第27話 敵に気付かれたかも知れないニャ?
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その日の夜、とある貴族の古い屋敷で、ヴィルヘルムは冷たい空気の中に座っていた。
向かいのソファには、中年の貴族らしき人物が深く腰を下ろし、その傍らにはルナが優雅にワインを傾げている。
「……それで、進捗の報告は?」
貴族の低い声に、ヴィルヘルムは額の汗を拭いながら答えた。
「は、はい……グランディック伯爵家の件ですが。屋敷が……呪われているようです。ボールが勝手に生き物のように動き回り、俺を追いかけてきたんです。ミシェルを落とすのは、もう諦めさせていただきたいと……。」
ルナがグラスを置き、小さく笑った。
「勝手にボールが生き物のように動いた……ねえ。」
彼女の赤い瞳が細められる。何かを察している様子だった。
貴族はルナの様子を伺いながら、強く言い放った。
「諦めなど許さん。何度でも行け。ミシェルを落とせ。グランディック伯爵家を手に入れるんだ。それができなければ、お前の存在価値はないぞ。」
「で、でも……!」
「行けと言っている!」
ヴィルヘルムは追い立てら、転げるように屋敷を飛び出した。ヴィルヘルムのいなくなった部屋の中で、ルナが頬に手を添えながら、低く呟いた。
「……猫又、かしらね。」
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数日後の午後。
グランディック伯爵家の庭では、あちしとランディス、リリアナがいつものようにボール遊びをしていた。
そこに、またもやヴィルヘルムが現れた。
今回は珍しく、花束も指輪も持たず、ただ疲れた顔で門をくぐってくる。ランディスが真っ先に気づいて、大きな声で言った。
「あ!おじさんだ!二度と来ないって言ってたのに!」
リリアナも手を叩いて笑う。
「ほんとだね!来ないって言ってたのにまた来たの?おじさん、忘れっぽいね!」
二人はあははと笑いながら、ヴィルヘルムを指差す。
ヴィルヘルムは顔を引きつらせながらも、無理やり笑顔を作った。
「こ、これは……みっともないところを見せてしまったから、まずは謝罪をと思って来たんだ。ミシェルさん、少し話を……。」
あちしはボールを抱えたまま、無表情でヴィルヘルムを見た。
「いりません。謝罪もプレゼントも結構です。もう来ないでください。」
「待ってくれ!俺は本気で……。」
ヴィルヘルムが一歩近づいた瞬間、ヴィルヘルムの足元の影が不自然に伸びた。くねくねと、まるで黒い蛇のようにうねり、ヴィルヘルムの足首に絡みつく。
「なっ……!?」
影がぐいっと引っ張ると、ヴィルヘルムはバランスを崩して転びそうになる。 その隙に、庭の花々が一斉に揺れ始めた。
大輪の花がヴィルヘルムの顔に張り付き、チューリップが彼の鼻をくすぐり、スミレが彼の耳の中に飛び込もうとする。
「ふがっ!が……花が俺を……!?」
ヴィルヘルムが花を払いのけようともがく中、ランディスとリリアナはもう大はしゃぎだった。
「あははっ!影がおじさんを引っ張ってる!」
「花がおじさんを攻撃してるよ!バラさん、がんばれー!」
リリアナが飛び跳ねながら応援し、ランディスは腹を抱えて笑い転げる。
ヴィルヘルムがなんとか影を振りほどき、花を払って立ち上がった瞬間、次は彼の服のボタンが、次々と弾け飛んだ。
ぱちん!
ぱちん!
ぱちん!
上着のボタンがすべて飛び、シャツのボタンも一気に外れ、胸元が大きく開いたかと思うと、ズボンのボタンも外れて、ずるっと足元にズボンがすべりおち、一気に半裸状態になる。
「ひゃあああっ!?な、何だこれは!服が……服が勝手に……!!」
ヴィルヘルムが慌てて胸を押さえようとするが、影がまた伸びてきて彼の両腕を縛るように絡みつく。花々も再び襲い掛かり、彼の顔や首にまとわりつく。
「やめてくれぇぇぇ!誰か助けてくれぇぇぇ!!」
子どもたちはもう笑いが止まらない。
「あはははは!おじさん、はだかんぼだよ!恥ずかしいー!」
「ボタンが全部飛んじゃった! 花と影がおじさんをいじめてる!」
リリアナがお腹をかかえながら笑い、ランディスも手を叩きながら笑っている。あちしは静かにボールを弾ませながら、淡々とつぶやいた。
「……今日は、庭が少し元気ですね。」
ヴィルヘルムは半裸のまま、影に足を引っ張られ、花に顔を埋められながら、門の方へ全力で逃げ出した。
「この屋敷は呪われてる! 絶対に呪われてるぅぅぅ!!」
門をくぐる瞬間、最後に影が大きく伸びて彼の尻を押し出し、ヴィルヘルムは転がりながら外へ投げ出された。
彼は立ち上がるのも忘れて、悲鳴を上げながら馬車に飛び乗り、二度と振り返らずに去っていった。
「もう来ない……!絶対に来ないからぁぁぁ!!」
馬車の音が完全に聞こえなくなったあと、庭には子どもたちの笑い声だけが残っていた。
「あははっ!おじさん、また逃げた!」
「裸で逃げるおじさん、めちゃくちゃおもしろかった!」
リリアナがあちしの腕に抱きつき、ボールをあちしの手から手に取った。
「ミシェルお姉ちゃん、邪魔な人はいなくなったし、また遊ぼう!」
あちしは子どもたちに優しく微笑んだ。それからしばらく、ヴィルヘルムの姿は完全に途絶えた。屋敷には再び、穏やかな日常が戻ってきた。
朝はハルトと一緒に朝食をとり、昼は子どもたちと庭で遊び、夜は書斎でハルトの隣に座って静かに過ごす。
ハルトの横で、猫又の姿になったあちしの九本の尻尾が時折ふわりと揺れる。
「ミミがいてくれると、本当にほっとするよ。」
ハルトがそう言って頭を撫でてくれるたび、あちしは幸せな気持ちになるのだった。
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