第8話 ご主人さまたちの内緒話ニャ
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ある午後のこと。 ランディスとリリアナが、庭の木陰でひそひそと作戦会議を開いていた。
「ねえリリアナ。ミシェルお姉ちゃんを、本当のお姉ちゃんにしたくない?」
ランディスが真剣な顔で言った。リリアナはそれにしっかりと頷く。
「うん!おねえちゃんになって欲しい!でも、出来たらお母さんがいいな……。」
しょんぼりしたような表情を浮かべるリリアナ。
「リリアナはお母さまのことをあんまり覚えていないから、お母さまが欲しいのかも知れないけど、僕はお母さまを覚えているから、ミシェルお姉ちゃんをお母さまとまでは思えないよ……。」
ランディスもしょんぼりしたような表情を浮かべる。
「それにお父さまは、お母さまのことをずっと愛しているから、僕たちに新しいお母さんをむかえないんだ。だからお父さまは再婚しないと思うよ。」
「そっか……わかった。」
リリアナはそ言ってうなずいた。
二人はその日の夜、ハルトが仕事の合間に少し休憩している部屋に乗り込んだ。
「お父さま!」
ランディスが真っ直ぐに切り出した。
「ミシェルお姉ちゃんを、本当のお姉ちゃんにしたいんだ!」
ハルトが目を丸くする。
「本当の……お姉ちゃん?」
「うん!だから、お父さまはミシェルお姉ちゃんといつも一緒にいて!ずっと一緒にいて!」
「リリィもほんとうのお姉ちゃんになって欲しい!」
リリアナも手を伸ばして、ハルトの膝にしがみついた。
ハルトは一瞬、言葉を失った。本当はミシェルが血の繋がった妹ではないことを、彼は最初から知っている。子どもの頃に会った猫耳の生えた女の子を、「婚外子の妹」と当時の自分は呼んだ。
おそらく自分が昔助けた猫が変化したものであろうと、なんとなく思っている。だってあの猫にはしっぽがここのつも生えていたのだ。
いわゆる猫又。魔物のたぐい。だけど自分に対して害意がないことだけはしっかりとわかる。恩返ししてくれているのがわかるのだ。
だからミシェルという名前を勝手にハルトがつけたが、それに対して抵抗するそぶりも見せなかった。
彼女はおそらくグランディック伯爵家に潜り込んで、自分の手助けが出来ればそれでいいのだ。
ヴィルヘルムに紹介するのに、便宜上そう名乗らせただけで、本当の名前も知らない。それなのに、子供たちがこんなに本気で「本当のお姉ちゃんになって欲しい」と言いだすなんて……。
そもそも自分の婚外子の妹という設定なのだから、ランディスたちの姉ではなく、本来なら叔母にあたるわけだが。
子どもたちと同レベルで遊んでくれている様子から、お姉ちゃんになって欲しいと言い出すのも、無理はないとは思う。
近くに同年代の子どもはいるが、平民の子どもばかりで、一緒になって遊べる相手がいないからだろう。
平民の子の場合、将来の従者候補として、小さい頃から一緒に遊ばせて、将来はそばで支える相手に……というケースもあるが、その場合は、代々その貴族家につかえてきた従者や、騎士の子どもがなるのが通例だ。
グランディック伯爵家は、商売こそうまくいっていてお金があるが、私設騎士団を持っていない。過去あまり国が戦争を行うこともなく、近くに人々を脅かす魔物が出ないことが原因だ。
また、従者たちはハルトの親の代からの従者か、最近入った若い子たちばかりで、結婚していてもランディスやリリアナと同年代の子どもがいないのだ。
それでも、領地によっては平民の子どもと一緒に遊ばせる貴族もいるにはいるが、グランディック伯爵家は、あまりに家族が死に過ぎた。
母が。自分の妻が。妹が。そしてついには父が。
次々と、ハルトの目の届かないところで亡くなってしまった。
もちろん、病気であったり事故であったり、他殺というわけではない。
……だが、あまりに直近過ぎて、疑いたくもなってくるのだ。
そんな状況で子どもたちだけで遊ばせるなど、恐ろしくて出来ない。
それに妹の入り婿だったヴィルヘルムの行動がなんだか怪しい。
本来娘しかいない場合以外、貴族が入り婿を取ることはない。なぜなら入り婿になったところで、家督を継ぐことは出来ないからだ。
貴族としてうまみがないのだ。だから普通の次男以降は、一代限りの名ばかり貴族としてやっていくか、娘しかいない貴族の家の入り婿になる。
にも拘わらず、ヴィルヘルムは望んで入り婿としてやって来た。
もちろん、男爵家の三男など、家や領地がもらえるわけでもないし、騎士として名をはせているわけでもない。
ハルトとしても、妹を嫁がせたところで、苦労をさせることは目に見えていた。
自分は商売の方に興味があるから、便宜を図って欲しい。ゆくゆくは独立するつもりだ。
その言葉通り、最初はハルトの経営する商会で学び、やがて自分で商売を始めるようになった。どうやって儲けを出しているのかはわからないが、妹亡きあと──ひょっとしたらそれ以前からの関係だったかもわからないが──あんな派手な愛人を連れているくらいなので、羽振りはよいのだろうと想像する。
だがその割に、やたらとグランディック伯爵家に絡んでくる。妹が亡くなり、商会からも独立し、本来であれば商売敵だ。特に取引の関係があるわけでもないのに、こちらに顔を出す理由がないのだ。
配偶者が既に亡くなっているとは言え、元義父が亡くなったのだから、義理として顔を出すのまではわかる。だがそれ以外は、完全に目的がわからない。
従者は味方とは言い切れない。いつ金を積まれて裏切るかもわからない。
そんな中で、あの日出会った猫又だけが、自分の唯一の味方だと、ハルトは思っているのだった。
「……本当に家族になれたらいいけどな。」
「えっ。お父さま、何か言った?」
「いいや?なんでも。それよりピクニックの話をしようか。」
ハルトはそう言って子どもたちの提案から話をそらすのだった。
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