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死亡扱いの最強冒険者、13歳の姪として再登録しました 〜“故人”のままバレずに現役復帰します〜  作者: 猫が寝転んだ
第二章 傷跡の残る森

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第七話 見えない戦場

お待たせ?いたしました。

連載を再開させていただきます。


今後、毎週土曜日12時10分に更新していく予定です。


たくさんの誤字報告ありがとうございます。

今後とも宜しくご愛読願います。

 翌朝、クルドの街は相変わらず慌ただしかった。


 復興作業は軌道に乗りつつあるが、それは“落ち着いた”という意味ではない。むしろ人と金が流れ込んでいるぶん、以前より雑多で騒がしい空気すらある。


 アタシは冒険者装備の上からフード付きの外衣を羽織り、その喧騒の中をギルドへ向かって歩いていた。フードの中では、ムササビが当然のように丸くなって居座っている。


 今日の目的は従魔登録――


 このムササビみたいなやつが、完全に住み着いてしまった以上、今さら他人のふりをするのも無理だった。

 せめて、形式だけでも整えておく必要があるだろう。


「朝から人多いな……」


 そう呟いた直後だった。


「おい、そこのガキ」


 しゃがれた声が横から飛んできた。


 振り向くと、復興景気に紛れて流れ込んできたらしい、柄の悪い冒険者風の男たちが三人。装備はそれなりだが、動きに無駄が多い。経験が浅いか、ただの寄せ集めだろう。


「ギルド行くんだろ? その前にちょっと付き合えよ」


 酒臭い息を吐きながら、男がにじり寄ってくる。


 典型的な絡み方だった。


 復興で流れ込んできた連中は、どこでも同じだ。まず“弱そうな相手”を測り、「軽く脅せば金か情報が取れる」程度のことしか考えていない。


 ため息が出る。どうせコイツらもその類のチンピラだろう。


「悪いね、忙しいんだ」


「あ? ガキが冒険者気取りか?」


 男の一人が一歩踏み出した瞬間、足元の風がわずかに乱れた。

 踏み出した感覚だけがほんの一瞬、噛み合わない。


 男は自分でバランスを崩し、隣の仲間にぶつかる。そのままもつれるように倒れた。


「……あ?」


「昨夜の酒でも残ってるんじゃない?」


 マキはそれだけ言うと、興味を失ったように歩き出した。


 男たちは一瞬動けず、その背中を見送ることになる。


 その場にいた別の冒険者たちは、小さく息を呑んでいた。


「……今の、多分マキがやったんだよな?」


「さあな……まあ、あいつに絡むのは、だいたい新顔か馬鹿だ」


 そんな声が背後で聞こえた。 


 まあ、たぶんその両方だ――

 そう思ったが、あいにくもう興味はなかった。




 その頃、ギルド本館の上階では、復興の喧騒から切り離された空気が流れていた。


 依頼窓口や酒場が冒険者たちの喧騒で賑わう一方、本館上階では街の今後を左右する話し合いが行われている。


 オーガ軍団襲撃から三ヶ月近く。 街の復興は進みつつあったが、片付いていない問題は山ほど残っていた。


 その一つが、森の異変である。


 分厚い木扉の向こうにある会議室。 長机を囲むのは、ギルドマスター、副ギルドマスター、ライアン、そしてクルドの主要クラン代表たち。


 窓から差し込む朝の光は明るい。     

 だが、その場にいる誰の表情にも余裕はなかった。


 議題はひとつ――

 クルド周辺の異常事態についてだった。


「森の魔物増加は止まっていません」


 副ギルマスが地図を叩いて続けた。


「オーガとオークの連合がどこからやってきたのかも、依然として特定できていません」


 ライアンが腕を組みながらいう。


「普通なら、あの規模の異種の魔物は縄張り争いを始める。連携して動くなんてあり得ない」


「――だが現実に起きた」


 ギルドマスターの声は重い。


「たまたま、かち合ったんじゃないのか?」


 中堅クラン《蒼き雷鎚》の代表が意見を述べた、


「たまたまにしては、タイミングが良すぎる」


「そもそも東西へ分かれて攻めてきた時点で不自然だ」


「偶然なら、オーガキングが倒された途端、オーク軍団が撤退した理由がつかん」


 誰もが異常だとは思っている。 だが、その理由を説明できる者はいなかった。


 会議室を重い沈黙が包んだ。


 現時点で答えが出ないことは、この場の誰もが分かっていた。


