第3話 ご主人さまは憶えててくれたニャ!
「そんなところにいないで、中へどうぞ。ほら、ランディスも、そろそろ風が冷たくなってきたから、中に入りなさい。」
「はあい、お父さま。」
ランディスがあちしのことを、ボールを持ったまま不思議そうに見上げている。
「本当にお父さまの妹なの?だったら中に入って一緒に話そう!お父さまは中にいらっしゃるよ!」
ランディスはボールを持ったまま、あちしを伴って家の中に入った。
ご主人さまのいた部屋にランディスがあちしの手を引いて入ろうとすると、髪の短い派手は女にジロリと睨まれる。
「本当にこんな急に現れた子に、子育てを任せると言うの?子育ての経験があるとでも言うつもり?」
女はあちしとご主人さまを両方交互に睨みながら言う。
「そういうあなたも、別に子育て経験があるわけでもないでしょう。乳母もおりますし、あなたの助けは特別必要ありません。ましてや身内の彼女が来てくれたのですからね。」
あちしはアマンダから漂う臭いに、思わず顔をしかめた。さっきから気になってしかたがなかったのだ。
交尾した後特有の生々しい臭いが、強めの香水と混ざって、猫の──それも猫より敏感な猫又の鼻にはかなりキツイ。
「ニャ……臭い。この女の人から交尾した後の臭いがする。それが香水の臭いとまざってキッツイのニャ……です。嗅いでいられない。」
あちしは思わず鼻をつまんで手をブンブン振ってしまった。
「なっ──!?」
女が一瞬で真っ赤になった。心当たりがあったのか、声まで上ずっている。
「なんて失礼なことを言うのかしら!
「おい、アマンダ、待てよ!」
足早に出て行く女を追いかけて行くヴィルヘルム。やった!追い払ってやったニャ!
ご主人さまはリリアナを抱いたまま、嬉しそうにあちしにニッコリと微笑んだ。
「……久しぶり、子どもの頃以来だね。元気だった?」
ご主人さま!子どもの頃に会ったことを、覚えていてくれたニャ!
「元気いっぱいニャ!……です。そういうハルトはあんまり元気がなさそうだね?」
「父親が亡くなったばかりだからね……それに妻と妹を亡くしてからもそう経っていない。元気を出すのは難しいかな。」
ご主人さまはそう言って苦笑した。
まあそれはそうだね。ならあちしがたくさんお手伝いして、ご主人さまを元気にしてあげないとニャ!
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「……なんなのよあの子!まさかさっきのを、どこかで見ていたんじゃないでしょうね!?あんたがあんなところでしようとか言い出すから!」
屋敷を出て自分たちのの馬車に乗り込んだアマンダは、馬車を走らせながら、馬車の中でさっきの出来事を思い出して怒りに震えていた。
「まさか、納屋に覗ける穴なんてないぜ?適当に言ったんだろ。それが事実であれそうでないにしろ、そんなこと言われて怒らない女はいないからな。──だいたいそっちだって乗り気だっただろ。」
「……それにしても、計画が狂っちゃったじゃない。急に婚外子だなんて……。あの子も殺さないと、あの子に全財産が行っちゃうじゃないの。」
「まあ考えてみろよ……むしろその方が楽だとは思わないか?」
「──どういうこと?」
「今はハルトが伯爵家の継承第一候補だ。これは確定だ。」
「そうよ、だから殺して家督を奪おうって話なんじゃないの。」
「だが今あの女が現れた。あいつが婚外子とはいえ伯爵令嬢であるのなら、わざわざ子どもらまで殺さなくとも、あの女と俺が結婚してしまえばいいのさ。」
「そんなことできるとほんとに思ってるの?」
アマンダはあきれたように言う。
「俺の妻であるハルトの妹も、あいつの妻も事故で死んで、義父も亡くなったばかりだ。一家丸ごと一度に殺して事故に見せかけるのは難しいが、ハルト一人ならいろんな方法が使えるだろう?」
「まあ、それは確かにそうね。」
「そこで俺だ。つまり俺があの女と結婚すればいいんだよ。アマンダ、お前のようなイイ女に惚れられた俺の魅力の出番というわけさ。」
「……ふうん。田舎から出てきたばかりの、世間知らずの女を、お金を持ってる貴族の余裕の魅力で落とすってわけ?」
「そういうことだ。なあに、田舎から出て来たばかりの平民みたいな女だ、ああいう女は、ちょっと優しくしてやればすぐ虜になる。俺さまの魅力であっという間に虜にしてみせるさ。」
「そう、うまくいくかしらね……私があんたと一緒にいるのは、伯爵家を乗っ取れるって聞いたからってこと、忘れてないかしら。」
アマンダはそう、ポソリと呟いた。
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