↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の猫はバレてません!〜猫又であることを隠して、ご主人さまと子育てしますニャ!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/43

第28話 抜かれた心臓

 ヴィルヘルムが門の外へ転がり出てから、もう五日が経っていた。

 屋敷には、あの騒がしい男の影も声も届かなくなり、庭には再び穏やかな陽光が降り注いでいた。


 朝の食卓。リリアナがあちしの隣を陣取り、ランディスが向かい側でパンを頬張っている。ハルトが優しく微笑みながら、お茶を飲んでいる。


「最近、静かだね。いいことだ。」

「ええ。子どもたちも、安心して遊べますから。」


 あちしがそう答えると、リリアナがぱっと顔を輝かせた。

「ミシェルお姉ちゃん、今日も一緒に遊ぼうね? ずっと一緒にいてね!」

「僕も!お姉ちゃんがいないと、つまんないもん。」


 ランディスが勢いよく頷く。あちしは二人の頭を順に撫でて、小さく笑った。

「……はい。もちろん今日も、一緒にいますよ。」


 午後は庭でボール遊び。今度はボールが勝手に跳ねることもなく、ただ三人で笑い合いながら投げ合うだけの、普通の楽しい時間だった。

 ハルトも仕事の合間に窓から顔を出し、時々手を振ってくれる。


 夕方近くになり、ハルトがあちしたちを庭まで迎えに来ると、子どもたちが突然真剣な顔になった。

「お父さま!ねえ、聞いて!」

 ランディスが書斎から出てきたハルトの袖を引く。


「ミシェルお姉ちゃんを、本当の家族にしてほしいの!お姉ちゃんがずっとここにいてくれたら、リリアナも僕も、もっと嬉しいよ。」

 リリアナもハルトの足に抱きついて、上目遣いに訴える。


「うん!お姉ちゃんがお母さんみたいで……あ、でもお姉ちゃんでいいから!ずっと一緒がいいの!」


 ハルトは一瞬、言葉を失った。

「ほ、本当の家族……?」

 ハルトの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。子どもたちの無邪気な言葉が、思わぬ方向に頭の中で広がってしまったらしい。


「ミシェルと……結婚、する、ということか……?いや、まだ早いんじゃ……だが妻はもう亡くなってだいぶ……。」

 ハルトは一人で何やらぶつぶつ言っている。ハルトは慌てて咳払いをし、視線をそらしながら言った。


「そ、それは……まだ早い話だな。ミシェルさんは、あくまで妹としていてくれているだけだから……うん、家族、という意味では、とっくに本当の家族なんじゃないか?その……。」

 言葉がうまく続かない。耳まで赤くなっているハルトを見て、あちしは少しだけ首を傾げた。


「……とりあえず、今はミシェルさんがいてくれるだけで十分だ。二人も、あまり無理を言わないようにな」

 ハルトはそう言って、なんとか笑顔を取り繕った。子どもたちは「えー」と不満そうにしつつも、素直に頷いた。


 夜。子どもたちが寝静まったあと、ハルトがあちしを書斎に呼んだ。

 ランプの明かりだけが揺れる静かな部屋。ハルトは書類の山を前に、少し浮かない顔をしていた。


「ミシェル、少し話があるんだ。ちょっとここに座ってくれないか?」

「はい、」


 あちしがすすめられた向かいの椅子に座ると、ハルトは深く息を吐いた。

「父の死亡届が、まだ下りない。教会が検分に時間がかかっているらしい……理由を聞いてみたら、どうにも不自然なんだ。」


 ハルトの声が、普段より低くなった。

「父の体は、馬車ごと崖から落ちたように潰れていた。なのに、心臓だけが……綺麗に取り除かれていたそうだ。まるで、最初からなかったかのように。」


 あちしは静かに聞き入った。そのことは、すでに知っている。先に教会の死体安置所を調べたときに、祭司たちの会話で聞いた話だ。妹さんの体にも、同じ痕跡があったことも。


「それだけじゃない。二年前に亡くなった妹の体も、同じだったらしい。事故でひどく損傷していたから当時は気づかなかったが、今になって報告があった。妹の心臓も、なかったんだ。まるで最初からなかったかのように。」

 ハルトは手元のペンを強く握りしめた。


「妻は心臓が残っていた。なのに、父と妹だけが……意図的に抜かれたように。これが本当に事故なのか、僕にはどうしても信じられない。」

 部屋に重い沈黙が落ちる。


「最初に心臓が抜かれて、それから死んだ……とハルトは考えているということですか?」

「それもありうると思っている。」


 表面上は、ただ静かに頷いた。グランディック伯爵家は、過去に聖女を輩出した血筋だと話していた、教会の祭司たち。それが何か関係しているのかもしれないと思った。


「……心配ですね。でも、一人で抱え込まないでください。私にできることがあれば、言ってください。」

 ハルトが顔を上げ、少しだけ柔らかく笑った。


「ありがとう、ミミ。君がいてくれると、少しは楽になる。子どもたちのことも、仕事のことも……君が支えてくれているおかげだ。」


 彼はあちしの頭に手を伸ばしかけて、途中で止めた。いつもこうして書斎で二人きりになると、昔のように頭を撫でてくれるようになったのに、どうしたんだろう?あちしはちょっぴり寂しくなって、すねたようにハルトを上目遣いに見上げて睨んでしまう。


 それを見たハルトが、ふっと微笑んで、あちしの頭を撫でてくれた。ニャ。ハルトに撫でられると、とっても幸せなのニャ!


「今夜は、もう少しだけ一緒にいてくれないか。書類を整理する間、側にいてくれるだけでいい。」

「はい。どこにも行きません。」


 ランプの明かりが二人を優しく包み、書斎には穏やかな時間が流れた。窓の外では、夜の風が木々を揺らしているだけ。ヴィルヘルムの姿も、不穏な気配も、今はどこにもない。あちしはハルトの隣で静かに座りながら、心の中で小さく呟いた。


『……この穏やかな日々を守りたいニャ。そのために、心臓の件も、ちゃんと調べてみよう。』

 グランディック伯爵家の夜は、今日も静かに、温かくふけていくのだった。



────────────────────


X(旧Twitter)始めてみました。

よろしければアカウントフォローお願いします。

@YinYang2145675


少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。

ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。