 やがて話題は自然と、あの日の襲撃へと移っていった。


「東門の対応は混乱していた。避難誘導と防衛が同時に発生したせいで、指揮が分断された」


「西門側も同様だ。救援に向かおうとした時には、東門から引き返してきた避難住民が押し寄せてきて、まともに動けなかった」


 それを聞いていたライアンが低く続ける。


「それでも私が着いた時、第二次防衛線は機能していた――」


 会議室の視線が集まる。


「仮防壁の配置、人員の振り分け、負傷者の後送。どれも場当たり的とは思えなかった。統率も最後まで崩れていない」


「誰が指示したんだ?」


 誰かが呟く。


「ギルドじゃない」


 ギルドマスターが即座に首を振った。


「当時は避難民の混乱を抑えるので手一杯だった」


「衛兵団でもないな」


 衛兵団との連絡役を務めていた男が言う。


「補給要員を残して、主力は西門へ投入されていた」


「もちろんクラン連合でもない」


 ライアンも否定した。


 会議室が静まり返る。


 「あの時、現場にいた者たちにも確認した」


 副ギルドマスターが資料をめくる。


「全員、『誰かの指示する声が聞こえた』とは証言している」


「誰か?」


「そこが問題だ」


 副ギルドマスターは肩を竦めた。


「現場指揮を執っていたB級冒険者だと思ったらしい」


「らしい?」


「名前を挙げてもらうと、全員の証言が違っている」


 会議室が静まり返った。


「ある者はベルドと言った。ある者はガレスだと言った。別の者はミリアだ」


「ベルドは、その時間は西門で戦っていたぞ」


「ガレスは避難住民に揉みくちゃにされながら誘導していたな」


「最後は子供を肩車してたぞ」


「ミリアは……まあ、そんな面倒な役を買う性格じゃないな」


「ミリアは……ないな」


「ないな」


「絶対にない」


 数人が苦笑する。


「……つまり、誰が指示していたのか分からんということだ」


 その結論を否定できる者はいなかった。


 何とも言えない沈黙が落ちる――


 あの第二次防衛線は確かに存在した。

 だが、それを構築した人物だけが、最後まで見つかっていなかった。




 その頃、ギルドの酒場では別の騒ぎが起きていた。


「だからよぉぉ! ガキが〜調子ん乗んなって話だろ〜!」

「もう、呑めね――」

「根性なし!もう終わりかー」


 呂律の回らない叫び声と囃し立てる声が混ざる中、ギルド酒場の前を通りかかったライアンは足を止めた。


 ちなみに、酒場に扉はない。どこのギルドでも大体そうだ。


 諸説あるが、酔っぱらい同士の喧嘩で頻繁に壊されるため、頭にきた創業時の初代ギルマスに叩き壊わされてからだ…という説が最も有力視されている。


「……何してるんだ?」


 視線の先には、テーブルに堂々と座るマキの姿があった。


 その周囲には、見覚えのある柄の悪い冒険者たちが転がっている。

 机に突っ伏し、完全に意識を失っている者もいる。


「ナタリー、これは……?」


 受付嬢は肩をすくめる。


「飲み比べです」


「飲み比べ?」


「絡まれたと思ったら、いつの間にかそうなってました」


 ナタリーは転がる男たちを見る。


「――で、結果がこれです」


 ライアンは数秒黙った。


「……何故そうなる」


 視線の先には、マキがジョッキを片手に上機嫌で笑って、給仕に声をかけていた。


「ここの支払い?」


 マキは転がる男たちを指差した。


「そこの連中が支払うってさ」


「いや、意識ないですよ?」


「じゃあ起きたら請求しといて」


「おい――」


 ライアンは額を押さえながら近づく。



「お前、何をやってるんだ……」


「あ? 別に。ちょっと遊んでやってただけだよ」


「お前まだ十三だろ。飲酒は――」


「水みたいなもんだよ、こんなの」


「断じて違う!」


 即答だった――


 ライアンはテーブルの下へ視線を向ける。転がっているのは強い蒸留酒の瓶だ。水どころの話ではない。


 ドワーフでもなければ、そうそう平然と飲める代物ではなかった。


 だが、マキはまるで気にした様子もない。

 ライアンの視線を受け流しながら、ジョッキに残った酒を一気に煽る。


 実際のところ、マキは体内へ入った酒を片端から解毒しているだけだった。


 本人の感覚では、ほとんど水と変わらない。


 もっとも、完全ではないらしい。


 頬はわずかに緩み、機嫌も普段よりかなり良かった。

