第14話 怪しい美女ニャ!
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その頃、とある貴族の古い屋敷では、別の会話が交わされていた。中年の貴族らしき男が、傍らに赤い瞳に黒髪のロングヘアーを優雅に揺らした美女をはべらせ、ソファーに深く腰掛けていた。
ヴィルヘルムは向かいのソファに座り、落ち着きなく指を絡めていたが、それでも女のあまりの美しい顔と体に、目線を向けずにはいられない。
アマンダを選んだのだって、この女に似ていたからだ。この女のあまりに美しい黒髪に、魅了されてしまったから。
だから、アマンダにも髪の毛を伸ばすように言っているのだが、女のカンで別の女のイメージを押し付けようとしていることがさとられているのか、アマンダはかたくなに髪を伸ばそうとはしなかった。
それでもこの女を思わせる、黒髪にきつい目つきのスタイルのいい美女だけに、ヴィルヘルムとしてはアマンダを気に入っているのだった。
「で、グランディック伯爵家をどうにかする件は、どうなっている?」
男の声は低く、苛立っているのがわかった。
「え、ええ……何度か手を打ったんですが……どうも上手くいかなくて。毒を入れたワインも、なぜか猫に邪魔されて……それに、崖からの岩も、どういうわけだか化け物に跳ね返されて……。」
ヴィルヘルムが汗を拭きながら言い訳する。化け物が岩を跳ね返してきたなど、ヴィルヘルム自身、信じているわけではないが、こうしてこの人物を目の前にすると、そう言い訳する他ないと感じる。
男の傍らに寄り添っていた美女が小さく鼻で笑った。赤い瞳が細められる。
「言い訳は結構。この方はただ、奴らに死んで欲しいだけなのよ。それはあなたの望みと同じでしょう?グランディック伯爵家がお前のものになるのだから、さっさとどうにかしなさい。」
美女が冷たく言い放つと、ヴィルヘルムはビクッと肩を震わせた。
「は、はい……わかりました。次は必ず……。」
ヴィルヘルムが恐る恐る部屋を出て行くと、男は大きく息を吐いた。すると、急に態度を変えて、傍らの美女に深々と頭を下げる。
「申し訳ありませんでした、ルナ様……。」
美女——ルナは、男が差し出した高級ワインのグラスを優雅に受け取った。赤い瞳で男を眺めながら、ゆっくりとワインを口に運ぶ。
「国王を騙した時のほうが、よっぽど簡単だったわね。あれは美しくて、権力もあって、欲も深かったから……少し甘い言葉を囁いてやれば、すぐに戦争を起こしてくれた。兵士たちの心臓を、戦いの混乱に紛れて奪うのも楽だったわ。」
ルナがグラスを置いて、ため息をつく。
「でも今は違う。権力も金も持っていない、ただの男を操ろうと思うと、働きが悪くて困るわ。ヴィルヘルムみたいな男は、脅せば動くけど、肝心の実行力が足りないのよね。」
男は恐縮した様子で頭を下げ続けた。
「申し訳ありません……ですが、ルナ様の計画通り、グランディック家の一族の心臓さえ手に入れば……。」
「ええ、わかっているわ。聖女の血を引く家系……一つの心臓で、二千人分の価値があるのよ。父親と妹の分で、もうだいぶ取り戻せた。あと三人……ハルトと、その子どもたちさえ手に入れば、私は完全体に戻れる。」
ルナが赤い瞳を細めて、窓の外を眺めた。
「でも……ヴィルヘルムが言っていた、猫と化け物のことも、気になる存在ね。グランディック伯爵家を守る存在なんていたかしら?」
「特に伝承上は存在していないようですが。」
「……この土地にも、猫又はいるわ。都合よくワインを駄目にした猫というのが気になるわ。少し調べてみてちょうだい。」
「かしこまりました。猫又が見方をしている可能性を含め、調べてまいります。」
男はお辞儀をして、部屋の外へと出て行く。
「この土地の猫又……ねえ。この私に、勝てると思っているのかしら?猫又の頂点に立つ、この私に。それが猫又なら、そいつから殺してやろうかしら……いいえ、むしろ、猫又であるのなら、利用できるかもしれない。」
ルナがグラスを傾けながら、冷たい笑みを浮かべた。
「グランディック伯爵家の心臓をすべて手に入れて、私は伝説ではなく、本当の九本の尻尾を持つ猫又になる。そうすれば、九尾の狐にだって負けやしないわ。伝説の主は狐から、猫に正しく書き換えられるのよ。」
ルナは猫又の姿に変毛した。黒く美しい毛を持ち、赤い目をした猫又の姿。しっぽで机の上に置かれたナイフを掴むと、ヒュッと壁に向かって放り投げる。
するとそれは、壁に飾られた大陸の地図にきれいに刺さった。ルナが今いるこの国を現す場所に、ナイフがささっていた。
「──まずはこの国から手に入れるわ。今度は失敗しない。その為に、グランディック伯爵家の心臓を必ず手に入れなくてはね。」
ルナは楽し気にしっぽをゆらゆらと揺らしていた。
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