第12話 ご主人さまが探しに来てくれたニャ
九尾の狐たちから、猫又が嫌われているのだけど、それはその猫又がやったことが原因なのニャ。
その頃はまだ、あちしにも友だちがいたから、怖い猫又もいたものだと思ったものニャ。
……まさか自分がここのつのしっぽを持つことになるとも知らずに。
だからあちしは、すべての猫又から嫌われているのニャ。
普通の猫又は魔法なんて使えない。九尾の狐よりも当然弱い。九尾の狐に狙われたらたちうちが出来ない。だけどそのたった一匹の猫又のせいで、永遠に九尾の狐たちから恨まれていて、堂々と暮らすことが出来ないのニャ。
みんなはそれが、あちしのせいだと思っているのニャ。
本当は二股しっぽの猫又のせいなのに。
あちしは何にもしていないのに。
「今すぐこの場から出ていけ!お前に九尾の狐と同じ力があろうとも、我ら全員でお前を殺しにかかれば、その喉笛くらい食いちぎれよう!」
「出ていけ!」
「出ていけ!」
「出ていけ!」
「にゃああああ!」
猫又たちの怒声と敵意に満ちた視線に追い立てられるように、あちしは泣きながら洞窟から走り去った。
洞窟を出た瞬間、あちしは人間の姿に戻った。猫又の姿のままじゃ、もしランディスたちに見つかったら、きっと同じように怖がられて、嫌われてしまうと思ったからだ。
でも、すぐにランディスたちの元へ戻ることはできなかった。涙があふれて止まらなかったから。
「ううっ……にゃあ……」
あちしは森の木の根元にしゃがみ込み、両手で顔を覆い、肩を震わせながら泣き続けた。
あちしはみんなの嫌われ者。
嫌われ者のここのつしっぽの猫又。
それはじゅうぶんわかっていたのに。改めて言われると、悲しくてたまらなかった。
ランディスたちが探しに来ているから、早く涙を止めて出て行かないといけないのに。どうしても涙が止まらなかった。
「……見ぃつけた。」
ガサッと音がしたかと思うと、重なり合った背の低い木の間から、ご主人さまが笑顔で姿を現した。
「ハルト……?」
「ランディスたちが、ミシェルお姉ちゃんがどうしても見つけられないって言うから、馬車に戻ってもらって、僕がミシェルを探しに来たんだよ。」
ここまで森の奥深いところだと、子どもたちだけで行かせるのは危険だからね、とご主人さまはあちしの顔を見て、すぐに表情を柔らかくしながら言った。
「……どうしたの?泣いていたの?こんな森の奥深いところで、ひとりぼっちだったから、怖くなっちゃったかな?」
ご主人さまの言葉に、出会った頃のことを思い出す。過去の記憶が一気によみがえる。
あちしは九尾の狐に襲われた。ボロボロになって。血だらけになって。あとは死ぬのを待つばかりだった。
人間の薬はとても優秀で、それだったら、もしくはお医者さんというのにかかれば、治してもらえただろうけど。
人間の姿に変化して、薬をもらいに行くことも、お医者さんにかかりにいくことも出来ないくらい、あちしは衰弱して、ただ森の奥で小さく縮こまっていた。
夢うつつの中で、子猫の時のお母さんのおっぱいを吸う夢を見ていた。喉が乾いて。とても乾いて。気付けば何かをちゅうちゅうと吸っていた。
「ふふふ、くすぐったいよ。」
薄目を開けると、ぼやけた視界の向こうで、指先にミルクをつけた小さな人間の男の子が、あちしに指先を差し出していた。
あちしはそれを一生懸命吸っていたらしい。
「自力で飲む力がなさそうだから、指につけたのをなめるといいよ。ほら、まだたくさんミルクはあるからね。」
そう言って、あちしが指先のミルクをなめつくすと、また指先にミルクをつけて、指先を差し出してくれる。
「うちからポーションを持って来たから、怪我はもうだいじょうぶだと思うけど、ポーションは失った血までは戻せないんだ。だから回復するまで、僕が面倒を見てあげるよ。」
ご主人さまは、ある程度まんぷくになったあちしを抱っこして、自分の部屋まで運んでくれた。
「九本もしっぽのある猫なんて初めてだな。お父さまはペットを飼うことを禁じられているから、見つからないように気をつけなきゃ駄目だよ?そもそも、しっぽがたくさんあるのを見たら、おどろいちゃうかも知れないからね。」
そう言って、籠に敷いたクッションの上にあちしを寝かせてくれて、優しい手で撫でてくれた。とってもあったかかった。あの時の手のぬくもりは、今でも鮮明に覚えている。
ここのつのしっぽになって。
ひとりぼっちになって。
初めて誰かに優しくされた。
あちしはポロポロと涙をこぼした。
「……どうしたの?泣いてるの?あんな森の奥深いところで、ひとりぼっちだったから、怖くなっちゃったかな?」
今のご主人さまの言葉は、あの時と同じ。
ご主人さま……ご主人さま……!!
あちしはボロボロと泣きながら、ご主人さまの腕に飛び込んだ。
『「よしよし、怖かったね、もう、だいじょうぶだよ。僕がいるからね。」』
それに続く言葉も。撫でてくれる優しい手も。あの時と同じ。
ご主人さま。大好きニャ。絶対殺させたりなんてしないニャ。あちしの大切な、たった一人のご主人さまだから。
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