第25話 ヴィルヘルムがまた来たニャ
あちしはミミ。ご主人さま(ハルトって呼んで欲しいと言われたけど、どうしてもご主人さまって呼んじゃうニャ!)に本当の姿をバレて、子どもたちにも「猫又はかわいい!」って受け入れてもらってから、もう三日目ニャ。
朝ごはんのあと、人目をさけた庭で、ランディスとリリアナがあちしの尻尾を交互に触りながら「ふわふわしてる!」「もっと触っていい?」ってはしゃいでるのを、ハルトが少し離れたところから、読んでいた本から顔をあげて、微笑みながら見守っている。
「ミミ、昨日はよく眠れたか?」
メイドたちがいない時は、ハルトはあちしをミミって呼ぶようになったニャ。
「うん! 子どもたちに挟まれて、あったかくて……幸せニャ……です。」
あちしが照れて耳をぴくぴくさせると、ハルトがくすっと笑った。
最近、ハルトはあちしを見る目が明らかに優しくて、距離もちょっとずつ近くなってる気がするニャ。
夜に書斎で仕事してる時も、「ミミ、隣に座っててくれないか」と誘ってくれるようになった。
あちしが人間の姿で隣に座ってると、猫又の姿でいて欲しいと頼まれる。そしてハルトが時々書類から目を上げて、あちしの耳をそっと撫でてくる。
「……やっぱり、ミミの耳は触り心地がいいな。」
「ハルトったら……くすぐったいニャ……!」
そんな風に、ちょっとずつ、ちょっとずつ、二人きりの時間が増えてるのニャ。
嬉しいニャ。ご主人さまが本当のあちしを怖がらないで、むしろ好きでいてくれるみたいで、胸の奥がじんわり温かくなるニャ。
その日の午後、またもやヴィルヘルムがグランディック伯爵家にやって来た。今度は高級なチョコレートの詰め合わせと、大きな花束を両手に抱えている。高級な宝石のネックレスも手にしているようだ。どうやら前回の失敗を「プレゼントが足りなかったからだ」と勝手に解釈したらしい。
いつものようにニヤニヤした笑顔で、人目につくので人間の姿で、庭で子どもたちと遊んでいたあちしの前に立った。
「ミシェルさん。今日はぜひ、お話ししたいことがあってね。」
あちしは内心でため息をついた。
『またかニャ……この人、しつこいニャ。』
「ハルトは書斎にいますよ?」
「いや、君にだよ。君と二人きりで話したいんだ。」
ヴィルヘルムが声を低くして、急に真剣な顔になった。
「ミシェルさん、今日は特別に君の為に選んだプレゼントだよ。どうだい?この花の色、君の銀色の髪にすごく似合うと思わないか?それに特別に取り寄せたチョコレートもあるんだ。女性に大人気なんだよ。」
あちしはボールを持ったまま、首を傾げた。
「チョコレート……苦手……です。」
猫がチョコレートを食べたら死ぬニャ。それは知ってるのニャ。
「ははっ、遠慮しなくていいさ。君みたいな純粋な女性は、こういうロマンチックなものが好きだろ?」
チョコレートと花束の組み合わせに、宝石のネックレスが加わると、人間にとってはロマンチックニャ?あちしにはよくわからないけど。
ヴィルヘルムが自信たっぷりに花束を差し出してくる。
あちしは花束の先を、手で軽く払った。ぱさっ。花が少し傾いた。
「え……?」
「ランディスとリリアナとボール遊びしてる最中です。そんなのもらっても、邪魔になるだけです。」
ランディスとリリアナが「あははっ!」と笑う中、ヴィルヘルムは一瞬固まったが、すぐに笑顔を取り繕った。
「じゃあ、チョコレートはどうかね?」
「ランディスとリリアナの為にいただきます。」
「わあ!ミシェルお姉ちゃん、ありがとう!」
「えっ。ちょ、ちょっと!それはお前たちのものじゃ!」
あちしがチョコレートを受け取り、リリアナに差し出すと、リリアナがチョコレートを受け取って、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、それを見て慌てるヴィルヘルム。
「チョコレートは子どものほうが好きですから。」
「そ、そうか!子どもと遊んでる姿も素敵だね。君は本当に母性があるな。君はまだ世間知らずだから、こういう高価なものの価値がわからないんだろう?でも大丈夫。俺がちゃんと教えてあげるよ。君が僕の妻になってくれれば、この伯爵家も……いや、もっと大きな未来が待ってるんだ。」
「邪魔です。今、子どもと遊んでいます。」
「子どもと遊んでる場合じゃないだろ!俺は本気で君を……。」
ヴィルヘルムが苛立たしげに声を荒げた瞬間、あちしのスカートの裾が不自然にふわりと動いた。次の瞬間——ヴィルヘルムの足元に転がっていたボールが、勝手に跳ね上がって彼の額に直撃した。ぱこっ!
「うぐっ!?」
ヴィルヘルムが後ずさりする。あちしは無表情のまま、ボールを拾い直した。
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