第10話 悪者は返り討ちニャ!
崖の上で、ならず者たちが立っていたちょうど足元近くに、大岩が重々しく落下した。地面が大きく揺れ、土煙と小石が一気に舞い上がる。岩の破片が四方八方に飛び散り、男たちの足元を叩いた。
「……っ!?」
一瞬、男たちは何が起きたのか理解できなかった。目の前に、さっきまで崖下に向かって落ちていたはずの大岩が、突然自分のすぐ足元に現れていたのだ。
しかも岩の表面には青白い光の残滓がまだ薄く残っており、明らかにただの自然落下ではないことがわかった。
しかも、恐る恐る崖下を覗き込むと、そこには九本のしっぽを揺らす猫又が、ふわりと地面に着地するところだった。
さっきの衝撃音は、あれが大岩をはじき返す音だったのだ。ならず者たちは、崖下の猫又を見て、顔を青ざめた。
「ひ、ひゃあああっ!?化け猫が……!化け猫が岩を蹴っ飛ばして、こっちに落としたぞ!?」
「うわあああああ!!化け物だ!!あれは化け物だ!!」
ならず者たちは一斉に悲鳴を上げ、足元に落ちた大岩をよけるようにして、その場から慌てて後ずさりして逃げ出した。
誰かは転んで尻もちをつき、誰かは崖の反対側へ全力で逃げ出していく。
ヴィルヘルムが少し離れた場所で待機していたところへ、ならず者たちが命からがら駆け込んできた。
「ど、どうした!首尾よくやったのか!?」
「い、いや……化け猫が出てきて……!」
「銀色の化け猫が、岩を蹴っ飛ばしたんです!それが崖の上に落ちてきて……!」
「化け物です、あれは絶対に魔物です!九本も尻尾が生えてて……!」
ヴィルヘルムは一瞬、言葉を失った。
「……はあ?」
次の瞬間、地面を思い切り強く踏みつけて、怒りを爆発させた。
「役立たずめ!!何が化け物だ!このあたりに魔物などいるわけがないだろうが!!こんな簡単なことすらできないのか!もういい、約束の金は払わん!帰れ!」
怒りに任せてならず者たちを罵倒し、約束の金を払うどころか、逆に追い払うように怒鳴り散らした。
ならず者たちが逃げるように去ったあと、ヴィルヘルムは一人で苛立たしげに親指の爪を噛んでいた。
「くそっ……どうしてこう上手くいかないんだ!」
ならず者たちが震えながら報告する様子を、あちしは木の上から眺めていた。あちしはふわふわと尻尾を揺らし、満足げに自分の前脚をぺろりと舐めた。
「……ふんニャ。ちょうどいいところに落ちたニャ。」
崖の上は完全に静かになっていた。あちしはもう大丈夫だと思って馬車に戻り、御者と馬にかけていた眠りの魔法を解いた。御者がハッとして目を覚まし、馬車が止まっていることに気が付き、すぐに馬車を走らせた。
ランディスとリリアナはまだ眠ったまま、ご主人さまも穏やかな寝息を立てていた。あちしは自分の膝の上で小さく丸くなり、九本の尻尾で子供たちを優しく包み込んだ。
「……これで、今日は無事にピクニックできるニャ。大きな力を使ったから、少し人間の姿に戻るのが難しいニャ。みんなにはもう少し寝ててもらうのニャ。」
あちしはみんなと一緒にうとうとしながら、馬車に揺られていた。
「──みんな、ついたよ!起きて起きて!」
花畑に到着した頃、あちしはまだ寝かせたままだったご主人さまたちの魔法をといて、眠りから覚まさせた。
馬車を降りて、目の前に広がる花畑に驚いていた。
「わあ……すごい!お花がいっぱい!」
リリアナが目を輝かせて、我先にと花畑に向かって走って行く。
「あっ、待ってよ、リリィ!」
ランディスも慌ててリリアナの後を追いかけた。
「こらこら、すぐにお弁当を食べるんだから、あんまり遠くに行くんじゃないぞ?」
ご主人さまが子どもたちに声を張り上げる。はあ~い、と既にかなり離れたところから、ランディスとリリアナが返事を返した。
「本当にきれいだ……。」
ご主人さまがそう言って、あちしを見てほほ笑む。素敵な一日になりそうで、あちしも満足ニャ!
憧れのお弁当は、それはもう、とっても、とっても、美味しかったのニャ。
子どもたちとかくれんぼをしようということになり、森の中で隠れた子どもたちをあちしは探した。
でもその時、ついつい猫又に戻りそうになった。
強い魔法を使うと、反動で人間の姿をたもつのが難しくなるのニャ。
おまけに猫又の本能が強くなる。
急に高いところに登りたくなったりするのだ。思わず猫又の姿で一気に大木の上に駆けあがった。高いところは気持ちがいいのニャ。
ついでにランディスとリリアナを猫又の目で高いところから探した。
暗いところでも遠くまで見渡せるあちしの目にかかれば、隠れてる人間を探すのなんておちゃのこさいさいニャ。
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