第6話 ROT作戦2
夜の帳が下りる頃、坂井はROT本社近くの配電箱の前に到着していた。
配電箱は歩道の上に設置されており、周囲に通行人の姿はない。しかし、制服を着た数人の警備員が周囲を厳重に警戒しており、誰も近づけさせないようにしていた。
(警備員がいるなんて……あの会社が私的に雇った警備員か)
坂井は自分の装備と能力を考え、正面突破は不可能だと判断した。ここは戦略が必要だ。彼はメガネのフレームを軽く叩いた。
「マップ」
言葉を発した瞬間、坂井の視界に周囲の3Dモデルが展開され、すべての出入り口や死角が一目瞭然となった。
「どこから攻略すべきか……」
突然、視界の右上小窓がポップアップした。
『ちょっと! 私よ!』
坂井は驚いた。「橋本?!」
『メガネをアップデートしたから、これで遠隔通話ができるし、あんたの視界もこっちで共有できるわ』橋本は画面の向こうで説明した。『配電箱に着いたら教えて。同時に操作する必要があるから』
「同時?」坂井は首をかしげた。
『ROT本社はコスト削減のために、近くのいくつかのエリアとこの配電箱を共用しているの』橋本はそう語った。『私が先に保護措置をとっておかないと、電源を切った後何が起こるか分かったもんじゃないわ』
「了解した」
坂井は遠くから警備員を観察した。「一人……二人か?」二人の警備員が通りを交互に巡回している。メガネの画面には二人の巡回ルートが固定されていることが表示された。
「ふむ……」坂井はルートを見つめ、思考を巡らせた。「配電箱の隣の角に、別の場所へ抜ける細い路地がある。一人を引き込んで無力化できれば、相棒が探しに行った隙に配電箱を操作できるはずだ」
作戦を決めた坂井は、角の死角に潜んで警備員がやってくるのを待った。
警備員が振り向いた瞬間、坂井は足を突き出して警備員の足を引っかけると、そのまま身を翻して走り出した!
「おい! 待て!」警備員は怒鳴り散らしながら起き上がり、坂井を追って路地へと飛び込んできた。
路地の奥で、警備員は腰から特殊警棒を抜き取り、冷笑を浮かべた。「クソガキが、逆らう相手を間違えたな!」
坂井は先ほど確認したルート通りに走り抜けようとしたが、路地の奥が廃材の山で塞がれていることに気づき、愕然とした。
「嘘だろ……」坂井は絶望の溜息をついた。
「どこへ逃げるつもりだ、ガキ? ハハ……詰みだな!」
「やるしかないみたいだな……」坂井は振り返って警備員に向き合い、構えをとった。
その時、橋本のウィンドウが跳ね上がった。『隠密行動しろって言ったでしょ?! なんでまた戦闘になってるのよ!』
警備員が突進してくる! メガネが攻撃軌道を描き出したが、容赦なく警告音が響いた。
[戦闘データ不足 — 有効な回避ルートを生成不能]
坂井が反撃に出ようとした瞬間、警備員の警棒が坂井の右腹を強烈に打ち抜き、続けて右頬にも痛烈な一撃が入った!
ドカッ!
激しい衝撃に耐えかね、坂井は地面へ倒れ伏した。
打撃を受けたことで坂井の頭に血が上り、地面を思い切り殴りつけた
メガネがすぐに警告を出す:怒り状態は戦術判断に深刻な支障をきたします。だが坂井は警告を無視し、まるで猛牛のように警備員へまっすぐ突進した!
警備員は坂井の無謀な動きを見抜き、軽々と回避すると、再び警棒で坂井の身体を強く叩きつけた。
坂井は後退し、流れる鼻血を拭った。怒りで全身が震えている。「くそっ……頭にきた……!」
ウィンドウが再び跳ね上がり、橋本が呆れたように言った。『早く終わらせてよ! 時間がないの!』
「これを使うしかない……!」坂井は歯を食いしばり、昼間の化学実験室で作った原料をポケットから取り出すと、警備員に向かって力任せに投げつけた!
「な、なんだ?!」
破裂音とともに原料が爆発的に弾け、濃密な刺激臭を放つ白い煙が広がった!
メガネのセンサーを通して、煙の中で激しく咳き込みながら乱暴に警棒を振り回す警備員の姿が見える。坂井は足元に転がっていた廃材を拾い上げ、正確に頭部を狙って投げつけた!
砰!
警備員は激突音とともに崩れ落ち、そのまま昏倒した。坂井は警備員が倒れたのを確認すると路地を抜け出し、もう一人の警備員を待った。
五分後、もう一人の警備員は相棒が戻らないことを不審に思い、配電箱を離れて路地奥へと向かった。その隙を突いて、坂井は一瞬で配電箱の前まで駆け寄り、カバーを開けて主電源を確認した。
「橋本! 着いたぞ!」
橋本の小窓が跳ね上がった。『よし、こっちも準備完了よ! 私のカウントダウンに合わせて同時に切って。準備はいい?』
坂井は身を乗り出し、電源スイッチに手をかけた。
数秒の静寂の後——
『サン!』
「サン」の声を聞いた瞬間、坂井は一切の迷いなく電源レバーを引き下げた!
『——えっ?! なんで今切ったのよ!?』橋本の悲鳴混じりの声が聞こえる。
パッ!
周囲の電源が一瞬で遮断され、通り全体が暗黒に包まれた。
通信の向こうから激しいタイピング音が響き、続いて橋本の絶望的なツッコミが飛んできた。
『なんで「サン」で切るのよバカ!!』
坂井は一向に合点がいかない様子で首をかしげた。「え? 『一、二、三、ポン』じゃないの?」
『普通は「三、二、一」でしょ!! ……はぁ、もういいわ、こっちも何とかアクセスできた。あんたは急いで撤退しなさい!』
家に帰ると、室内は真っ暗だった。
「桜、まだ帰ってないのかな……?」
坂井はソファに座って少し待つことにした。しかし、激しい疲労感が押し寄せ、彼の瞼は重くなり、そのまま深い眠りへと落ちていった。
翌朝。
坂井が目を覚ますと、周囲は不気味なほど静まり返っていた。
「桜? 桜?」
坂井は妹の名を叫びながら家中を探し回ったが、返事はない。すべての部屋を探したが、妹が一晩中帰ってこなかったことが判明した。
「そんな……どこへ行ったんだ……」
焦りながらスマホを手に取った瞬間、坂井の目が大きく見開かれた——画面には数十件もの着信履歴が残されていた。
そして、その発信元の名前には、
──【市立総合病院】




