第11話 悲しいかくれんぼニャ
「ランディス、みーつけた!」
「うわっ!ミシェルお姉ちゃん、見つけるの早いよ!」
「リリアナの場所ももうわかってるから、一緒に迎えに行こう。」
「ええ?どうやってわかったの?」
「木の上から探したらバレバレだったよ?」
「えー?ずるいなあ、今度は僕が鬼をやるから、ミシェルお姉ちゃんが隠れてよ!」
「いいよ、でも絶対見つからないよ?」
「そんなことないよ、絶対に見つけるもん!」
ランディスと手をつないで、リリアナが隠れていた茂みの方へ向かった。
リリアナは見つかったことに少し不満そうに唇を尖らせていたけど、「次は私も鬼をやる!」とすぐに乗り気になった。
結局、三人でじゃんけんをして鬼を決めることになり、あちしが負けて、二人の希望通り、あちしだけが隠れる役目をすることになった。
だからあちし一人が隠れたけど、二人ともなかなかあちしを見つけられなくて、森の中で手をつないで、あたりをキョロキョロしていた。
「ふっふっふ。ここならぜーったい見つからないのニャ。」
あちしは一人で呟きながら、森のさらに奥にある洞窟へと足を進めた。洞窟の奥は暗く、子どもは普通は近寄らない場所だ。
光がほとんど差し込まない暗がりの中へ、あちしは静かに体を滑り込ませた。洞窟の奥へ、奥へと進むにつれて、空気がひんやりと湿ってくる。足元には小さな水たまりがあり、時折水滴が落ちる音だけが響いていた。
「こんなところなら、絶対に見つからないニャ……」
あちしは一人、洞窟の奥深くでほくそ笑んだ。
こんな光のささない洞窟の中なんて、普通の生き物は怖がって近付いてこない。だから絶対に見つけられないという寸法だ。
「ミシェルお姉ちゃん、どこー?」
「あっ、ランディスたちの声だ、もう少し奥に隠れておこうっと。」
人間の姿のままでは、これ以上奥の暗がりを見ることは出来ない。猫又の姿に変化すると、あちしは奥へ、奥へと進んだ。
当然真っ暗だったけど、あちしには関係がない。猫はほんの少しの光を増幅して、暗いところで物を見るけど、猫又は空気の流れなんかで物の形がわかるのニャ。
それを視覚として再現できる能力を持っている。だからまったく光がささなくとも、関係ないというわけだ。
その時、空気が動いて、たくさんの大きな猫の形が浮かび上がった。低く、警戒に満ちた声が響いた。
暗闇の中から、二股の尾を持った猫又が二匹、三匹と、次々姿を現した。あちしとは明らかに違う、本来の「猫又」と呼ばれる、普通の二股しっぽの猫又たちだ。仲間たちとテリトリーを築いて生活している猫又たちだ。
「──誰だ?俺たちの縄張りに侵入して来たのは。」
「ここは俺たち猫又の住処。勝手に入って来るとはふてぶてしい。」
あちしは慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「……あちしも猫又ニャ。あんたらの縄張りと知らずに勝手に侵入したことは詫びるニャ。だけど、ちょっとかくれんぼをしていただけなのニャ。少しだけここにいさせて欲しいのニャ。」
猫又たちは一瞬、動きを止めた。
「……猫又?よそ者か?」
一匹がじっとあちしを見つめ、突然大きく目を見開いた。
「待て……こいつ、しっぽがここのつもあるぞ!?」
「まさか……伝説の悪魔付きか!?」
「違うニャ!あちしはそんなんじゃないニャ!ほんのちょっぴり、他の猫又よりも長生きってだけニャ!」
あちしはそう叫んで必死に弁解したけど、猫又たちは明らかに怯えていた。尻尾を膨らませ、後ずさりしながら低い唸り声を上げる。
「千年を生きた狐はここのつの尾を持ち、究極の力を授かると言う。だが猫が二十年を生きて猫又になった時、そこから人間を騙す奴が現れた。」
「狐のふりをして、人間を騙した。人間を騙した狐の尾は二股だったそうじゃないか。」
「二股の尾の狐なんていない。それは猫又だ。」
「そいつはやがてここのつの尾を持ち、人間に封じられてなお周囲に毒を放ち、ありとあらゆる生き物を殺したと言う。」
「……封印が解かれて、この地に現れたのだろう!この悪魔付きめ!」
「違うニャ!違うにゃああああ!」
あちしは泣きながら訴えたけど、猫又たちは頑として聞く耳をもたなかった。
……あちしがひとりぼっちな理由。それはしっぽがここのつだから。
あちしが猫又になった時。最初は二本のしっぽだったニャ。
だけど猫又になったみんなが死んでいっても、あちしは生き続けた。
……ひとつ増え、ふたつ増え。ついにはここのつのしっぽになった。
遠い国の人間の王さまを、美女に化けた猫又がだまして、国が亡ぶ寸前まで追い込んだ話は、あちしも知っている。
それを狐のせいにしたことも。退治されてなお、毒を吐き続ける石に変化して、周囲の生き物を苦しめたことも。
そしてそれはやがて人間の間で本当に狐のせいにされて、二股しっぽの狐ではなく、九尾の狐の仕業だったという伝説になったことも。
だけど猫又はみんな、それが猫又の仕業だと知っていた。だけどそれがそのうち、九尾の狐のふりをしたのではなく、その猫又が最終的にここのつのしっぽを手に入れたという話に、猫又の間でもすり替わっていったのニャ。
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