3…怪談饅頭
「おいおい、お化けってなんだい。聞き捨てならねぇなぁ」
と、いなせな半蔵さんが大きな声で言う。
奥さんはヤレヤレみたいな感じで、エプロンで手を拭きながらみんなの席の近くに座った。
店主はやっちまってごめんな顔をして見ている。
奥さんが「聞きますか?」と言ったので、一同はうなずく。こうなるとそりゃ知りたい。
「さっきも言いましたけどね、年に何回かこんなことがあって…」
さてこの奥さん、語りが抜群に上手い。
世にも奇妙なヤツに出てても不思議じゃない。
一同、蕎麦湯を啜りながら身を乗り出した。
売れない漫画家さんだけは怖いのが苦手なようで、こまちちゃんの後ろに隠れて遠くでそっと聞いている。
「まずは…そういう日は妙にお客さんが少ないんですよ。観光客はいつも通り歩いてて、天気も悪くない時でも。
なんていうのかな、見えないバリアが店を覆っているような感じですかね」
「バリア!」
何故かイケオジがはしゃいだ。
バリア…!ってカッコいい。
SF大好き、アメコミヒーロー大好き、マーベル作品とかめちゃ大好きおじさんなのだ、実は。
本人はちょっとドクターストレン◯に似てると思ってる…そして寄せてる。
「温泉揚げ饅頭、追加しようかしら。ええい、長くなるならコーヒーも!」
ドキドキ楽しくなってきた梨乃さんがメニューで発見したデザートを可愛い店員さんに注文した。
「おれも」「わたしも」「ついでに」など、結局全員分だ。夕飯のバイキングは大丈夫なのだろうか。
温泉リセットに期待しすぎではないだろうか。
温泉揚げ饅頭は、あんこカロリーの上に揚げちゃうっつープラス爆裂増し油カロリーで背徳の美味しさである。お茶にもコーヒーにも合う。
あったら食べる(作者)。
よく考えてください、みなさん。このご時世、明日何があるか分からないんですよ?食べられるうちに予算内なら美味しいものは食べないと!と思うじゃないですか。
こうしてプクプク太りましたが食べたことに後悔はありません。
運動しないのが悪いのです(分かってる)。
さて、みんなにコーヒーと温泉揚げ饅頭が行き渡り、お話が再開した。
「ご注文ありがとうございます。(商売)でね、そんな日は、一組だけ店にやってくるお客様がいらっしゃるんですよ、…そう、選ばれたように。あなたたちのように…」
ゴクリ。
還暦たちが少なくなった唾液とコーヒーをすする。
「で、コレもお決まりなんですが、お客様が必ず一人多く見えるんです。三人なのに四人に…とか」
売れない漫画家さんが手に持ったコーヒーをこぼしそうになった。
「さっきみたいに、お客様に“お水一つ多いですよ”って言われるんです。そうすると、ああまたか、と思うんです。」
一同顔を見合わせた。なにやら、怪奇現象に選ばれしも者たちになったようだ。
「いや、で、で、どうなるんでふか?!」
売れない漫画家さんがどもりながら叫んだ。
奥さんは視線をテーブルに落として無表情になる。しばしの沈黙…
「…昔から、温泉が湧く地には神が宿っていると言いましてね…
神、とは、未知なる何かなのかと…」
「いかんっ!」
いきなり店主が店の奥に走り、塩の壺を抱えて持ってきて、奥さんの頭から掴んだ塩を投げかけた。
バリっと変な音がして、奥さんが顔を上げる。
「えっ、あっ、ああ」
ビビりまくるコウレイジャーと仲間たち。
「ど、どうしたんですか?」
秀治さんが店主に尋ねた。
「うちのかーちゃん、下を向いて喋るヤツじゃなくてね、神主さんにそうなったらヤバイからお清めの塩をかけるように言われてんだよ…」
「やっば…」
さすがのこまちちゃんもドン引きである。
塩がちょっと目に入ったかもしれない半蔵さんは目をしばしばさせて言った。
「ま、オレらにかかりゃ、どんなお化けもやっつけてやるけどよ」
カッコいい!
と、そこにいる約半数が思った。内訳は省略する。
イケオジはふーむと何か考えている。多分、宇宙怪物スキーマーの可能性を考えているのであろう。
「我々の正体も実はミクロの粒の集合体なのだとしたら、幽霊的なものが不可視の形で存在するとしてもそれほど不思議ではありません。」
と、分かったような分からないようなことを言った。
売れない漫画家さんだけは、「あ、じゃあヒーロースーツも…」などど、少しピンときたようだが。
「まあね、そういう所のそういう時なんだろと思ってるんですよ。
もしかしたら、そのおかげで商売繁盛させてもらってるかもしれませんしね」
塩まみれで奥さんが笑う。
「日本的発想ですね、いいと思います」
イケオジはとっておきのスマイルを返した。
「あ、で、どうなるんですか、その人たち」
「…その人たちかどうかは分からないし、何があったのかはあえて調べないんだけど、そういう日の後はよくパトカーや救急車の音が聞こえてくるわね…」




