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私の猫はバレてません!〜猫又であることを隠して、ご主人さまと子育てしますニャ!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第36話 猫又にかけられた呪いニャ?

 その夜は、月が半分だけ欠けていた。

 子どもたちがようやく深い眠りに落ち、ハルトが書斎の灯りを消すのを確認してから、あちしは屋敷を出た。


 人間の姿のままでは目立ちすぎる。猫の姿に変わり、夜の闇に溶けるように森を抜けた。オーデンハルム公爵家の方角へ。


 石壁が高く、燈火の数がグランディック伯爵家より遥かに多い屋敷。この時間にもまだ、働いている使用人たちがたくさんいるみたいニャ。

 近づくにつれて、空気が明らかに変わった。


 重く、粘り気のある魔力の残滓が、地面に染み付いている。

 あちしは慎重に外周を回った。

 植込みの影。古い石段の隙間。排水溝の縁。


 黒い毛が、これまで見たどの場所よりも多く落ちていた。

 赤い光の残滓も、濃く、生々しい。

 触れただけで、前脚の先が少し痺れるほどの密度だった。


 その時、一瞬何かが頭によぎって消える。

 思い出さなくちゃならないような、思い出してはいけないような、そんな気持ちにさせる何かが。

 でもそれはすぐに霧散してしまった。


 精霊たちが、葉の裏側から恐る恐る顔を出す。

「……あの大きな屋敷の地下に、巣くっているよ。」

「とても強い黒い気配。近づくだけで、私たちの光が弱くなる……。」

「もう、長いこと、あそこに居座っているんだ。」


 あちしは静かに息を吐いた。

『……ここだ。ルナの根城は、間違いなくここニャ。』

 尾行ではまかれ、直接追っても煙のように消されてしまった相手の拠点が、ようやく形になった。


 胸の奥で、緊張と安堵が同時に広がる。でも、安堵はすぐに消えた。場所がわかっただけでは、何も解決しない。

 ルナをなんとか封じなければ、また子どもたちが狙われる。──ハルトが、狙われる。


 あちしは公爵家を離れ、森のさらに深くへと足を向けた。

 普通の精霊たちでは、もう詳しいことを話してくれない。

 ルナの気配を恐れて、すぐに姿を隠してしまう。

 だから、森の最奥にいる者を訪ねることにした。


 木々が徐々に巨木へと変わり、地面は苔に覆われ、空気が澄み切って、それでいて重く沈んでいる場所。

 時が止まったような静けさの中に、長い年月を生きた精霊の長老がいた。


 この場所にたまたまいるのではなく、世界中の森深い場所に、精霊の長老はいる。

 どこにでもいて、世界中とつながっている存在。過去も、この先の未来も、ずっと見ていくのであろう存在。

 あちしは猫又の姿で、そこに近付いて行った。


 光の粒がゆっくりと集まり、人の形に近い影を作る。

 声は遠くで唸っている風のように低く、その周囲に漂う風は、遠い過去のにおいを含んでいた。

「……ここのつ尻尾の猫又か。珍しいな。このような深みまで、わざわざ来るとは。」


「……聞きたいことがあるニャ。昔、他の国で、強力な黒い猫又が人間たちに封じられたという話を知らないかニャ。」

 長老はしばらく沈黙した。光の粒が微かに揺れる。


「知っておる。──むしろ、おぬしがそれを忘れておるのか?」

 あちしの耳が、ぴくりと動いた。

「……え?」


「おぬしも、当時その封印にかかわっておる。」

 言葉の意味が、すぐに理解できなかった。

 頭の中が、一瞬だけ空白になる。


「あちしが……?そんな記憶は、ないニャ。何千年も生きてきたけど、そんな大事なことを忘れるはずが……。」

「そうか。長い時を経て、薄れてしまったか。あるいは、自ら忘れようとしたのかもしれぬな。」


 長老の声が、静かに、しかし確実に続く。

「本来、猫又は九尾の狐とは違う。猫が長く生きて猫又になっても、九尾になどならぬ。だがおぬしはなった。ゆえに、あの黒い猫又がもとの力を取り戻そうとも、本来ならおぬしの方が強いはずだ。」


「で、でも!あちしはあの遺跡で戦ったとき、防戦一方だったニャ!」

「あの黒い猫又が封印された際、あの国の人間たちは『猫又という種族全体の力を弱体化させる呪い』をかけたのだ。おそらくそれが原因であろうな。」

「『猫又という種族全体の力を弱体化させる呪い』……?」


「一人を指定する強い呪いは、多くの触媒やいけにえを必要とする。だが、種族全体を弱体化させるのなら、必要なものは少なくてすむ。そしてその力は、弱い者から強い者へと等分に分配される。力の大きいものほど、強く抑えられるようにな。」


「どういうことニャ?」

 馬鹿なあちしにはよく意味がわからなかった。


「仮におぬしのちからを100としよう。そしてあの黒い猫又の力を50とする。そしてその他の猫又の力を10だとした場合。種族全体で千の猫又がいたとする。するとどうなるか。」

 長老の体がゆらりと揺れる。


「すべての猫又の力を合計し、それを千で等分した力に、全体の力が抑えられることになる。さすれば、すべての猫又の力が10と少しになることとなる。」

 あちしの体が、小さく、しかしはっきりと震えた。


「そこに呪いを一部解いたあの黒い猫又は、おそらく四割程度の力を取り戻しておろう。50の四割で20の力。今や10と少しのおぬしとは、倍ほどの差があろう。それは防戦一方になるであろうな。」




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