーシップを発揮する。さすが赤ポジションなのだった。
ーーーーー
「わー、テレビでよく見るヤツー!」
草津の湯畑。こまちちゃんがちょっとはしゃぐ。
「写真映えしそう!インスダ用に写真撮らなきゃ!」
自撮りなもちろん、売れない漫画家さんを捕まえて何枚もパシャパシャ撮ってもらう。
「あーちがうよ、スマホは逆さにして下から撮るの!常識でしょぉ?」
若者は若者同士、と還暦たちはおとなしく湯畑の周りを散歩する。
広場の真ん中に有名な湯畑があり、その周りをお店が囲っている感じ。湯畑を一周するだけなら十分もかからない。
「あんま、昔と変わってないかな」
梨乃さんは亡夫との事情(第二話のヤツ)を歩きながらサラッとみんなに話した。
「ふーん、そっかぁ。みっちゃん(道也)と来たとこかぁ」
半蔵さんが温泉の蒸気に手を当てながらつぶやいた。
半蔵さんと梨乃さんの亡夫、道也さんは遠い親戚同士で、家も近く学校も大学までずっと一緒だったことから仲が良かった。
会えば、「よっ!元気かい?」と挨拶する、そんな二人だった。
道也さんが不慮の事故で亡くなった時には、半蔵さんはお通夜からずっと付き添って「みっちゃん、みっちゃん」と泣いていた。なんなら梨乃さんより泣いていたかもしれない。
「みっちゃん、生きてりゃなぁ」
半蔵さんが誰にも聞こえない小声でそう言った時、
目の前の湯煙の向こうに、
道也さんが手を振っている姿が見えた。
「みっちゃん!!」
半蔵さんはとっさに駆け出していた。




