第23話 正体をばらすニャ!
目が点になり、口が半分開いたまま、言葉を失っている。ミミもギクリと肩を震わせたが、ハルトの反応はそれ以上だった。
ハルトはゆっくりと視線をミミに移し、目を見開いたまま固まっていた。
「寝てた時に、触れたのかい?」
ハルトがようやく声を絞り出すように聞き返す。その声は明らかに動揺で震えていた。
「うん……ミシェルお姉ちゃん、すごく気持ちよさそうに寝てて……耳がふわふわしてて、尻尾も何本か出てて……。」
リリアナが正直に答えると、ハルトは自分のこめかみを強く押さえた。息を大きく吐き、目を何度か瞬かせてから、再びミミを見つめる。
「ミシェルお姉ちゃんは、それが本当の姿じゃじゃないんじゃない?……本当の姿、見せて欲しいなって。」
ランディスが真っ直ぐにミミを見つめた。ミミはハルトの驚いた顔を見て、一瞬迷った。けれど、ハルトはすでに自分の正体に気づいている。昨夜の優しい言葉を思い出し、ミミは小さく頷いた。
「……びっくりしないで欲しいのニャ。本当は、あちし、ただの人間じゃないの。」
淡い光がミミの体を包む。銀色の長い髪の間から、ふわりと柔らかい猫耳が姿を現した。腰の後ろでは、九本のふわふわとした尻尾がゆっくりと広がっていく。ハルトの目が、さらに大きく見開かれた。
「……っ!!」
改めてその姿を見たハルトは息を大きく呑み、椅子に深くもたれかかるようにしてミミを見つめていた。喉をゴクリと鳴らし、目が細くなるほどに驚きを露わにしている。口が開いたまま閉じず、しばらく言葉が出てこなかった。子供たちは最初、息を飲んで固まった。
「……わぁ……。」
ミミはみんなの反応が怖くてうつむいていた。
「あちし……本当は猫又なのニャ。」
しかし、リリアナがすぐに顔を輝かせた。
「かわいい……!お姉ちゃんが猫又はでも、リリアナはいいよ!もっとふわふわなお耳としっぽ、触りたい!」
そう言って、ミミに抱き着いてくるリリアナ。
「猫又って何?」
ランディスが不思議そうに尋ねる。
「猫が長生きすると、猫又になるのニャ……その中でもあちしは、何千年と生きてるから、しっぽが九つもあるニャ。」
「しっぽ、さわってもいい?」
「いいニャよ?」
ランディスは尻尾をそっと触りながら、小さく呟いた。
「……本当に、九本あるんだ。」
ミミが震える声で続けた。
「あちしの本当の姿は……こんな感じなの。」
「本当は、君が人間じゃないってことは、うすうす気付いていたんだ。」
「そうだったのニャ!?」
ハルトの言葉に驚くミミ。
「じゃああちしがミミだってことも気付いていたニャ!?」
「ミミ……?まさか、昔僕が助けて、お父さまに許してもらえなくて飼うことが出来なかったから、怪我の手当だけして外にはなしたら、庭にいついていた、あの猫のミミが、ミシェルだったのか?」
そのとき──ハルトの視線が、ミミの猫耳と九本の尻尾に釘付けになった。彼の瞳に、遠い記憶が蘇る。
小さな頃の記憶が、鮮やかに蘇ってきた。まだ十歳にも満たない少年だったハルトは、領地の森を一人で歩いていた。あの頃はまだ父親が厳しく、自由に外を出歩くことも少なかったが、たまにこっそり抜け出しては、静かな森の中を散策するのが好きだった。その日も、いつものように木々の間を歩いていると、ふと足元の草むらの中に、何かが隠れているのが見えた。
「……ん?」
領地の森の茂みの奥で、何かが小さく動いている。近づいてみると、銀色の毛並みの猫だった。傷が深く、息も弱々しい。しかもしっぽが九本もある。ハルトは一瞬、怯んだ。
しかし、次の瞬間には体が勝手に動いていた。
ハルトが見つけたときには、もうほとんど動けなくなっていた。それでも、優しく撫でてやると、弱々しく喉を鳴らして寄り添ってきた。
こっそり自分の部屋に連れ帰り、ミルクを指に付けて与え、怪我の手当てをした日々。父親にバレないように隠しながら、必死に看病した。
「……大丈夫か?」
ハルトは膝をつき、そっと手を伸ばした。猫は警戒したように体を縮めたが、力が入らないのか、ただ弱々しくこちらを見上げるだけだった。その瞳は、痛みと諦めで曇っていた。ハルトは自分の上着を脱ぎ、猫を優しく包み込んだ。
体が小さいながらも、必死に猫を抱き上げると、こっそりと屋敷に連れ帰った。自分の部屋に忍び込み、ベッドの下に持ち手のある加護に古い服をしきつめてベッドにし、隠すようにして猫を寝かせた。
父親に絶対にバレてはいけない。動物を飼うことを固く禁じられていたからだ。それからしばらくの間、ハルトは必死だった。怪我の治療は、屋敷の薬箱からこっそり持ってきた軟膏を塗った。
ご飯は、台所からミルクを盗み出して、自分の指に付けて与えた。
「ほら……飲めるか?」
最初はほとんど飲めなかった猫が、少しずつ指に付いたミルクをちゅうちゅうと舐め始めるようになったとき、ハルトは胸が熱くなった。
「よし……頑張れ。」
夜になると、猫が小さく震えているのが気になって、自分の毛布を重ねてやった。気が付けば九本あった筈のしっぽは一本になっていた。
朝になると、そっと様子を見ては「今日も生きてる」と胸を撫で下ろした。
ずっと猫と呼ぶのもなんなので、名前をつけようかと考えた。
「……名前、なんにしようかな。」
ハルトは猫の頭をそっと撫でながら、考えた。猫が、ミィ、と鳴いて甘えて来る。
「ミミ、なんてどうかな?なんか、君にぴったりな気がする。」
猫は弱々しく目を細めて、ハルトの手に頰をすり寄せてきた。その仕草があまりにも素直だったから、ハルトは思わず笑ってしまった。
「気に入ったかい?なら君の名前は今日からミミ、だよ。」
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