第13話 お葬式がおこなえないニャ?
「お坊ちゃま……旦那さまの葬式は、いつになったらとりおこなえそうでしょうか?」
朝食を終えて、庭でランディスたちと遊んでいると、家令と呼ばれるグランディック伯爵家の一切合切を取り仕切っている、一番偉い人が、ご主人さまに話しかけている声が漏れ聞こえて来る。
「それが……まだお父さまの死亡届を教会からもらえていないんだ。どうも検分に時間がかかっているとかなんとかで……教会から死亡届をもらえないと、葬式を出すことが出来ないからね。」
ご主人さまの父親は、少し前に事故にあって亡くなっているらしい。にもかかわらず、なんでだかお葬式が出せないらしい。
人間はお葬式というものをして、亡くなった身内や知り合いをいたむものらしい。死んだ姿を絶対誰かに見られたくない猫からすると、まったく理解できない話ニャ。
「父は僕に家督を譲る前に亡くなったからね。伯爵が事故で亡くなったともなると、そこに問題がなかったか、しっかり調べる必要があるのは、理解できるよ。」
「ですが、このまま死亡届をいただけませんと、先代さまの葬式が行えません。そうなりますと、いつまでもお坊ちゃまがグランディック伯爵家の家督を継げないことにもなります……。」
ことは葬式だけの問題ではないらしい。先代グランディック伯爵である、ご主人さまの父親の死亡届というものを用意して、それで初めてお葬式が行える。
そうしてようやく、ご主人さまがグランディック伯爵家を継ぐことが出来る、という仕組みらしい。貴族って面倒ニャね。
でも、ヴィルヘルムは、グランディック伯爵家を乗っ取ろうとしてる筈ニャ。
お葬式が行えないとグランディック伯爵家を継ぐことが出来ないなら、あいつも今頃困ってる筈ニャね。
……ああ、そうか。
さっきご主人さまが言ってたニャ。
ご主人さまがグランディック伯爵家を継いだあとで、ご主人さまが亡くなったら、また家督を継ぐ手続きが新たに発生する。
伯爵が死ぬと、しっかりその死体を調べる必要が出て来る。
おそらく伯爵の地位を奪う為に、事故を装った可能性もあるんじゃないかと、思われるということニャ。
でも、ご主人さまがグランディック伯爵家を継ぐ前なら、伯爵になってから死ぬより、その調査は簡単なものになるということニャ。
だからあいつは焦ってるのニャ。
ご主人さまの父親の死亡届がもらえて、葬式を行って、ご主人さまが伯爵になってしまった後だと、その死を偽装することがより難しくなるからニャ。
なるほど納得ニャ。
「……遅くなればなるほど、体が傷んでしまう。少しでもきれいな姿で、子どもたちにも最後のお別れをさせてあげたいのに……困ったものだよ。」
死んで放置された生き物は、たくさん見たことがあるけど、確かにあれは正直ランディスたちには見せたくないニャ。
なんとか時間がかかってる原因が調べられないかニャ?
あちしは屋敷を出て、ご主人さまの父親の遺体が安置されているという、教会へと向かった。
教会の死体安置所は、領地の端にある古い石造りの建物の地下にあった。教会がその上に建っていて、地下のほうが涼しいから、遺体がいたみにくいんだろう。
あちしは猫の姿になって、素早く教会に潜り込んだ。遺体安置所を覗き込む。スッと中に入り込んで、太い柱の陰にその身を隠して、様子をうかがった。
教会の祭司の男性が二人、棺桶を前にして低い声で話していた。
棺桶はそのひとつしかなかったから、おそらくあれがご主人さまの父親のものかも知れないニャ。
「……本当に不自然だ。体は馬車ごと崖から落ちたように潰れているのに、心臓だけが事前に抉り取らたかのように、綺麗にぽっかりと穴があいている。まるで……悪魔のいけにえ儀式に使われた後のようだ。」
教会の祭司は、なんだか穏やかじゃない話をしていた。
「恐ろしいことを言うな。だが……確かに、痕跡が不自然すぎる。二年前のあの令嬢の時も同じだった。グランディック伯爵家の令嬢の体も、心臓だけが抜かれていたと聞いている。」
グランディック伯爵家の令嬢……ご主人さまの妹さんの話ニャ?
「令嬢の体だけひどく損傷していたから、あの時は気付かなかったが、今思えば、一緒に馬車に乗っていた伯爵令息の妻の体には、心臓が残っていたのに、令嬢の体には心臓がなかった……グランディック伯爵と同じだ。」
ニャ!?
ご主人さまの妹さんと、お父さんの体から……心臓が、抜かれてる?
ど、どういうことニャ!?
「グランディック伯爵家は、過去に聖女を輩出した血筋だという話もある。聖女の血を引く家系は、元々魔力や生命力が強いとされている。悪魔のいけにえとしては……最適だろうな。まさか、それが原因で……?」
あちしは死体安置所の柱の影で、思わず息を飲んだ。聖女の血筋……?
ご主人さまの家が、そんな特別な血筋だったなんて、知らなかったニャ。
「ご主人さまの家族の心臓を抜いて……いけにえに使った……?」
あちしはそっと魔法を唱え、棺桶の中に薄い光をすべりこませた。魔力の残滓を読み取る魔法だ。
ご主人さまの父親の体は確かに潰れていて、骨も折れている。でも、心臓があったはずの場所だけが、まるで最初から綺麗に抉り取られたように、まるい穴が空いていた。
心臓の周囲には骨がある。それに邪魔されずに、心臓だけをすっぽりとくり抜いたかのような穴のあきかた。
まるで、体が潰される前に、心臓だけを丁寧に取り出されたかのようだ。それに不思議なことに、心臓が抜かれたあとに、血がほとんど出ていない。
そんなことは、刃物なんかじゃ出来ない。魔法を使わなければ、やることが出来ない。そして確かにそこには、魔法を使われた痕跡が残っていた。
「……なんてことニャ……。」
あちしは思わず小さく声を漏らした。
これは、ただの事故じゃない。誰かが意図的に、ご主人さまの家族の心臓を狙って殺したんだ。しかも、妹さんも同じだったという。
あちしは急いで安置所を離れ、屋敷に戻ることにした。心臓を狙うなんて……そんな恐ろしいことが、グランディック伯爵家に起きているなんて。
ご主人さまに、なんて説明したらいいニャ……。
こんなこと、言えないニャ……。
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