第6話 ランディスと冬支度をするニャ
今日は妙に落ち着かないのニャ。空を見上げると、もう少しで秋が深くなりそうで、冬の気配が少しずつ近づいてきている気がする。
「冬は……寒いニャ。エサが取れなくなるニャ……。」
あちしは納屋の近くで一人、ブツブツと呟いていた。猫のときはずっと冬を越すのが大変だったのニャ。雪の中で獲物が少なくなるし、寒さで体が縮こまる。
食べ物を蓄えておかなくちゃならないし……蓄えておいても、たまに忘れてしまったり、隠しておいたエサを他の奴らに食べられてしまったりもするニャ。
だから今のうちに出来るだけたくさん、少しでも冬の備えをしておこうと思ったのニャ。 あちしはさっそく行動を開始した。
使用人たちが忙しそうにしているすきに、台所から干してあった魚や肉、保存の効く野菜を少しずつ運び出す。人間用は塩漬けにされてしまうから、猫又の体にはちょっとよろしくない。
だから加工する前に早めにそれを持ち出して、森の中のあちこちに隠しておく。猫又の力で何往復もすれば、結構な量になるニャ。
庭で遊んでいたランディスが、それを見て、何をしているんですか?と声をかけてくる。冬支度の為に食べ物を隠しているのだと言うと、自分も手伝いたいですと言ってきた。
ランディスには面白い遊びのひとつに感じられたみたい。だから手伝ってもらうことにしたニャ。
乾燥した魚や肉や野菜を、油紙に包んであちこちに隠した。
穴を掘るのも、見つからないように隠すのも、まるで秘密基地のようだと、ランディスは楽しそうにしていた。
まあ確かに、秘密基地をたくさん作っているようなものかも知れない。
「これで冬が来ても大丈夫ニャ。」
あちしは満足して、ランディスとともにグランディック伯爵家の屋敷に戻った。だけどそれを見ていた使用人たちの間では早くも噂が広がっていた。
「ねえ、あのご主人さまの婚外子の妹さん……勝手に食べ物を屋敷の外に運びだしているみたいよ。」
「どこかで売るつもりかしら?本当に変な人よね。仮にも貴族として引き取られた人が、そんなことをするなんて……。」
「もしかして、貧乏だったのかしら?」
「婚外子だもの、きっと元平民なんだわ。」
「貴族として恥ずかしいわよね、あんな人が身内だなんて……。」
あちしは廊下でその声を聞いて、耳をぴくぴくさせた。
……ニャ、思わず耳が出てしまった。危ない危ない。
ちょっと傷ついたニャ……でも、冬の備えは大事だもん。
あちしはグランディック伯爵家に来ればエサをもらえるけど、本来野生となると自力でエサを手に入れられなかったら、死ぬしかないのだ。
その噂はすぐにご主人さまの耳にも入ったらしい。
夕方、ご主人さまがあちしのした行動の説明を従者たちから受けている。
ご主人さまは少し驚いた顔をした。でもすぐに、優しい笑顔を見せてくれた。
「いや、いいよ。彼女のやりたいようにさせてやってくれ。ミシェルがそうしたいなら、それで構わない。」
使用人たちにそう言うと、みんな少し驚いた様子で頷いた。
あちしは胸が温かくなった。ご主人さま……優しいニャ。冬支度の大変さをわかってくれてるんニャね!
次の日の午後、子供たちと一緒に庭で遊ぶことになった。と言っても、あちしは人間の遊び方なんてよくわからない。
だから猫の遊び方を教えることにしたニャ。
「じゃあ、まず木登りからニャ!……です。」
あちしはランディスと一緒に、庭の大きな木に登ってみせた。人間の姿だと少しぎこちないけど、それでも普通の人よりはるかに上手に登れる。
「わあ!お姉ちゃん、すごい!」
ランディスが下から見上げて拍手する。登り方を教えると、スルスルと木の上まで登って、嬉しそうに木の下を眺めている。
「おにいちゃんばっかりずるい!あたしものぼりたい!」
リリアナが木の下でむくれていたので、あちしが抱えて木の上に登ってあげた。これくらい軽いもんニャ!
「わあ……!すごい……とおくまで見えるよ!」
リリアナは嬉しそうに興奮気味に言った。
次に❝巣穴に隠れた獲物を見つける遊び❞だ。これは獲物を捕るときに必要なことで、猫又は幼少期に遊びとしてそれを覚えるニャ。
穴の中に隠れる獲物は、少し周囲の土が盛り上がっていたりして、それとわかる特徴がある。あちしは中の獲物が攻撃してきても、鋭い爪で引き裂けるから問題ないけど、子どもたちはそうはいかないニャ。
だからあちしは地面に小さな穴を掘って、小さな木の実をあちこちに埋めた。
「さあ宝探しをしよう!どこかにお宝が隠れているかもニャ……よ?」
それを聞いたランディスとリリアナは、夢中になって宝探しを始めた。リリアナが大喜びで膨らんだ土に手を伸ばす。
「みーつけた!」
「大当たり!お宝発見ニャ!……ですよ!」
嬉しそうに笑うリリアナに、ランディスも「僕もやる!」と夢中になって穴を掘り始める。二人とも泥だらけになって笑っている。
あちしは少し離れたところで、子供たちを見守りながら小さく微笑んだ。そんなあちしたちの様子を、ご主人さまも部屋の中から目を細めて眺めていた。
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