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私の猫はバレてません!〜猫又であることを隠して、ご主人さまと子育てしますニャ!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第27話 敵に気付かれたかも知れないニャ?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その日の夜、とある貴族の古い屋敷で、ヴィルヘルムは冷たい空気の中に座っていた。

 向かいのソファには、中年の貴族らしき人物が深く腰を下ろし、その傍らにはルナが優雅にワインを傾げている。

「……それで、進捗の報告は?」


 貴族の低い声に、ヴィルヘルムは額の汗を拭いながら答えた。

「は、はい……グランディック伯爵家の件ですが。屋敷が……呪われているようです。ボールが勝手に生き物のように動き回り、俺を追いかけてきたんです。ミシェルを落とすのは、もう諦めさせていただきたいと……。」


ルナがグラスを置き、小さく笑った。

「勝手にボールが生き物のように動いた……ねえ。」

 彼女の赤い瞳が細められる。何かを察している様子だった。


 貴族はルナの様子を伺いながら、強く言い放った。

「諦めなど許さん。何度でも行け。ミシェルを落とせ。グランディック伯爵家を手に入れるんだ。それができなければ、お前の存在価値はないぞ。」


「で、でも……!」

「行けと言っている!」


 ヴィルヘルムは追い立てら、転げるように屋敷を飛び出した。ヴィルヘルムのいなくなった部屋の中で、ルナが頬に手を添えながら、低く呟いた。

「……猫又、かしらね。」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 数日後の午後。

 グランディック伯爵家の庭では、あちしとランディス、リリアナがいつものようにボール遊びをしていた。

 そこに、またもやヴィルヘルムが現れた。


 今回は珍しく、花束も指輪も持たず、ただ疲れた顔で門をくぐってくる。ランディスが真っ先に気づいて、大きな声で言った。

「あ!おじさんだ!二度と来ないって言ってたのに!」


 リリアナも手を叩いて笑う。

「ほんとだね!来ないって言ってたのにまた来たの?おじさん、忘れっぽいね!」


 二人はあははと笑いながら、ヴィルヘルムを指差す。

 ヴィルヘルムは顔を引きつらせながらも、無理やり笑顔を作った。


「こ、これは……みっともないところを見せてしまったから、まずは謝罪をと思って来たんだ。ミシェルさん、少し話を……。」

 あちしはボールを抱えたまま、無表情でヴィルヘルムを見た。


「いりません。謝罪もプレゼントも結構です。もう来ないでください。」

「待ってくれ!俺は本気で……。」


 ヴィルヘルムが一歩近づいた瞬間、ヴィルヘルムの足元の影が不自然に伸びた。くねくねと、まるで黒い蛇のようにうねり、ヴィルヘルムの足首に絡みつく。

「なっ……!?」


 影がぐいっと引っ張ると、ヴィルヘルムはバランスを崩して転びそうになる。 その隙に、庭の花々が一斉に揺れ始めた。

 大輪の花がヴィルヘルムの顔に張り付き、チューリップが彼の鼻をくすぐり、スミレが彼の耳の中に飛び込もうとする。


「ふがっ!が……花が俺を……!?」

 ヴィルヘルムが花を払いのけようともがく中、ランディスとリリアナはもう大はしゃぎだった。


「あははっ!影がおじさんを引っ張ってる!」

「花がおじさんを攻撃してるよ!バラさん、がんばれー!」


 リリアナが飛び跳ねながら応援し、ランディスは腹を抱えて笑い転げる。

 ヴィルヘルムがなんとか影を振りほどき、花を払って立ち上がった瞬間、次は彼の服のボタンが、次々と弾け飛んだ。


 ぱちん!

 ぱちん!

 ぱちん!


 上着のボタンがすべて飛び、シャツのボタンも一気に外れ、胸元が大きく開いたかと思うと、ズボンのボタンも外れて、ずるっと足元にズボンがすべりおち、一気に半裸状態になる。


「ひゃあああっ!?な、何だこれは!服が……服が勝手に……!!」

 ヴィルヘルムが慌てて胸を押さえようとするが、影がまた伸びてきて彼の両腕を縛るように絡みつく。花々も再び襲い掛かり、彼の顔や首にまとわりつく。


「やめてくれぇぇぇ!誰か助けてくれぇぇぇ!!」

 子どもたちはもう笑いが止まらない。


「あはははは!おじさん、はだかんぼだよ!恥ずかしいー!」

「ボタンが全部飛んじゃった! 花と影がおじさんをいじめてる!」


 リリアナがお腹をかかえながら笑い、ランディスも手を叩きながら笑っている。あちしは静かにボールを弾ませながら、淡々とつぶやいた。

「……今日は、庭が少し元気ですね。」


 ヴィルヘルムは半裸のまま、影に足を引っ張られ、花に顔を埋められながら、門の方へ全力で逃げ出した。


「この屋敷は呪われてる! 絶対に呪われてるぅぅぅ!!」

 門をくぐる瞬間、最後に影が大きく伸びて彼の尻を押し出し、ヴィルヘルムは転がりながら外へ投げ出された。


 彼は立ち上がるのも忘れて、悲鳴を上げながら馬車に飛び乗り、二度と振り返らずに去っていった。


「もう来ない……!絶対に来ないからぁぁぁ!!」


 馬車の音が完全に聞こえなくなったあと、庭には子どもたちの笑い声だけが残っていた。


「あははっ!おじさん、また逃げた!」

「裸で逃げるおじさん、めちゃくちゃおもしろかった!」


 リリアナがあちしの腕に抱きつき、ボールをあちしの手から手に取った。

「ミシェルお姉ちゃん、邪魔な人はいなくなったし、また遊ぼう!」


 あちしは子どもたちに優しく微笑んだ。それからしばらく、ヴィルヘルムの姿は完全に途絶えた。屋敷には再び、穏やかな日常が戻ってきた。


 朝はハルトと一緒に朝食をとり、昼は子どもたちと庭で遊び、夜は書斎でハルトの隣に座って静かに過ごす。

 ハルトの横で、猫又の姿になったあちしの九本の尻尾が時折ふわりと揺れる。


「ミミがいてくれると、本当にほっとするよ。」

 ハルトがそう言って頭を撫でてくれるたび、あちしは幸せな気持ちになるのだった。






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