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私の猫はバレてません!〜猫又であることを隠して、ご主人さまと子育てしますニャ!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第15話 リリアナとクッキーを作るニャ!

 午後の陽射しが柔らかく庭を照らしていた。ランディスがボールを追いかけ、リリアナが花壇の端で小さな花を摘んでいる。その光景を見守っていたあちしは、ふとリリアナがこちらに走ってくるのに気づいた。


「ミシェルお姉ちゃん!」

 リリアナの小さな手が、あちしのスカートの裾をぎゅっと掴む。リリアナは目を輝かせてあちしを見上げてきた。


「これあげる!」

「ありがとう。とってもきれいだニャ……ね。」

 嬉しそうなリリアナに、あちしも嬉しくなる。


「あのね……ミシェルお姉ちゃんに、お願いがあるの。」

 後ろで手を組んで、リリアナがもじもじしながら、何かを言い出し辛そうに、というか、恥ずかしそうにしている。


「お母さまとね……一緒にクッキーを作る約束をしたの。でも、お母さまと一緒には出来ないから、ミシェルお姉ちゃんと一緒に作りたいなって。」

 ようやく意を決したように、リリアナがそう口にした。


 ランディスとリリアナのお母さんは、ご主人さまの妹さんと一緒に、2年前に事故で亡くなってしまった。

 その事故自体、疑わしい点があることは、この間教会の死体安置所で知ったばかりだ。


 ご主人さまのお父さんの体も、心臓を抜き取られて、その抜き取り方が異常だからと、調べるとか浄化するとかで、まだ返してもらえていない。


 そしてそのお父さんと同じように、妹さんの体からも心臓が抜き取られていた……らしい。二人のお母さんは、ご主人さまの妹さんと一緒に事故にあったそうだから、妹さんの死に巻き込まれたのだと思う。


 だけど、死んでしまったことにかわりはないから、一緒にクッキーを作る約束を、リリアナのお母さんは果たすことが出来ない。

 ……でも、あちしもクッキーの作り方はわからないから、一緒に作ってあげることは出来ないニャ。


 あちしは一瞬、言葉を失った。あちしはこの家で、ずっとグランディック伯爵家の家族たちを見守って来た。


 お母さんが亡くなってから、リリアナはずっとぐずるようになったニャ。

 ご主人さまが一緒にいないと駄目で。メイドたちをいつも困らせていた。


 それはきっと、さびしかったから。お母さんのかわりは、家族にしか……ご主人さまにしかできなかったのニャ。


 だけど最近、とてもよく笑うようになった。だからそれを正直に言って、リリアナの無邪気な、眩しすぎる笑顔が曇ってしまわないか、胸の奥がざわつく。


「……クッキー、作ったことないニャ……です。だから一緒に作ることは……。」

 指をいたずらに触りながら、正直に答えると、リリアナの顔が少し曇った。すぐ後ろからランディスがボールを抱えて駆け寄ってくる。


 ランディスは少しだけ大人びた顔でフォローした。

「だいじょうぶだよ、ミシェルお姉ちゃん。貴族の女性は、普通厨房には立ち入らないから、お母さまも、実は作ったことなかったんだ。」


「そうニャ──そうなのですか?」

「お母さまは『貴族の女性は厨房に立たないから、料理長さんに教えてもらいながら、みんなで一緒に作ろうね』って約束してくれたんです。……でも、約束、果たせなかった。」


 ランディスの声が、少しだけ寂しげに沈む。

「だから、料理長に教わりながら、ミシェルお姉ちゃんが一緒に作ってくれたら、リリアナもとっても喜ぶと思うよ?」


 あちしが、代わりに……できることなら……頑張ってみるニャ!

「それなら……作ろうか。一緒に。料理長さんに教えてもらえば、きっと私にもできると思うから。」


「本当!?やったー!」

 リリアナがぴょんと飛び跳ねて、あちしにぎゅっと抱きついてくる。

 ランディスも「僕も手伝う!」と意気込んで、あちしを厨房の方へ引っ張ろうと足を向けていた。


 料理なんてまったくしたことないけど……たぶん大丈夫ニャ……よね?

 グランディック伯爵家の厨房は、広い石造りの部屋だった。大きなかまどがいくつもあり、料理人たちが忙しそうに動き回っている。


 あちしたちが入ると、料理長が驚いた顔で迎えた。

「お嬢さま……?どうなさったのですか?」


「お母さまとクッキーを一緒に作る約束だったのを、ミシェルお姉ちゃんが一緒にやってくれるの!だから、作り方を教えて?料理長!」

 料理長がランディスを見ると、ランディスがこっくりうなずいた。


 料理長は少し涙ぐんだ顔で笑顔になり、うんうんとうなずいた。

「もちろんでございますよ。お教えいたします。美味しいクッキーを作って、だんなさまを驚かせましょうね。」


「料理長……なんでちょっぴり泣いてるニャ?」

 あちしは独り言をつぶやく。

「リリアナは、お母さまが亡くなられてから、ずっと食が細くて。自分から何かを作りたいとか食べたいとか、言い出すのが初めてなんです。」


 それを聞いたランディスが、その理由を教えてくれる。

「料理長はずっとリリアナを心配して、いろんな料理を作ってくれたけど、リリアナはあまり食べられなくて……だからうれしいんだと思います。」


「そうだったんですね……。」

 だったら頑張らないとニャ!

「よろしくお願いします!」

 あちしは料理長に頭を下げる。



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