第39話 ルナとの過去との因縁ニャ!
「させないニャ!!!」
あちしは猫又の姿になった。それを見て驚いたルナ。
「……九尾の猫又ですって?驚いた、こんなのがいたなんて。」
「ミ……ミミ……?」
後ろから男の子の──ハルトの驚いた声がする。
「ハルトはあちしが絶対守るニャ!お前なんかに手出しさせないのニャ!」
そこからはまさに死闘と呼ぶのにふさわしい戦いだった。
「冗談じゃないわ……一万の心臓を食べて力をつけたというのに、この私と互角だって言うの!?もっと心臓を食べなくちゃ……!」
「させないニャ!ハルト!早く逃げるのニャ!誰か大人にかくまってもらうのニャ!」
「い……嫌だよ!ミミを置いて逃げられないよ……!」
逃げようとしないハルトを守りながら戦うのは、正直互角とはいえきつかった。
そこに、いつまでも戻って来ないハルトたち家族を心配して、町の人たちが大勢で探しに来てくれた。
「早く!早くハルトをつれて、ここから逃げて欲しいニャ!こいつはあちしが食い止めておくから、戦える人を寄越して欲しいのニャ!こいつは人間を一万も食べた、悪くて強い猫又なのニャ!」
そして、激しく戦うあちしたちを見て、慌ててハルトを回収し、その場から逃げてくれた。
あちしとルナは、それから三日三晩戦った。するとそこに、教会の祭司服を着た人間たちが大勢やって来た。
「本当に猫又と猫又が戦っている……。」
「しかも片方は九尾だと……!?」
祭司たちはあちしたちを見て、恐れたような感想を漏らす。
「──九尾のほうは、人間を守る為に戦ってくれていると聞いています。ですが……あの黒いほうと互角の力は放っておくことが出来ません。」
「聖女さま……それでは……。」
「弱体化の呪いを使いましょう。あの一体だけを弱めることは難しいですが、猫又全体を弱体化させる呪いであれば、あの二体双方の力を弱めることが出来ます。そうすれば、封印することも可能でしょう。」
「あちしは構わないニャ!こいつを野放しにするほうが駄目なのニャ!ハルトを、ハルトを守ってくれる人たちを、こいつに殺させるわけにはいかないのニャ!」
「……わかりました、よい覚悟です。」
そう言って、聖女さまは祭司たちと共に、猫又全体を弱体化する呪いをかけた。
封印の儀式の夜。ルナは鎖に繋がれながらも、赤い瞳であちしを見て笑った。
「封印を解いたら……また行くわよ。お前の大切なものを、再び奪いにね。」
その声は、今も耳の奥に残っている。封印され、石化したルナの上から、更に重たい石を置いて、そこに聖女さまが力を込めた。
儀式の最後、聖女さまがあちしの頭に手を置いた。
「あなたの力が、猫又の種族全体を弱める呪いの核になってしまいました。それでも、あなたは人間を守るほうを選んだ。ですから——」
淡い光が、九本の尻尾に染み込んでいく。
「あなたの大切な人たちが、力を持てるように。祝福をかけましょう。いつか再び闇が近づいたとき、彼らがあなたと共に立てるように。」
「あちしと共に立てるように……?」
「この祝福は、あなたが再び誰かを『守りたい』と願ったときにしか動きません。そして、あなたが『自分一人が犠牲になろうとした』瞬間に、力を失います。その時まで、この記憶も封印されることでしょう。あなたの大切な人たちが、あなたと共に立てるように。もしもその時が来たら、また人間を守ってくれますか?それが、私からあなたへの、最後の願いです。」
「もちろんなのニャ!あちしは人間が大好きニャ!きっと守って見せるのニャ!」
——そこで、記憶は途切れた。
地下の冷たい床に、あちしは倒れこんでいた。九本の尻尾が、力なく広がっている。呼吸は浅く、体の芯がまだ震えていた。ルナの魔力に長い時間さらされていたからだろう。
『……思い出した。一部だけど、思い出したニャ。』
あの一家を、ルナに殺された。
だから人間に協力して、ルナを封印した。
その代償に、猫又全体の力が弱まる呪いの核になった。
そして聖女は、あちしに祝福を残してくれた。
あちしの❝大切な人たちが力を持てるように❞。
『……ハルト。ランディス。リリアナ。あの祝福は、もしかして……今の、みんなのことなのかニャ。』
胸の奥が、熱く、痛かった。大好きで大切だった前の家族。大人のハルトたちよりも先に、あちしに家族のぬくもりを教えてくれた相手。
人間は、前世で家族だったり恋人だったりした場合に、血縁者に生まれ変わることが多いと、聞いたことがあるニャ。ひょっとしてみんなは、子どものハルトたちの生まれ変わりなのかも知れないニャ。
立ち上がると、日記帳の鍵が何故か壊れていて、ページをめくることが出来た。それはあの聖女さまの書いた日記だった。
ルナの封印の方法が、そこには記されていた。
だからルナはこれをどうにかしようとしていたのニャ。
誰にも知られないように、処分しようとして。
でも聖女さまの力が、日記帳を守っていたのだろう。再びルナを封印しようとする正しき者の手に、日記帳がわたるように。
ルナの声が、記憶の中で繰り返される。
「封印を解いたら、また行くわよ。お前の大切なものを、再び奪いにね。」
あちしは、ゆっくりと前脚に力を込めた。苦しくても、震えていても、顔を上げる。
『……今度こそ、奪わせない。絶対に、ニャ。』
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