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死亡扱いの最強冒険者、13歳の姪として再登録しました 〜“故人”のままバレずに現役復帰します〜  作者: 猫が寝転んだ
第二章 傷跡の残る森

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第六話 一匹増えた日常

追記:6月6日12時10分 次回更新予定です。

 アタシは足音を殺しながら、反応のあった方向へ近づいていった。


 探知へ映る気配はかなり小さい。


 大型魔物どころか、小型魔物よりさらに弱いくらいだった。


 だが、その反応には妙な違和感がある。

 魔力の流れが不安定なのだ。

 弱った生き物特有の乱れ方だった。


「怪我か……?」


 木々の隙間を抜けた先で、小さな影が視界へ入る。


 倒木の根元――


 そこに、灰色の毛並みをした生き物がうずくまっていた。


 見た目は羽膜のついたムササビに近い。ただ、普通のムササビより一回りほど大きく、尻尾も長い。

 右前脚の辺りは赤く染まり、どうやら怪我をしているらしかった。


「……あっ」


 その瞬間、アタシの脳裏へ嫌な可能性がよぎる。


 ついさっきまで、風刃の精度調整をしていた。

 もし流れた風刃がこいつを巻き込んでいたのだとしたら、さすがに洒落にならない。


 アタシは慌てて周囲へ視線を走らせた。


 木々に不自然な切断痕はない。


 風刃特有の裂傷跡も見当たらず、周囲へ残った魔力の流れにも違和感はなかった。


 傷の状態も、鋭く断ち切られたものではなく、獣に引っかかれたような裂傷に近い。


「……アタシのせいじゃない――か」


 アタシは小さく息を吐いた。


 ムササビのような生き物は、こちらへ気づくとびくりと身体を震わせた。


 ただ、逃げ出そうとはしない。

 いや、正確には逃げられないのだろう。探知で魔力の流れを読む限り、かなり消耗している。


 おそらく他の魔物に襲われたのだ。


 本来なら、森じゃ珍しくもない光景だった。


 弱った生き物は死ぬ――それだけの話である。


 わざわざ手を貸す義理もない。


 ――ない、のだが………


 目の前でぷるぷると震えている姿を見ると、どうにも放っておく気になれなかった。


「……しゃーないな」


 アタシは指先へ淡い治癒魔法を灯した。


 本格的な治療術式ではない。

 傷口の再生を促進し、出血を抑える程度の簡易治癒だ。


 緑色の光が傷口へ染み込んでいくと、ムササビ型生物の身体が小さく震える。

 裂けていた皮膚がゆっくり塞がり、乱れていた魔力の流れも少しずつ安定していった。


 完全に治ったわけではないが、これなら動けるはずだった。


「ほら。もう平気だろ」


 アタシは手を離す――


 本来なら、この手の小動物は治療された瞬間に逃げていく。


 だが、目の前の生き物は違った。


「……なんだ?」


 丸い目で、じっとアタシを見上げている。


 警戒心そのものは残っている。

 それなのに、不思議と離れていこうとしなかった。


 アタシが立ち上がると、向こうも慌てたように後を追ってくる。


「おいおい……」


 枝から枝へ飛び移りながら、ぴったりついてきた。


 最初は偶然かと思った――

 だが、どうもそうではないらしい。


 アタシが立ち止まれば止まり、歩けばついてくる。


「……懐かれた?」


 思わずそんな言葉が漏れる。


 なんでだ――


 いや、治療したからか?


 魔物や獣の中には、助けられた相手へ執着する個体もいるとは聞く。

 もっとも、従魔でもない生き物がここまで露骨についてくるのは珍しかった。


 結局その日は、森を出て街へ戻るまで、そいつはずっとアタシの後ろをついてきた。


 そして翌朝――


「…………」


 家の扉を開けた瞬間、アタシは思わず動きを止めた。


 昨日のムササビが、軒先で丸くなっていたのである。

 朝日に照らされながら、ちょこんと座ったままこちらを見上げていた。


「なんでいるんだよ」


 声をかけると、嬉しそうに尻尾を揺らす。


 ……いや、本当に何しに来た。


 追い払うのも変な話だったので、アタシはとりあえず木の実を一つ放ってやる。


 すると、ムササビは器用に前脚で抱え込み、その場で一生懸命かじり始めた。


「お前、完全に住み着く気か?」


 返事をするように、くるる、と小さく鳴く。


 それから数日――


 気づけば、そいつは毎朝軒先へ現れ、当然のように木の実をせしめていくようになっていた。


 昼間は日当たりのいい場所で勝手に丸くなっており、夕方、アタシが森から戻れば軒先まで迎えに来る。


 夜は森で餌でも狩っているのか、姿が見えないことも多かった。


 もっとも、完全な夜行性というわけでもないらしい。


 昼間に窓を開けていると、いつの間にか家へ入り込み、興味津々といった様子で部屋の中をあちこち歩き回っていることもある。


 陽の光をたっぷり吸い込んだ洗濯物の上で、気持ちよさそうに丸くなって寝ていた時は、さすがに少し笑ってしまった。


 野生の警戒心はどこに行ったんだろう。


「……ったく」


 アタシは呆れ半分に息を吐きながら、木の実を手渡した。


 クラン時代は、いつも周囲に誰かがいた。


 騒がしい連中がいて、依頼があって、揉め事があって、酒場で馬鹿騒ぎして――


 一人になる時間なんて、ほとんどなかった。


 だから、今さらだった――


 一人暮らしなんて慣れていると思っていた。


 けれど……


 こうして誰か――いや、一匹か――がいるだけで、家の空気が少し変わる。


 帰ってきた時、物音がする。

 視線がある。

 何か動けば、それに反応する気配が返ってくる。


 クラン時代には当たり前だったそんな感覚が、今さら妙に新鮮だった。


 一人暮らしには慣れていると思っていたのに、人の気配がない生活というのは、思っていた以上に静かだったらしい。


「……お前、アタシの従魔になるかい」


 半分冗談だった――


 軽い気持ちで、アタシは指先へ魔力を灯す。


 本格的な契約術式ではない。

 簡易的な同調確認のつもりだった。


 だが。

 ムササビは迷わなかった。


 小さな身体を寄せ、アタシの指先へ頬を擦りつける。


 次の瞬間、魔力が一気に引き込まれた。


「うわっ!?」


 身体の奥から、ごっそり魔力を持っていかれる感覚が走った。


 思わず足元がふらつく。

 同時に、眩い光が部屋の中へ広がった。


「ちょ、待っ……!」


 アタシが止める間もなく、契約術式が勝手に完成していく。


 光が収まった頃には、全身からどっと疲労感が押し寄せていた。


 アタシは壁へ手をつきながら、大きく息を吐く。


「テイムって……こんなに魔力食うのか……?」


 予想していた消耗量を遥かに超えていた。

 少なくとも、アタシが知っている簡易契約の範囲ではない。


 ただ、突然のことで頭が追いつかない。


 契約が成立したことと、想定外の魔力消費に気を取られ、その時のアタシは別の違和感へまでは意識が回らなかった。


 目の前のムササビの瞳へ、一瞬だけ、人間のような強い知性の光が宿っていたことに。

お読みいただきありがとうございました。

面白いと思われたら、ブックマーク、評価、リアクション等よろしくお願いします。

作者の励みになります。


追記:6月6日12時10分 次回更新予定です。

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