 鼻歌混じりにフードへ手を伸ばし、中からちょこんと顔を出した小さな生き物へ木の実を与える。


 灰色の毛並み。

 ムササビによく似た魔獣だった。


「それ……何だ?」


 ライアンが目を細める。


「今日の用事」


「用事?」


 その瞬間、マキは何かを思い出したように立ち上がった。


「――あ、そうだ」


 ジョッキを置き、そのまま受付へ向かう。


 ライアンは首を傾げた。


「おい、どこへ行く」


「どこって、これ――」


 受付カウンターの上に置かれていた書類を一枚手に取り、ひらひらと振る。


 ナタリーが苦笑する。


「従魔登録ですよ」


「ああ……それで来ていたのか」


 ようやく納得がいった。


 マキは最初からその手続きのためにギルドへ来ていたのだ。


 そこへ例の連中が絡み、何故か飲み比べになり、何故か全員返り討ちにされた。

 経緯は相変わらず理解できなかったが。


 ライアンは酔いつぶれた連中に視線を送り、なにやら考え込んでいた。

 その間に、書類の必要事項を埋めていたマキの手が止まる。


 ――名前を書く欄。

 

「……」


 全く考えていなかった。


 フードから出て受付カウンターに座り込んでいたムササビと目を合わす。


「お前、名前あるのか?」


 ムササビに聞いてどうする――


 マキとムササビを、見守っていた全員の心のツッコミが重なった。


「う〜〜〜ん………」


 頭を掻きながら、唸り声を上げて考え込む。


 ムササビは不思議そうに首を傾げていた。


 くりくりとした丸い目。

 茶色がかった灰色の毛並み。


 ――その顔を見た瞬間。


 マキの脳裏に、ひとりの少年が浮かんだ。


 遠い記憶だった……


 まだ仲間たちとクラン《翼》を立ち上げたばかりの頃。


 ライアンと一緒になって森を駆け回り、毎日のように叱られていた茶色い髪の小さな男の子。


 無茶をして、無茶をして――そして、いなくなった……守ってやれなかったたった七つの男の子。


「……バーツ」


 気がつくと、ペンが動いていた。


 ライアンが眉をひそめる。


「なんで…その名前を?」


「……幼馴染の子に似てたからかな」


 マキはそれだけ言うと、視線を外した。

 ライアンは何か言いかけて、やめる。


「……そうか」


 それ以上は踏み込まなかった。

 

 ――バーツ。


 その名前を聞くのは久しぶりだった。

 あの日から、誰も口にしなくなった名前だったからだ。


 言われてみれば、くりくりとした目元や人懐こい雰囲気は、自分の知るバーツにも少し似ている。


 だが、それはただの偶然だろう。


 マキの口にした幼馴染と、自分の知るバーツが同一人物であるはずがないのだから。




 従魔登録は淡々と終わった。

 ムササビは当然のようにマキの肩へ乗る。


「お前、本当に落ち着きがないな」


 同じ名前を付けたからといって、そんなところまで似なくていいだろうに。


 マキは小さくため息をついた。


 ふと視線を上げる――


 ライアンは次の打ち合わせへ向かうらしく、足早にギルドの奥へ消えていった。


 その背中を見送りながら、マキは額を押さえる。


「……あぶねーあぶねー」


 思わず口から出た名前だった。


 ライアンの様子を見る限り、特に気にした風ではなかった。


 だが、あいつにとってもバーツは忘れられる名前じゃない。

 わざわざ掘り返すような話でもなかっただろう。


「……少し迂闊だったか」


 十秒ほど反省する。


「……ま、なんとかなるさ」


 そう言ってギルドの外へ出ると、街はいつも通り動いていた。


 人がいて、声があって、生活がある。


 復興作業の音や商人の呼び込み。

 そして、子供たちの笑い声。


 オーガ襲撃の傷跡はまだ残っている。

 それでも街は前を向いていた。


 クルドの日常は、少しずつ戻り始めている。


 だが、その一方で――

 森のざわめきは、まだ消えていなかった。


 あの日の異変が何だったのか。

 何故あれほどの魔物が街へ押し寄せたのか。


 その答えを知る者は、まだ誰もいない。


 ただ一つ変わったことがあるとすれば――


 マキの肩の上に、小さな重みが増えたということだけだった

お読みいただきありがとうございました。

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