第7話 ご主人さまを暗殺から守るニャ!
そんな穏やかな時間が続いたある日。ヴィルヘルムから、高級そうなワインの木箱が届けられた。今日はあちしではなく、ご主人さまに用があるらしい。
なんだか怪しいニャ。これは猫又のカンというやつニャ。あちしはヴィルヘルムの前に姿を現さずに、そっと物陰から様子を見守ることにした。
「取引先から見本としてもらったんだ。これからワインの仕入れを行おうと思ってね。義兄さんの家にもおすそわけするよ。」
使用人が箱を開けると、たくさんの美しいラベルの貼られたワインの瓶が入っていた。
「これだけあるんだ、日頃の感謝をこめて、みんなにもふるまおう。」
ご主人さまがそう言うと、わっと従者たちが歓声をあげた。するとヴィルヘルムが焦ったように、突然おろおろしだす。
「おいおい、高級品だぞ?従者に飲ませるなんて、俺の気持ちをないがしろにするつもりか?」
「そうは言っても、こんなに飲み切らないよ、それに……一緒に飲む相手ももういないしね。」
「でも、義兄さんはワインが好きだっただろう?だから俺がこうして……。」
「僕じゃない。ワインが好きだったのは妻だ。僕は彼女とお酒を飲むのが好きで、飲んでいただけだよ。」
ヴィルヘルムは何か言いたげにご主人さまをじっと見ていた。ワインのコルク栓が抜かれ、ご主人さまのグラスにワインが注がれる。
……なんだか変な臭いがするのニャ!!
ご主人さまがワインを口にしようとした瞬間、あちしは物陰で猫の姿になって、室内に飛び込むと、ご主人さまの手からワイングラスを叩き落としてやった。
ふかふかのカーペットのおかげでグラスは割れなかったものの、赤黒いワインのシミが血のようにカーペットに広がって行った。
「この猫!どっから入って来やがった!」
そしてそのまま、空いていた窓から飛び出して外に逃げると、また人間の──ミシェルの姿になって、何食わぬ顔で屋敷の中へと入った。
「どうしたんですか?」
ご主人さまたちのいる部屋に、何食わぬ顔をして入ると、テーブルの上に置かれた、封の切られたワインのボトルの臭いをクンクンとかいだ。
「なんだか変な臭いがしますね?このワイン。」
普通のワインとは明らかに違う、わずかな苦い臭い。猫又の鼻にはすぐにわかったニャ。これは……毒ニャ。
それを聞いたヴィルヘルムが慌てたようにビクッとして、あからさまに目線を泳がせた。
「す、すっぱくなっていたのかもしれないな。ワインには、よくあることだ。他はきっとだいじょうぶだから、そいつは捨てて、他のものを楽しんでくれ。じゃあ、俺はこれで失礼するよ。」
ポカンとしたように、ヴィルヘルムを見ているご主人さま。従者たちはカーペットのワインのシミを抜こうと格闘していた。
あちしは再び猫の姿になって、ヴィルヘルムを追いかけた。
「くそっ!くそっ!あれが、唯一の毒入りの瓶だったのに……!あのくそ猫め!」
親指の爪を噛みながら、そんなことをぶつぶつといいながら、足早に屋敷を立ち去り、馬車へと乗り込んでいった。
あちしは馬車の屋根に飛び乗って、屋根に耳をつけて、ヴィルヘルムが何か漏らさないか耳をすませた。
「一本だけならいつ毒が仕込まれたかわからずに、後は家に近付きさえしなければ、俺のアリバイは成立したうえで、ハルトを殺せたものを……!」
なるほど、そういうことだったニャ。
まったく、ずさんな計画だ。毒がいつ仕込まれたかわからなくても、蓋をされたワインから毒が出たら、一番最初に調べられるのはお前ニャ。
ワインを贈ったのもお前。ご主人さまが死んで得をするのもお前ニャ。
群れの中にボスを狙うやつが複数いて、初めてお前ひとりが疑われたりしなくなるニャ。
あちしは長生きだけど、頭はあんまりかしこくないニャ。そんなあちしでも防げる程度の契約を立ててるみたいだ。
これならあいつが何を企んででも、無事にご主人さまを守り抜けるかも知れないニャ!
「こうなりゃ早々にあのミシェルって女を落とさないとな。既に俺にだいぶお熱のようだ。もう少し夢中にさせてやれば、ハルトを蹴落として、俺に伯爵家を継がせる手助けをさせられるかも知れん。」
子ども向けのオモチャが欲しいんだったか……面倒くさいがこのまま帰りに買いに行くか、と、ヴィルヘルムは独り言を言っていた。
あちしが既にお前に夢中?
馬鹿め、ニャ。
まんまとあちしの猫に騙されたニャ!
このまま猫をかぶりつづけて、逆にお前の計画をご主人さまに自らばらさせてやるニャ!
────────────────────
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。




