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私の猫はバレてません!〜猫又であることを隠して、ご主人さまと子育てしますニャ!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第32話 決意の夜ニャ!

 朝の光が、窓から優しく差し込んでいた。あちしはいつものように人間の姿で食卓に座っていた。

 リリアナが隣でパンをちぎり、ランディスが「今日は何して遊ぼう?」とはしゃいでいる。

 ハルトも穏やかな顔でお茶を飲んでいる。


「……はい。何でもいいですよ。」

 あちしは笑顔を作って答えた。でも、心の中は重かった。

『……今日が、最後の一日かも知れないニャ。』


 食事の最中、リリアナがふと顔を上げた。

「ミシェルお姉ちゃん、元気ない?いつもより、声が小さい。」

「え?そんなことないよ。ちゃんと元気だよ?」


 無理に明るく言うと、ランディスも首を傾げた。

「本当?なんか、考えてるみたいな顔してる。」

 ハルトも静かにあちしを見つめていた。目が合うと、優しく微笑む。


「無理しなくていいんだぞ。何かあったら、話してくれ。」

「……少し、考えごとがあるだけです。大丈夫ですから。」

 あちしはそう答えて、視線を落とした。


 ハルトはそれ以上深く追及せず、「わかった。でも、一人で抱え込まないでくれ」とだけ言った。午後は庭で遊んだ。

 ボールを投げ、木に登り、子どもたちの笑顔に合わせて笑った。

 でも、心は別のところにあった。


『……明日の夜までに、答えを出さなきゃいけない。心臓を差し出したら、みんなは助かる。でも、あちしはいなくなる。』

 夕方、ハルトが仕事の合間に庭に出てきた。

 子どもたちが少し離れたところで遊んでいる隙に、静かに声をかけてくる。


「ミミ。本当に大丈夫か?」

「はい。少し考えごとがあるだけで……。」

「何かあったら、一緒に考えよう。君はもう、一人じゃないんだから。」


 その言葉が、胸に深く刺さった。

『……一緒に、考えよう、って。ハルトは、そう言ってくれる。嬉しいニャ。でも、話せないニャ。』


 夜。

 子どもたちが寝静まったあと、あちしは自分の部屋で窓辺に座っていた。

 月明かりが、九本の尻尾を淡く照らしている。


『……心臓を差し出したら、全部終わる。ハルトの隣で撫でてもらうことも、子どもたちに「お姉ちゃん」って呼ばれることも、全部。』

 涙が、ぽつりと落ちた。

『……でも、みんなを守るために、ここに来たニャ。守るために来たのに……このままじゃ守れないかも知れないニャ。』


 尻尾をぎゅっと抱きしめる。

『……自己犠牲は、選ばない。心臓はあげないニャ。あちしのも、ハルトたちのも。戦ってでも、守る。みんなと、ずっと一緒にいるために。』

 決意が、胸の奥でゆっくりと固まった。約束の夜。あちしは猫の姿になり、森の遺跡へと向かった。


 足取りは、昨日より確かなものだった。遺跡に着くと、すでにルナが待っていた。

 黒い毛並みが月光を吸い、赤い瞳が静かに光っている。あちしは猫又の姿に戻った。

「来たわね。答えは?」


 あちしは真っ直ぐにルナを見た。

「断るニャ。あちしやハルトたちの心臓を差し出すくらいなら、あちしは戦う!」

 ルナの表情が、わずかに変わった。興味深そうに、目を細める。


「そう。命より、あの人たちとの時間を選ぶのね。」

「みんなと一緒にいるために、ここにいるニャ。自分が消えたら、意味がないのニャ!」

 ルナは低く笑った。


「健気だこと。でも、甘いわよ。」

 ルナがゆっくりと歩き出す。周囲の空気が、重く沈んでいく。

「教えてあげるわ。私は昔、人間たちに封印されていた。九尾の狐に匹敵する力を得ようとしたばかりにね。完全体になれば、猫又は狐など軽く超える。伝説を、猫の側に書き換えることができる。」


 赤い瞳が、鋭く光った。

「そのために必要なのが、聖女の血を引く心臓。そして、九本の尻尾を持つ者の心臓よ。あなたが拒むなら、仕方ない。力ずくでいただくだけ。」

 ルナの体から、濃い黒い魔力が溢れ始めた。あちしも九本の尻尾を大きく広げ、前脚に力を込める。


『……ハルトたちの為に戦う。絶対に、負けないニャ。』

 そのときだった。

「ミミ!!」


 後ろから、ハルトの声がした。あちしは驚いて振り返る。

 息を切らしながら、ハルトが森の中から走ってくるところだった。

「……ハルト!? なんで……!」


「君の様子がおかしかったから、後をつけてきた。……これは、何だ。」

 ハルトがルナを見て、顔を強張らせる。あちし以外の猫又を見て、怖がるような表情をされるのは、少し、胸が痛い。

 ルナは面白そうに唇の端を上げた。


「あら。ご主人さままで来てくれるなんて。好都合ね。」

「ハルトに手を出したら許さないニャ!」

「許さないなら、どうするって言うのかしら?」

 空気が、一気に張り詰めた。







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